性的虐待訴訟で財政難に陥る米教会

世界で最も裕福なローマ・カトリック教会の教区の一つ、ニューヨーク大司教区が数々の性的虐待訴訟により財政難に陥っている。ニューヨーク大司教区は、虐待訴訟の和解に3億ドル以上を費やすという。「ニューヨーク・タイムズ」が8日報じたところによると、この資金は、未成年時に神父や教会職員から性的虐待を受けた約1,300人への賠償に充てられる。

虐待訴訟で財政難にある米教会、ドイツ・カトリック通信から

報道によると、大司教区と被害者側の弁護士は、賠償問題を友好的に解決するための調停手続きの基本原則について合意したという。

ニューヨーク大司教区のティモシー・ドラン枢機卿は「私たちが繰り返し認めてきたように、未成年者への性的虐待は、私たちの教会に恥辱をもたらしてきた。信徒の教会への信頼を裏切り、若者の安全を確保しなかった聖職者の蛮行について、改めて赦しを請う」と述べている。

同大司教は、和解に必要な3億ドル以上の資金を調達するために、「大司教区は非常に困難な財政的決断をいくつも下した」と説明した。具体的には、教会従業員の解雇や、マンハッタンのファーストアベニューにある本部を含む不動産の売却が含まれていた。

米国で多数の虐待訴訟により深刻な財政難に直面しているのは、ニューヨーク大司教区だけではない。ニューオリンズ大司教区は、被害者との法廷での和解が成立した。合意内容によると、被害者数百人に約2億3000万ドルが支払われる。グレゴリー・エイモンド大司教は「このプロセスが終わったことを嬉しく思う」と述べている。

米国のカトリック教会は過去20年間、聖職者の性的虐待事件に関連して約50億㌦の賠償金を支払ってきたという。ジョージタウン大学の「応用使徒職研究センター(CARA)」が今年初めに研究結果を発表した。

50億㌦の金額には、被害者への賠償金、法的費用、治療やカウンセリングのための費用、さらには予防措置や研修の費用が含まれる。その中でも最大の割合は被害者への賠償金であり、次いで弁護士費用や裁判費用などの法的・防御費用が続く。総費用の約4分の1は保険によって賄われたという。

CARAの研究によれば、2004年から2023年の調査期間中、合計15,000件の信憑性のある告発が報告された。聖職者による虐待事件の80%は1990年以前の数十年間に発生しており、1970年代にピークを迎えた。2000年以降に発生した事件はわずか3%に過ぎない。被害者の5人に4人は少年であり、被害を受けた当時の年齢は半数以上が10歳から14歳、約5分の1が9歳以下だったという。

研究によると、告発件数4,490人の加害者に対して行われ、そのうち95%が神父、4%が修道会や霊的共同体の男性、1%が助祭だった。86%の加害者は、虐待が報告された時点ですでに死亡していたり、聖職を解かれていたり、現役を退いており、そのため司法手続きが難航するケースが多かった。さらに多くの加害者が複数の被害者を持っていた。

ところで、教会側が聖職者の未成年者への性的虐待の犠牲者に払う賠償金はどこからくるのか。教会は無数の不動産や建物を保持しているが、基本的には、信者たちの献金からだ。信者たちが献金する資金で聖職者の性犯罪への賠償金が払われていることになる。教会への信頼が崩れ、教会から離れていく信者が多数でてきたとしても不思議ではない。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2025年12月12日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。