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また、か。検査結果を見て、私はため息をつく。
画面に映るのは、進行したがん。そして目の前には、いつも通り明るく「お忙しいところすみません」と頭を下げる患者さん。
「がんにならない生き方:小さな習慣が人生に奇跡を起こす」(田中良基 著)きずな出版
元気な人ほど危ない
「元気そうな人」が倒れる。医者を長くやっていると、これが決して珍しくないことを嫌というほど知る。むしろ、「この人は大丈夫だろう」と思える人ほど、検査で何かが見つかる。
昨日も、そうだった。50代の女性。会社の健診で要精密検査になったというので来院された。待合室でも雑誌を読みながらニコニコしている。問診票には「特に自覚症状なし」。
「忙しくて、なかなか病院に来られなくて」と笑う。ああ、その笑顔。見慣れている。
結果は、大腸がん。ステージ3。
「えっ」と言った後の、あの表情。何度見ても、慣れない。頑張り屋さんほど、危ない。これは統計じゃなくて、実感だ。
自律神経がどうとか、交感神経と副交感神経のバランスがどうとか—そんな教科書的な説明は後回しでいい。(いや、一応説明すると、ストレスが続くと交感神経ばかり働いて、からだが「戦闘モード」から抜けられなくなる。で、免疫が落ちる。がん細胞が育ちやすくなる。そういう話だ。)
要するに、ずっとアクセル踏みっぱなしだと、車は壊れる。人間も同じ。でも、頑張り屋さんは止まらない。止まれない、と言うべきか。
こんな人、あなたの周りにいないか?
- どんなに疲れていても「大丈夫」と言う
- 「自分がやらなきゃ」と全部背負い込む
- 人に頼るくらいなら自分で何とかする
- そして口癖は「大丈夫です」
いや、もしかしてあなた自身が、そうじゃないのか。
違うなら、それでいい。でも、もし少しでも心当たりがあるなら、ちょっと立ち止まってほしい。
先週、こんなことがあった。診察が終わって、患者さんが帰り際にぽつりと言った。
「先生、私、もっと早く来ればよかったですね」肩が、少し震えていた。ああ、またこの場面だ。何度経験しても、返す言葉が見つからない。
「そうですね」とも言えないし、「いや、今からでも」と無責任なこと言うのも違う。結局「一緒に頑張りましょう」としか言えなかった。陳腐だ。自分でもそう思う。
頑張り続けることのリスク
結局、何が言いたいか。頑張るのはいい。でも、頑張り続けなくていい。というか、頑張り続けちゃダメだ。たまにはブレーキを踏め。サボれとは言わない。でも、休め。
休むことは怠けることじゃない。自分をいたわることだ。(これ、患者さんにいつも言ってる。自分にも言い聞かせてる。)
もしあなたが、今「ちょっと疲れてるかも」と思ったなら、それは正しい。からだは嘘をつかない。その「疲れ」を、「まだ大丈夫」でやり過ごすな。
診察室で、私はいつも思う。もっと早く来てくれたら。もっと早く休んでくれたら。もっと早く、誰かに頼ってくれたら。
でも、頑張り屋さんは来ない。来られない。そして気づいたときには、手遅れ一歩手前。いや、手遅れなこともある。
だから、しつこく言う。あなたが倒れたら、あなたが支えてきた人たちは困る。だからこそ、倒れる前に止まれ。止まって、深呼吸しろ。
そして、たまには誰かに頼れ。頼られることに慣れてるあなたこそ、頼る練習をしろ。説教臭いか。でも、いいんだ。これは医者としての、私の本音だから。
※ ここでは、本編のエピソードをラノベ調のコラムの形で編集し直しています。
尾藤克之(コラムニスト、著述家、作家)
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