百貨店。最近行っていないなぁ、という方が増えているかもしれません。「百貨」がいかにもかつてデパートの最上階にあるお好み食堂のイメージと連結し、昭和の古臭さを感じます。私はそう言いながらもデパートの上層階にあるレストラン街は時折行っています。なぜならデパートに出店するには審査が厳しく、ハードルが高いのでそんなに外した店は少ないからです。街中をうろつき、どこに行こうかと探すよりさっと廻って「あぁ、ここがいい」と決められるのはありがたいのです。そのデパートのレストラン街もかつての賑わいからは程遠く、店の外には誰も座っていない入店待ち客用のいすがずらりと並んでいたりします。
NEWoMan新宿 Wikipediaより
山手線で駅直結のデパートがある駅はどこでしょうか?意外や意外、3つしかないのです。東京(大丸)、池袋(西武、東武)、そして新宿(京王)です。新宿は駅直結だった小田急百貨店が再開発で閉鎖しており、道路を渡ったハルクに仮店舗状態でやっています。再開発後に駅直結小田急デパートが戻ってくるかは未定。そして京王デパートも再開発にかかっているので時期は未定なもののいずれ取り壊されれる見込みです。先般、用事があり京王デパートに行ったときは「こりゃもう惰性でやっているだけ」という感が強くて残念に思いました。つまりいづれ新宿も駅直結デパートは消える可能性はあるのです。
では池袋は健在かといえばこれも怪しいのです。東口の西武百貨店はヨドバシの巨艦店が主体で百貨店が「十貨店」になるイメージかと思います。ではフルスペックの西口にある東武デパートはといえば実はここも西口大規模開発に引っかかっており、店舗の1/3ぐらいは再開発になり、その後は「庶民的百貨店を維持したいけどその時次第」という感じです。くだんのレストラン街もなくなるはずで個人的には将来は専門店の寄せ集め型商業施設になるような気がします。
東京駅の大丸は食料品売り場や贈答用食品が強く、上層階も頑張っているけれどワクワク感はないですよね。そもそも百貨店はぶらつくところというイメージが強いのですが、現代人はぶらつくのではなく、〇〇の店で☓☓を買うという明白なプランが存在しており、ウィンドウ―ショッピングという時代ではないのでしょう。
お前、もう一つ忘れてないないか、ルミネがあるじゃないか、とおっしゃると思います。その上、最近はアップグレード版のニュウマンもあります。駅直結ルミネは池袋と新宿にあり、ニュウマンは新宿と高輪ゲートウェイ駅にあります。しかし、ルミネは若い女性向けという明白なターゲット層があります。ちなみにニュウマンの英語表記がNEWoMANであり、経営コンセプトは「あたらしい時代を生きる、すべてのあたらしい女性のために、あたらしい経験と出会う場所」であり、どう見ても百貨店というカテゴリーには入りません。
ところでルミネはJR東日本が経営しているのですが、先週号の日経ビジネスに同社社長の喜勢 陽一氏のインタビュー記事が掲載されています。その発言に一つの解が示されています。 「高輪ゲートウェイシティと再開発施設『大井町トラックス』を中核とする、浜松町駅から大井町駅までのエリアを広域品川圏と名付けて一体開発を進めているところです」と。
10数年前にこのブログで街は西が進む前提に立てば東京駅中心の時代から品川、そして蒲田まで西に向かうと述べたと思います。もともとの東京(江戸)は上野近辺が中心でその後背地である文京区は東京では最高級住宅地でありました。世田谷にはまだぺんぺん草が生えていた頃です。が、街は確実に移動しています。住宅地も世田谷、目黒そして今は港区の西の方になっていると思います。私は品川の御殿山地区なんてあと10年もすれば令和の田園調布になると思っています。
百貨店が衰退し、現代人の新しい消費行動がリードするように街も確実に新しいところに向かって進んでいきます。リニアと羽田空港がキーワードの中、大井町は重要な接点となります。特にJRが計画している羽田空港と渋谷新宿方面に直結する新線は大井町経由になるはずで今まであまり注目されなかったエリアが大変貌を遂げる見込みです。
ビジネストレンドと不動産という結びつけ方はあまりない発想かもしれません。ですが、新しい街づくりには周到に考えられたコンセプトがあり、若い層=繊細な感性を持ち、流行に敏感な層にどれだけ受け入れられるかが成功の可否となります。例えば三菱村と言われる東京丸の内は何度行ってもある特定の雰囲気から抜け出せないのです。それは丸の内族のちょっとお高く留まった感じです。そして街全体が冷たいのです。多分、ビジネスマンが中心でせかせかしているからでしょう。
JR東日本が目指しているのは複合型街づくりであり、職住接近と国際都市化です。大井町トラックスの宣伝ビデオなんて外国人のイメージを強く推し出していて「国際都市にしたいのだろうな」というのがありありと見えてくるのであります。
当然ながら百貨店はその姿を変えざるを得ないところまで追い込まれるでしょう。ショッピングの仕方も変わってきています。その中で例えば渋谷は力づくで変わったけれど新宿、特に駅東口から伊勢丹方面は何十年経っても全く変われない閉塞感があります。池袋のように明白なコンセプトがない新宿は何処に向かうのだろうという感じがします。新宿が魅力的でなくなれば中央線沿線のように新宿を経由する居住地の人気は下がりやすくなります。つまり人は動くはずです。大田区といったより西側に向かうとみています。
我々はメガトレンドという大きな動きの中でその先を読むことをしないと時代についていけなくなります。少なくとも今後10年のメガトレンドを主導できるのはJR東日本の動向がカギを握っているとみています。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2025年11月18日の記事より転載させていただきました。