黒坂岳央です。
引越し大手による外国人スタッフ採用、というニュースでネット上は強い反発があった。
「家に上がられるのは怖い」
「人件費をケチるな」
「日本人スタッフのみの業者を選び、ほかはボイコットしよう」
といった激しい感情的反発を呼んでいる。だが企業が外国人採用に踏み切るのは、好き好んでそうしているのではなく、日本人労働者の確保が現実的に難しいという労働力不足に直面した選択なのだ。
人口減少が継続するということは、経済縮小、もしくは外国人労働者による国力維持の2択になる。我々の直感に反して、事態はもうそこまで来ている。
AndreyPopov/iStock
日本人スタッフはプレミアムになる
特にSNS上では「日本人だけのスタッフにしろ」という要求が多く見られた。本当にそうなれば確かに安心感は買えるだろうが、果たして実現可能なのだろうか。
まず、少子高齢化もそうだがそもそも、ブルーカラーのなり手が減っている。一昔前は「起業の頭金は引越センターで作れ」みたいな話があり、まとまった期間、力仕事をすると比較的短期間に100万円を作れる、といったようなものがあった。
だが、令和の現代、これだけ大学進学率が高くなって誰もが事務職を目指す時代に、力仕事を担当できる若い世代にブルーカラーの案件話はまったく刺さらない。また、「女性スタッフなら安心」という声も非常に多かったのだが、そのような意見を出す人の中で「では自分が今の仕事をやめて転職、もしくは起業する!」という気概を持った人はほぼ皆無であろう。
結局、なり手がいない以上、実現可能性は極めて低い。仮に安全と品質のプレミアムを求めるのであれば、日本人労働者が集まる水準まで賃金を引き上げ、労働時間規制も遵守するために、通常価格の3倍以上の費用を消費者が負担する必要が生じる。無料で高品質なサービスを要求しても、応募者は現れないのだ。現在の日本は現在230万人超に達する外国人労働者に強く依存しており、利便性や国力の維持に不可欠である。
さらに、「外国人は嫌だ」という意見発信は控えるべきだ。DEI(多様性・公平性・包摂性)のグローバルスタンダードに反し、国際的な差別リスクを伴う。国籍によるネガティブイメージは、外国人に好ましく映らずただでさえ「日本人は外国人嫌いだ(これをxenophobiaという)」と悪評を輸出することになる。
結局、外国人労働者が来なくなれば困るのは日本社会であり、日本人なのだ。時代は変わったことを受け入れ、新たな時代の変化をソフトランディングする発想が必要だ。
「外国人=危険」論は正しいか?
そもそも、「外国人=危険」という意見は本当に正しいか?それを今一度考え直す必要がある。
警察庁・法務省の犯罪白書によれば、来日外国人の刑法犯検挙人員の人口あたり犯罪率は、年齢構成などを補正すると日本人20~30代の犯罪率とほぼ同水準である。外国人検挙人員は全体の約4%に過ぎず、共犯事件の割合を考慮すると実質リスクは過大評価されている。
また、外国人犯罪の構成は「窃盗」が多数を占めており(約70%)、殺人や強盗といった凶悪犯が多いというデータも示されていない。もちろん、窃盗だから良いという話ではないのだが、短絡的に「外国人はとにかく危険」という偏見は良くないと思うのだ。
さらに、「外国人は不起訴で犯罪が隠蔽されているから犯罪率が低く見えるだけ」という意見もどうだろうか?刑法犯の外国人起訴率は41.1%で、日本人を含む全体平均(36.9%)を上回っており、不起訴率は逆に低い。不起訴の7割は「起訴猶予」であり、証拠・情状・再犯リスクを総合的に判断した結果であって、外国人だから「甘い」わけではない。
結局、犯罪を考える上では人種の問題というよりむしろ所得の問題だ。どんな国籍の人でも貧すれば鈍する、経済的余裕が必要という話だろう。
◇
引越し業者のニュースで引越し業者を叩くのは間違っているように思える。「では雇用できる人がいないので廃業します」となれば困るのは消費者である。
筆者は外国人びいきのつもりもなく、むしろ日本人びいきなのだが、ネガティブニュースはSNSの翻訳機能でグローバルに拡散される時代、人種差別のトーンが強い感情論を安易に出すべきではないと考えるのだ。
■
2025年10月、全国の書店やAmazonで最新刊絶賛発売中!
「なめてくるバカを黙らせる技術」(著:黒坂岳央)