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「抵当権」と「根抵当権」、言葉は似ているが
事業資金や住宅ローンの融資を受ける際、よく耳にする「抵当権」と「根抵当権」
金融機関から融資を受けた経験のある方なら、登記簿謄本にこれらの文字を見たことがあるのではないでしょうか。
「根」がつくか、つかないかの違いに見えますが、両者はその意味が大きく異なります。
そこで、抵当権と根抵当権の違いとそれぞれの適切な活用法についてまとめてみることにします。
融資が回収できないときの保険として取るのが担保
銀行などの金融機関が事業者や個人にお金を貸す際、どんな条件で返済をしてもらうかの他に、万一、回収ができなかったときには、どうしてくれるのかという「保全」策を考えます。
お金を借りる側(債務者)が、もし借金を返せなくなった場合に備えて、自分の持つ特定の財産を、お金を貸す側(債権者、主に金融機関)に保険として押さえてもらう。これが「担保の提供」です。
担保としては、万一の場合には、この資産を持っていてくれという「物的担保」と代わりにこの人が借金を返すという保証人を定める「人的担保」があります。
金融機関としては、万一の場合には、物的担保の対象となる資産については、換金可能なものでないと回収に困るので、選ばれるのは、多くは、不動産か上場株式ということになります。
この約束を法的に保護するために設定されるのが「抵当権」や「根抵当権」です。
金融機関の融資では、担保の対象とした不動産には「私が先に担保にとっていますよ」ということを他の債権者にも表明するために、その不動産には登記がされます。
抵当権は、特定の債権を担保する「ピンポイント型」
抵当権は、「一つの担保物件に対して、一つの特定の債権」を設定する担保権です。
例えば、「住宅ローンとして借りた1億円」といった具体的な一つの債権が対象です。
特定の債権のための担保なので、その融資残高が減れば、抵当権の対象も減ります。
当初は、1億円のローンの担保として設定された抵当権も返済が進み5000万円に融資残高が減れば抵当権の対象とある金額も5,000万円となります。
融資が完済されれば、抵当権も消滅します(ただし、登記上の抵当権は自動的に抹消がされるものではなく、抹消登記手続きが必要です)。
ですから、住宅ローンや設備投資のための融資には、この抵当権が設定されることが多いといえます。
根抵当権とは、包括的な債権を担保する「枠取り型」
根抵当権は、継続的な取引を前提に設計されており、あらかじめ定めた極度額の範囲内で、一定の範囲に属する不特定の債権をまとめて担保します。
例えば、不動産に対して1億円の根抵当権を設定したとします。この上限金額のことを「極度額」といいます。
抵当権の場合、融資に紐づいているので、その融資残高が減れば、抵当権の対象金額も減り、融資が完済されると抵当権はなくなります。
ですが、事業を営む場合、運転資金などでは、返済した分について、再度融資を受ける場合も多いです。
その担保が抵当権であれば、追加融資について、別途抵当権を設定し直す必要があります。
繰り返し融資が実施されるのであれば、特定の融資に対する担保ではなく、この枠内の融資の担保として「枠取り」をした方が、何度も抵当権をつけ直す手間が省けることになるわけです。
この根抵当権は、個別の融資に紐づくものではなく、包括的な枠取りとしての担保です。
ですから、融資の残高が減ったり、完済されたとしても、この根抵当権については、設定された極度額のまま生きているということになるのです。
ただし、根抵当権には「元本確定」という機能があります。これは、「ここまでの債権を担保します」と確定させる手続きです。
通常、根抵当権は、極度額までは、まだ行われていない融資についても担保することになりますが、この「元本確定」が行われると、その時点で存在する債権のみを担保することになり、それ以降の新たな債権については担保されなくなります。
元本確定がされた根抵当権は、抵当権に近い性質になるといえるでしょう。
抵当権と根抵当権の比較
まとめると、抵当権と根抵当権には、次のような違いがあります。
| 項目 | 抵当権 | 根抵当権 |
| 担保する債権 | 特定の1つの債権 | 一定範囲内の不特定多数の債権 |
| 担保額 | 実際の債権額(減少していく) | 極度額(枠として固定) |
| 完済時の扱い | 自動的に消滅(要抹消登記) | 消滅しない(枠として残る) |
| 適した用途 | 住宅ローンなど1回限りの借入 | 事業資金など継続的な借入 |
| 登記費用 | 借入のたびに発生 | 1回の設定で継続利用可能 |
根抵当権は銀行の”縄張り”のようなもの
さて、担保については、先に設定したほうが優先されるという原則があります。
ある不動産に、A銀行が先に(第一順位)5,000万円を融資して担保を、B銀行が後に(第二順位)3,000万円の融資をして担保を設定したところ、すぐ融資が返済できず、会社が倒産をしたとします。
A銀行とB銀行は、その不動産を売却し融資残高を回収しようとします。
もし、この不動産が7,000万円で売れた場合、その売却代金から、先にA銀行が5,000万円を回収したのち、B銀行が2,000万円を回収し、残りの1,000万円は別の方法で回収を検討しなくてはならないということです。
この担保が抵当権であれば、融資の返済が進むにつれて、抵当権の対象となる金額も小さくなり、その分、他の金融機関などを含めて新たに担保設定をする余力が生まれることになります。
しかし、根抵当権というのは、極度額が設定された分までは、今の融資の残高に関わりなく、その金額まで優先して回収の出来る権利が既にその根抵当権を設定した者に与えられます。
例えば、根抵当権の極度額が5,000万円で、現在の融資が1,000万円であっても、後から追加で4,000万円を融資しても、その分も他の債権者に優先して回収することが出来るということです。
逆に言えば、不動産の評価額が7,000万円で、すでに極度額5,000万円の根抵当権が設定されていれば、他の金融機関からすると、追加で、まだ6,000万円(7,000万円ー1,000万円)を融資する担保余力があるはずなのに、実際には2,000万円しかないと判断されるということです。
これは、先に根抵当権を設定した債権者にとっては、後からさらに融資をしてもその極度額までは優先的な回収が出来るだけでなく、別の金融機関が融資を実行するのを防ぐことが出来る。
要するに、根抵当権というのは、金融機関にとっての”縄張り”のようなものです。
根抵当権を設定したからと言って、極度額までの融資を約束したものでもありませんし、金融機関は、優良先に対しては、できるだけ極度額の大きな根抵当権を設定したいということになるわけです。
しかし、それは、他の金融機関からの融資の余地を減らすということであり、借り手の企業から見ても、決して好ましいことではないのです。
競合と安定的な供給を確保するため融資のパイプは複数確保する
銀行というのは、企業から見れば「お金の仕入先」のようなものです。
どの商材を仕入れるにしても、競合を促すためにも、安定供給を図るためにも、取引先は複数確保するはず。
それは、お金の仕入れである融資であっても同じことです。
担保設定をする際には、実際の融資額よりも過分に大きな根抵当権をメインバンクの言いなりで設定させるのではなく、極度額については、融資の実行状況に合わせて適宜見直しをした上で、複数の金融機関からの融資のパイプをバランスよく確保するようにしましょう。
編集部より:この記事は、税理士の吉澤大氏のブログ「あなたのファイナンス用心棒」(2025年11月22日エントリー)より転載させていただきました。