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結論から言う。異業種転職で落ちる人の9割は、「なぜ?」に答えられない。
いや、答えられないというより、考えたことがないのだ。
「逆転転職 未経験・異業種からでも選ばれる!共感ストーリー®戦略」(松下公子 著)WAVE出版
「なんとなく今の仕事に飽きた」
「隣の芝生が青く見えた」
正直でいい。だが、それを面接で言えるわけがない。だから「御社の成長性に魅力を感じ」とか「業界の将来性を考慮し」とか、どこかで聞いたような言葉を並べる。
面接官は一発で見抜く。当たり前だ。毎日何十人と会っているのだから。
先日、知り合いの人事担当と飲んだときの話。「最近の応募者、みんな同じこと言うんですよ」と笑っていた。ChatGPTで作った志望動機、だいたいわかるらしい。「御社の理念に共感」「人々の生活に貢献」「持続可能な社会の実現」——。きれいすぎるのだ。人間の本音は、もっと泥臭い。
そういえば、アップルの話をしよう(唐突だが、関係ある)。
スティーブ・ジョブズは「Why」から語った。「私たちは世界を変えると信じている」。これが先。製品の説明は後。普通の会社は逆だ。「うちのパソコンは性能がいいです」「デザインも洗練されています」——それ、スペック表でいいじゃん。
転職の志望動機も同じ構造だと思う。
「営業を5年やりました」「売上目標を達成しました」——で? という話だ。なぜ営業を選んだのか。なぜ続けられたのか。なぜ今、違う業界に行きたいのか。その「なぜ」がないと、ただの職務経歴書の音読になる。
正直、これができない人は異業種転職をやめたほうがいい。厳しいことを言っているのはわかっている。でも、同業界への転職ならまだごまかせる。「経験を活かして」で通じる。異業種は無理だ。「なぜわざわざ?」という疑問に、真正面から答えないといけない。
知り合いに、飲食店の店長からIT企業に転職した男がいる。32歳、プログラミング経験ゼロ。普通に考えれば無謀だ。でも彼は受かった。
理由を聞いたら、こう言っていた。「店のシフト管理がクソすぎて、自分でExcelマクロ組んだんですよ。そしたらハマって」。それだけ。でも「なぜ」がある。体験がある。面接官は「こいつ、本気だな」と思ったのだろう。
逆に、一流大学出て大手商社にいた別の知り合いは、スタートアップへの転職に3回落ちた。志望動機を見せてもらったが、完璧だった。完璧すぎた。どこにも「彼自身」がいなかった。
結局、「なぜ」は自分の中からしか出てこない。
ネットで拾った例文をいくら磨いても、面接官には響かない。響くのは、その人だけが持っている体験と、そこから生まれた感情だ。論理じゃない。理屈じゃない。「どうしてもこれがやりたい」という、ある種の執念みたいなもの。
それがないなら——まあ、今の仕事を続けるのも悪くないんじゃないか。知らんけど。
※ ここでは、本編のエピソードをラノベ調のコラムの形で編集し直しています。
尾藤克之(コラムニスト、著述家、作家)
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22冊目の本を出版しました。
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