セルフレジの精算漏れで警察に捕まった話が怖すぎる

黒坂岳央です。

昨今、Xで「セルフレジでの精算忘れで警察に捕まった」という投稿が大きな反響を呼んでいる。

多くの店舗でセルフレジが導入される中、この問題は「他人事」ではなくなりつつある。Xのリプライや引用では「考え事してうっかり忘れ事例」が多くシェアされている。

大量の買い物や疲労時に精算を一つ通し忘れることは誰にでも起こり得るヒューマンエラーである。この「うっかり忘れ」が、店側から見れば「確信犯による言い逃れ」と区別がつかず、結果として窃盗罪として扱われる可能性があるという現実が、多くの消費者の間で不安を呼んでいる。

下手すると警察に捕まりかねないセルフレジのミス。我々はどう対処すべきか?

Yagi-Studio/iStock

セルフレジは急速に拡大している

現在、セルフレジは全国規模で拡大している

● 2018年度
POSシステム総出荷台数:約22万台
セルフレジ比率:10%未満
→普及初期段階

● 2021年度
POSシステム総出荷台数:約24万台
セルフレジ比率:約20%
→コロナ禍で導入加速

● 2022年度
POSシステム総出荷台数:約20万台
セルフレジ比率:25%超
→比率が顕著に増加

出典: 一般社団法人情報処理推進機構(IPA)や主要POSベンダーの出荷統計データ(市場調査結果より抜粋)

このデータから、全体の出荷台数は年によって変動があるものの、その中でセルフレジが占める割合は年々顕著に増加しており、小売業の標準装備化が進んでいることが分かる。

地方都市を含む多くの小売店でセルフレジが急速に増加している背景には、少子高齢化による人手不足の深刻化と、運営コストの削減という小売業側の切実な事情が存在する。これは、企業が生き残るためのDXの一環であり、時代の流れとして抗うことは難しい。

店舗と消費者の間のジレンマ

店舗側の立場から見ると、精算忘れをすべて「うっかり」と見なすことはできないというジレンマがある。万引きによる被害は年間を通じて甚大であり、利益率の低い小売業にとっては大きな打撃となる。

発見時に「忘れていました」と釈明する客の中に、実際に盗むつもりであった確信犯が混じっている可能性は排除できない。店側は、防犯カメラの映像などから「盗む意思」があったかどうかを客観的な証拠に基づいて判断する必要があるが、その区別は極めて困難である。

したがって、店舗は自衛のために、たとえ「うっかり」に見えても厳格な姿勢を取らざるを得ないのが現実である。

一方で、消費者は、利便性の享受と引き換えに、犯罪者として疑われるリスクを負っていることに不満を抱く。

特に問題となるのは、精算後に「うっかり」レシートを捨ててしまった場合である。後日、警察や店舗から連絡があった際、レシートという「購入の証明」がないと、購入時が「忘れていた状態」だったのか、「盗む意思があった状態」だったのかを立証することが非常に難しくなる。

日本の刑法では「故意」の立証が必要であるが、防犯カメラの映像で精算していないことが確認できれば、状況証拠から「盗む意思があった」と判断される危険性が高まるのである。

AIレジの導入を

消費者を「うっかり万引き」のリスクから守り、店側の負担を軽減する鍵はAIとIoT技術の活用しかないだろう。

画像認識AIにより、セルフレジ周辺に設置されたAIカメラが、スキャンされていない商品がカゴから出ていないかをリアルタイムで検知し、未精算の疑いがある場合は即座にアラートを出すシステムの導入する。

また、重量センサーとの連動でカゴや袋の重量を常に測定し、スキャンされた商品の総重量と差異がある場合に精算をストップさせるシステムの義務化を行う。

さらに、RFID(電子タグ)の活用ですべての商品に電子タグを付与し、ゲートを通過するだけで一括精算が完了する「ウォークスルー型」の店舗普及を加速させる。

これらの技術は、人の監視や性善説に頼ることなく、ミスや不正を自動的に防ぐ「性悪説に基づかない安全なシステム」を提供する。

だが、実装の難易度はすさまじい。特にスーパーのように多種多様な商品を取り扱う小売店では、AI学習やタグの導入コストが膨大になり、完全なシステム構築は現実的ではないだろう。事実、海外で始まった「無人店舗」も、コストや技術的な課題から有人店舗に戻った事例も報告されている。

セルフレジの普及は、社会全体の効率を高める上で不可避の流れである。しかし、この便利さが、善良な市民を「うっかり犯罪者」の危うい立場に追い込む問題がある。

セブンイレブンで導入しているセミセルフは折衷案として素晴らしいが、人口減少が続けばそれも維持が難しい。現時点での即時抜本解決は難しいので、テクノロジーの進展を待ちたいところだ。

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なめてくるバカを黙らせる技術」(著:黒坂岳央)

働き方・キャリア・AI時代の生き方を語る著者・解説者
著書4冊/英語系YouTuber登録者5万人。TBS『THE TIME』など各種メディアで、働き方・キャリア戦略・英語学習・AI時代の社会変化を分かりやすく解説。