11月12日、ジェフリー・エプスタイン元被告に関する新たな電子メールの一部が公開され、トランプ大統領とエプスタイン氏との過去の接点について、これまで知られていなかったやり取りが浮かび上がった。ただしホワイトハウスは、この文書群には「何かを裏付ける材料は一切ない」と強調し、大統領に不利な直接証拠は含まれていないとの立場を示している。
公開文書のひとつ、2011年のメールでは、エプスタイン氏が共犯者のギレーヌ・マクスウェル受刑者に宛て、複数の告発があったにもかかわらずトランプ大統領の名前が取り沙汰されていないことに戸惑いを示していた。また同じ文書では、トランプ大統領がかつてエプスタイン氏の邸宅で、性被害を訴えているバージニア・ジュフリーさんと数時間同席していたという記述も見られる。
さらに2019年のメールには、トランプ氏が2000年代初頭、自身のリゾート施設「マール・ア・ラーゴ」でマクスウェル受刑者が少女たちをリクルートしていた事実を把握していた可能性が示唆されている。エプスタイン氏はこの中で「もちろん彼は少女たちについて知っていた。だからこそギレーヌにやめるよう言ったのだ」と述べていた。
トランプ大統領の「極端な沈静化」のパターン
今回のメール公開に対し、政権側は即座に火消しを図っているが、筆者の見立てでは、この反応こそがかえって状況を悪化させる要因となっている。トランプ大統領は、自身にとって不利と見えるニュースに対して、たとえ内容が些細なものであっても、過剰な防衛行動を取る傾向がある。
典型例として挙げられるのが、第一次政権時のロシア疑惑だ。当時、ロシアとの共謀について決定的な証拠は最終的に見つからなかったにもかかわらず、トランプ大統領はジェームズ・コミーFBI長官を電撃的に解任し、逆に疑念と注目を集める結果となった。
今回のエプスタイン文書に対しても同様で、政権が強硬な火消しを急ぐほど、周囲は「なぜそこまで反応する必要があるのか」という疑念を抱きかねない。
支持者の期待が生む「逆風」
さらに複雑なのは、トランプ政権自身がこれまでの言動を通じて、支持者の間に「民主党関係者こそがエプスタイン問題の本丸」という強い期待を生み出してきた点である。
2020年大統領選後、現FBI長官のパテル氏らはエプスタイン文書の全面開示を強硬に主張し、ディープステート(深部政府)やエリート層の陰謀に関与しているのは民主党側だという見方を後押しした。この言説に期待を高めてきた支持者たちにとって、現状でトランプ大統領に不利な情報が少しでも出てくることは、心理的な反発と政権への失望につながりかねない。
その意味で、今回のメール公開に対する政権側の極端な情報統制は、むしろ支持者の疑念を刺激し、政治的リスクを増大させている。
法的影響は限定的、しかし政治的影響は拡大
現段階で、今回のメールからトランプ大統領の直接的な違法行為を裏付ける証拠は確認されていない。一方で、エプスタイン問題が再び注目される状況は、トランプ政権にとって政治的打撃となりうる。今回の文書公開が、トランプ大統領の政治的立場にどのような影響を与えるのか、今後数週間で明らかになるだろう。
トランプ大統領とジェフリー・エプスタイン氏 Wikipediaより