12月から日本のiPhoneで詐欺が増える理由

黒坂岳央です。

2025年12月に施行されるスマートフォンソフトウェア競争促進法、いわゆる「スマホ新法」で業界が大きく揺れている。この法案で一部、日本のiPhoneユーザーの利便性の低下やセキュリティリスクの増大という「負」の形で現れる可能性があるのだ。

本稿は危機を煽りたいわけでも、国家の法案可決を批判したいわけでもない。あくまで法案可決で起きる「副作用」への注意喚起をする意図を持って書かれた。

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国がスマホ新法を通す理由

日本におけるスマホ新法は、EUで先行したデジタル市場法(DMA)の日本版とも言える法律である。

AppleやGoogleといった巨大プラットフォーマーが、OSやアプリストアを独占している状況を是正し、競争を促すのが主な目的だ。独占禁止法が所管している点からも、その意図は明らかである。

規制の焦点は以下の3点に集約される。

1つ目はアプリストアの選択肢の義務化だ。App Store以外のサードパーティ製アプリストアの利用や、ストアを経由しないアプリのインストールを容認することである。

2つ目は決済システムの選択肢の義務化だ。アプリ内課金において、Appleの決済システム(いわゆるApple税)を経由せず、開発者が直接ユーザーと取引できる代替決済システムを提供する選択肢を設けること。

そして3つ目は連携機能の解放である。Apple製品同士でシームレスに機能する連携技術(AirPodsの接続、デバイス間連携など)を、他社デバイスにも利用可能とすることだ。

政府の思惑は、この規制を通じて、アプリ開発者のコスト負担(Apple税)を軽減し、日本のデジタル経済におけるイノベーションと自由競争を活性化させることにある。

ネットでは「政府が他国の圧力によって、詐欺をやりやすくする片棒を担いている」などと陰謀論が流ているがそんなわけがない。あくまで遅れている我が国のデジタル経済の活性化が根底にあるのは明白だ。

ただ、どんな法案もいい面があれば必ず、セットとしてその副作用として悪い面も出てしまうものだ。本稿で注意喚起したいのはこの点にある。

ユーザーが直面する三つの「副作用」

我が国に先行してDMAが適用されたEUでは、競争促進とは別の、ユーザー体験のマイナス面が露呈している。Appleが規制に対抗する策を講じた結果、日本のユーザーが直面する可能性のある副作用は以下の三つである。

1つ目はセキュリティだ。これまでiPhoneユーザーは、詐欺やウイルスアプリが入らないようにAppleが強固に保護していた。同社はリリースされるアプリを入念に調査し、お墨付きをもらったものだけをユーザーは使えていた。悪く言えば使用できるアプリに制限があり、よく言えば危険なアプリは入らないようになっていたわけだ。

しかし、今回の法案を機に「Apple Store」以外から入るアプリはセキュリティの懸念が生まれる。もちろん、Apple Storeからダウンロード出来るアプリはこれまで通り安全だが、SNSなどで詐欺業者に誘導され、「このアプリを入れてください」と促されるものはセキュリティの保証などはない。

2つ目は機能制限だ。Appleは、機能を外部に解放すればセキュリティ保護のレベルを維持できないという大義名分のもと、機能を他社に解放する代わりに、EU圏限定で機能そのものを制限・停止する策に出た。 具体的には、Mac上でのiPhone遠隔操作機能(ミラーリング)や、新しいAI機能「Apple Intelligence」の一部機能がEUでは利用開始が見送られている。

日本でも今後、Apple製品同士のシームレスな連携機能が、法規制への対抗策として利用制限の対象となる可能性は残る。もしそうなれば、iPhoneの大きな魅力であった「連携による利便性」が失われることになる。

3つ目はサポートの質の低下である。代替決済システムの義務化により、アプリ開発者は「Apple税」を回避でき、その分、ユーザーへの課金価格が安くなる可能性がある。これは朗報である。

しかし、同時に「サポートの質の低下」というリスクを負う。これまでAppleを通じて課金した場合、子供の誤課金やアイテムが届かないといったトラブルの際、Appleが即座に返金や対応をしてくれる「神サポート」が存在した。

代替決済を選んだ場合、サポート窓口はアプリ開発者側に移る。その際、解約手続きが煩雑になったり、返金要求が通らなかったりといったトラブルが起こる可能性は無視できない。安さとサポートの質のトレードオフが発生するのだ。

12月からiPhoneユーザーは詐欺に注意

これまで、一般ユーザーは「セキュリティとか詳しいことはよくわからないから、とりあえず安全なiPhone」という判断基準でデバイスを選択していた人も多かったと思う。「Androidはガジェットマニア向け、iPhoneは初心者向け」といったざっくりとした構図は、Appleの厳格な管理体制によって支えられてきた側面が大きい。

しかし、今回の法改正で、ユーザー側にもITリテラシーの向上が強く求められる。「よくわからないから難しいことはメーカー任せ」という態度では安全圏に居続けるのは難しい時代になって来たということだ。

12月からユーザーは何を意識すればいいか?端的にいえば、今後、アプリは「本体のApple Store」からのみに徹底することだ。最も重要な自己防衛策は、アプリは必ずiPhone本体にプリインストールされているApple Storeからのみインストールすることである。

ITリテラシーに自信がないユーザーほど、SNSやウェブサイトから「このアプリを入れてください」と誘導されても決して応じてはならない。

これまで、一般ユーザーは「スマホのセキュリティとか詳しいことはよくわからないから、とりあえず安全なiPhone」という判断基準でデバイスを選択していた人も多かったと思う。

「Androidはガジェットマニア向け、iPhoneは初心者向け」といったざっくりとした構図は、Appleの厳格な管理体制によって支えられてきた側面が大きい。

しかし、今回の法改正で、ユーザー側にもITリテラシーの向上が強く求められる。もう「よくわからないから難しいことはメーカーやショップ任せ」という態度では安全圏に居続けるのは難しい時代になって来たということだ。

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なめてくるバカを黙らせる技術」(著:黒坂岳央)

働き方・キャリア・AI時代の生き方を語る著者・解説者
著書4冊/英語系YouTuber登録者5万人。TBS『THE TIME』など各種メディアで、働き方・キャリア戦略・英語学習・AI時代の社会変化を分かりやすく解説。