かつて日本は一人当たりGDPで世界第2位の経済大国だった。しかし現在、経済危機を起こしたイタリアや韓国にも抜かれ、クウェートと同水準の38位まで低下している。資源が乏しく、人口も14年連続で減少し続ける日本にとって、資源と人口を前提とした20世紀型の国家成長モデルは通用しない。必要なのは、革新的技術への全面的な信奉を国家戦略の中核に据えることである。
2013年、オックスフォード大学のマイケル・オズボーン氏は「AIによって47%の雇用が代替される可能性がある」という衝撃的な論文を発表した。しかも最も影響を受ける職業として銀行・証券・保険の領域が多く挙げられていた。2023年にはマッキンゼーから、金融業界はAIによる雇用代替の影響が最も大きい一方で、AIによる付加価値創出の可能性も最大とするレポートが発表された。さらにIMFは同年のレポートで、金融機関のAI関連支出が2027年までに倍増し、年平均成長率は29%と主要産業の中で最も高いとしている。実際、SBI新生銀行ではすでに100以上の業務プロセスを生成AI活用型へ移行させ、各業務で平均3割程度の効率化を達成している。いずれにせよAIは単に人を代替するのではなく、仕事を補完し、再構築する力を持つことは明らかだ。
人口減少国における20世紀型の解決策は移民の受け入れだったが、AI時代ではすでに周回遅れの発想だ。AIによる技術革新により、もはや移民に頼らずとも社会機能が維持できるし、そうなるように国家戦略を立てていくべきだ。例えばすでに建設や介護、農業の現場ではロボットが多くの作業を担っている。これは人間の役割を否定するのではなく、人材を「判断・創造・信頼」といった高付加価値領域に集中させるための戦略的な構造改革である。
企業においても同様だ。赤字企業が人を減らすのは当たり前だが、黒字企業であっても、人員の削減や役割の転換を積極的に進めるべきだろう。目的は単なるコスト削減ではなく、AIや自動化を核に据えた生産性の向上であり、筋肉質な経営体質の構築だ。ベンチャー企業もわずか数人でIPOを目指すような時代が普通になるかもしれない。
加えて、次世代技術の進展は、資源に対する考え方や地政学的状況そのものを変えつつある。例えば核融合や量子コンピュータはすでに夢の技術ではない。直近の論文や企業動向から私は、2030年頃にはどちらも実用化が見えていると予想する。核融合の商用化が進めば、石油が国力を規定した時代は終わりを迎え、エネルギーのパラダイムシフトが起こる。資源に乏しい国ほど構造変化が成長ドライバーになることは言うまでもなく、特に技術開発力に強みを持つ日本にとっては今後数年の政策が、30年先の国力を決めることになる。
日本が直ちに着手すべき3つの課題は、第1に行政や産業の仕組みをAI前提で再設計し、第2に先端技術への投資を国家戦略としつつ、第3にAIに代替されない領域へと人材を育成・転換していくことだ。今こそまさに人口と資源の制約を克服し、再び世界の先頭に立つための最大の好機なのだ。
編集部より:この記事は、「北尾吉孝日記」2025年11月25日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。