MicroStockHub/iStock
2025年秋、高市早苗政権が誕生した。
「責任ある積極財政」という掲げられたスローガンのもと、政府は再び“積極財政”へと舵を切りつつある。
防衛・エネルギー・科学技術投資への公的支出は拡大基調にあり、経済全体としても「物価上昇を容認する成長路線」が定着し始めた。
一方で、金融政策も転換期を迎えている。日本銀行は2024年3月に長短金利操作(YCC)を撤廃し、10年国債利回りは0.6%から直近では1.7%近くまで上昇。国債市場の正常化を目指す動きの裏側で、長らく続いた“超低金利の時代”が静かに終焉を迎えつつある。
物価高・建築費高騰・地価上昇の連鎖
この2〜3年で不動産業界を取り巻くコスト構造は大きく変わった。円安と資材価格の高止まりにより、鉄骨・コンクリート・人件費などの建築費はコロナ禍前比で20〜30%上昇。
ゼネコン各社の工事採算も厳しく、中野サンプラザをはじめ複数の大型開発案件の見直し・延期が相次いでいる。
一方で、都心部の地価は下がる気配を見せない。再開発需要・富裕層の資金流入・海外投資家の参入が相まって、特に港区・渋谷区・中央区では商業地・住宅地ともに上昇基調を維持。東京の地価公示平均は住宅地・商業地ともに4年連続で上昇しており、仙台・大阪・福岡などの中核都市にも波及している。
東京ビジネス地区のテナントビル賃料も前年同月比5%以上上昇し、オフィス空室率も3%を下回る水準まで低下。また住宅市場でも東京23区の中古マンションの平均価格は1億円を超えるようになった。
こうした“金利高・建築コスト高・地価上昇”の三重構造は、実物資産としての不動産価値を押し上げる一方で、借入コスト上昇という新たなリスクを生み出している。
金利上昇は「不動産の敵」か、それとも「再評価の契機」か
金利上昇局面では、確かに借入依存型の投資家にとって逆風だ。ローン返済負担の増加はキャッシュフローを圧迫し、収益還元法による物件評価を押し下げる要因となる。
しかし、インフレ下では不動産の“実物資産としての強さ”が際立つ。賃料や物件価格が物価上昇と連動しやすく、長期的には「通貨価値の減価に強い資産」として機関投資家や富裕層からの再注目が進んでいる。
特に国内外の長期マネーは、日本の不動産市場を「実質金利が依然として低い安全資産」と見ている。欧米では政策金利が一時5%前後に達し、キャッシュフローが悪化した不動産ファンドが整理局面に入っている一方で、日本では金利差・通貨安の両面から依然として投資妙味が残る。
したがって、金利上昇は「リスク」でもあり「再評価のトリガー」でもある。問題は、どのような資産構造・借入ポジションでその波を受け止めるかだ。
不動産市場は二極化へ:金利耐性が新たな分水嶺
2025年以降、不動産市場は明確な二極化が進むとみられる。
一つは、低LTV(総資産有利子負債比率)で運用し、キャッシュフローを維持できる層。
インフレ環境下でも物件価値が維持され、資産組み換えや大規模修繕、建替えなどの戦略的投資が可能なプレイヤーである。
もう一つは、高LTVで金利上昇耐性に脆弱な層。
金利上昇に伴う返済負担増や、金融機関の融資姿勢の引き締めにより、資産の売却や再構成を迫られるケースが増えるだろう。
この構図はリーマンショック期のような「信用収縮」とは異なる。むしろ、金利上昇によって“本来の資産の質”が可視化される過程といえる。借入に依存せず、立地・用途・稼働率など実需に裏付けられた資産が再び市場で高く評価されるフェーズに移行している。
【今回のまとめ】投資判断は「金利耐性×資産価値上昇余地」で見極める
現時点での結論を一言でいえば、「金利耐性があり、実需に支えられた資産は引き続き保有・再投資すべき」である。逆に、金利上昇で収益性が低下し始めている資産については、今後2年以内の“入替え・出口”を意識すべき局面に入っているといえるだろう。
次回(第2回)では、借入比率・資産規模・キャッシュポジション別にみた不動産投資家の具体的な「守りと攻めの戦略」について詳述する。
■
佐嘉田 英樹 アテナ・パートナーズ株式会社 代表取締役
東京大学卒。富士銀行(現・みずほ銀行)で法人融資営業やマーケティング企画に従事後、建築・不動産業界で多数の開発・再生案件を手掛ける。相続・事業承継を軸に社会課題解決型の不動産戦略を推進している。