アメリカの政府機関閉鎖は11月4日に過去最長の35日になり、現時点でその記録を更新し続けています。案外知っているようで知らないこの問題、少し覗いてみましょう。
トランプ大統領 ホワイトハウスXより
まず、年中聞こえてくる債務上限問題や政府機関閉鎖問題のそもそもの話とは何でしょうか?これは1917年に国債上限法が定められたところまでさかのぼります。ここが始まりです。1917年といえばピンとくると思いますが、第一次世界大戦の最中でアメリカは戦費調達のため、多額の国債を発行してきました。ところがこの無尽蔵な国債発行に「ちょっと待てよ!そんなに使っていたら我が国の財政はボロボロになる」と歯止めがかかります。これが正式には第二次自由国債法(Second Liberty Bond Act of 1917)と称されるものでこれ以降、国債発行の上限が定められ、無節操、無計画、無謀な借金はしにくくなり、議会が財布の紐を握ることになったのです。
この今から100年以上前に設定された法律は理念的には正しく、時の政府による暴走を食い止めることができますが、一方で与党の政策において思い切った施策ができないという弱点も出てしまいます。それとこれは私の個人的な感想ですが、人間の心理的に国債発行上限=借金してよい金額=使ってよい金額という解釈になり、借金が前提になりやすい政府行動と国民期待になるとも言えるのです。ドイツのような厳格な財政政策の思想とはかけ離れているし、カナダでも政府や州レベルでの予算に対して大幅な赤字見込みとなることは時として市民論争に発展するほど「財務バランス」に対する市民の関心の度合いは高いのです。
この債務上限問題、近年特に揉める頻度が高くなっており、暫定的合意とか妥協、短期的延長といったギリギリの綱渡りとなっている背景は共和党と民衆党のポリシーの相違が明白に出ているからです。それぞれの主義主張だけを聞いていれば「これ、どうやって妥結するのかね?」という状況にあると言えます。
今回の双方の争点はオバマケアの補助金問題です。これは25年末に税額控除の期限が切れてしまうため、民主党はその延長を絶対に譲れない一線としているのです。ところが共和党、その後ろにいるトランプ大統領は「ふん、そんなもの、延長するもんか!」という姿勢であるため、本質的な妥協点が見いだせないのです。
一方、オバマケアは今やアメリカ国民生活のアンダーレイ(下地)のようなもので共和党支持者だろうが、民主党支持者だろうがなくてはならないものなのです。事実、トランプ氏は第一期の時、大っ嫌いなこのオバマケア潰しを企てましたが、代替案が出来ず、失敗に終わっています。今でも共和党は「我々が新しいプログラムを作る」と豪語していますが、共和党が民主的な施策をするとはペットの犬ですら信じていません。
ブルームバーグによると世論調査では成人の74%がオバマケアを支持し、うち、共和党支持層でも過半数越え、民主党支持層に至っては94%が補助金延長を支持しているそうです。とすれば、今の議会は国民世論とは違う次元、つまり一部の議員や大統領だけが違うことをしようとしているとも取れるのです。
ただ不思議なことに「現在の政府機関閉鎖の責任は誰にあるか」という問いにはトランプ氏と共和党に非があるとしたのが52%、民主党としたのが42%になっています。思ったほど差が出ていないのはなぜかといえばプロパガンダであろうと察します。つまりアメリカではオールドメディアがニューメディア化しており、国民の情報ソースが二分化してしまい、考え、判断するという行為が省略され、心地よい報道やSNSにストレス発散するがごとく、なびいて行くという構図を見て取っています。
議会は超党派などで妥結案を考えていますが、そのプレッシャーは自宅待機している政府機関職員であり、国民であり、世論のプレッシャーなのだろうと思います。本来であれば24時間不眠不休で国民のため、政府の職員のため、そして国を護る軍人のためにも対応しなくてはいけないのですが、毎度の政府上限問題で「慣れてしまった」ような感すらあります。
こんなアメリカを国境から50キロ離れた隣国で眺めていると「夢も希望もあったもんじゃないな」という気がします。話は飛びますが、カナダが先週、新年度予算を発表しましたが、その中の移民政策の中に「アメリカのH1-Bビザ取得者をカナダで積極的に受け入れる」と表明しています。このビザはご記憶にある通り申請企業が1500万円(10万㌦)払わねばならないということで話題になった高度な能力を持った人のビザです。
中道左派が強いカナダがアメリカの頭脳の受け皿になったらなったで面白い展開なのでしょう。 一つ言えることは人の移動は一定の制約があるとはいえ、魅力ある国に人は流れやすいということはアメリカ政府が肝に銘じる必要があるでしょう。こんなチキンゲームをし続けていてはアメリカも過去の栄光話に一つに葬り去られてしまいます。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2025年11月10日の記事より転載させていただきました。