世界は何故分断するのか?

私の知り合いのカナダ人が最近嫌なことを言い始めました。「イスラム排除姿勢のトランプ大統領は偉い」と。普段、そんな政治の話をしない人だけに「なぜそう思うの?」と聞けば自分のワイフがメディアでそういう話を聞き、自分に説明し、なるほどと思ったからだと。どうせすぐ忘れるだろうと思いきや、会うたびに「ひろはどう思う」と聞くほど彼は洗脳され始めているのです。最近では移民が厚遇され、自分たちカナダ人は一生懸命働いても社会保障も十分ではないと、どこからそのような話になるのかわからないようなことも口にしています。

トランプ米大統領と中国・習国家主席が会談 トランプ大統領と習国家主席 2025年10月30日 ホワイトハウスXより

人間の思想を育むには若い時から時間をかけて様々な世界を見続けることで広範な知識と経験が積みあがるものです。ところが移民国家カナダやアメリカにおいてそれら移民層が活躍するのはどうしても都市部が中心となり、むしろ都市部からはじき出されたローカル層が都市部郊外に自分たちの安住を求める傾向が強いのもまた事実であります。そして選挙動向でも明らかなように必ず保守層が圧倒しているのが地方であります。

以前、アメリカ、ワシントン州の田舎の方でゴルフ場の運営業務をしていたのですが、そのあたりは酷いWASPエリアとされ、日本人を含むアジア人は非常に珍しいところでした。そこで50人以上のスタッフを抱えて事業をしていたのですが、NO2だった私としてはアメリカ人のプライドを傷つけないようにしながら事業運営していくのはたやすくありませんでした。要はアジア人の下で働くのは嫌だったわけで運営は決して芳しいものではありませんでした。我々の施設では地元の白人しかゴルフにもレストランにもバンケットで結婚式やイベントにも来ません。シアトルまで2時間なのにシアトルなんてめったに行かないという人たちばかりなのです。彼らが外国人の影響を受ける機会も軋轢も何もなかった中で我々日本人は異質だったと言えるでしょう。

トランプ氏の支持層とはまさに自分たちだけの世界で生きてきた人たちと言ってもよく、「よそ者」を排除するのは西部劇の映画の時代と何ら変わりません。アメリカでどれだけ銃乱射事件が起きようと銃規制が全く進まないのは自分のテリトリー(領域)を自ら守らずして誰がそれをやってくれるのか、というアメリカ人の根本思想なのだろうと考えています。

オーストラリアで悲惨な事件が起きました。ユダヤ教の一年に一度の祝典であるハヌカの初日のイベントでユダヤ教徒に向け銃乱射事件が起き、初報で12人の死亡が確認される惨劇になってしまいました。犯人グループに宗教的思想があったことはほぼ確実でイスラエル外相もオーストラリア政府に対して厳しいコメントを発しています。これからその分析が始まるわけですが、直接的な引き金は反ユダヤ主義者がガザや周辺国との一連の戦闘に感化された上で行動を起こしたのだろうと察しています。

安倍元首相を銃撃した山上被告の公判が進み、12月18日に結審します。公判の展開からすると被告の母親の特定宗教への異常なまでの傾注が反感を生み、被告の脳内で作り上げたストーリーで関連者が次々と浮かび上がる中で今回の犯行に及んだのだと思います。

今日、例を挙げたケースはどれにも共通点があるのです。それはあるきっかけにより自分のナラティブ(物語)を作り上げ、自分がその主人公になり、時として論理性を逸脱した自己都合の勧善懲悪に突き進むのであります。いわゆる思想犯に近いわけですが、ひと昔前はそれら思想犯は組織化されたものです。例えばアルカイーダなどはその好例で組織化するがゆえに一定の政治があり、ルールと交渉の余地がありました。ところが近年の多くは単独犯であり、警察がマークしていなかった人物の暴走がしばしば起きているのです。

もう1つ重要なことはこれら犯罪という個人意思の具現化に至らなくても多くの人が一定方向の強い思想を持ち始めており、それが政治や国家の分断になりかねない状況が生み出されている点です。

ブッシュ(父)が湾岸戦争の勝利時に支持率90%を超えたことあります。イラク戦争を開始した時も70%を超えました。双方ともその後、急激な支持率低下に悩まされるのですが、なぜその時だけそれほどの支持率になったのでしょうか?ではもう一例。日本が日露戦争の時や先の大戦でハワイで大進撃をした際、日本国民は狂喜乱舞でした。その後の大本営が発する報道に踊らされたのもご承知の通り。自己の信念や性格がどうであろうと宿命とも言える自分の所属国家を応援するのはどんな場合でも一緒なのです。高市氏の支持率が例の発言後も高止まりしているのもこの心理状態に日本が入っているからだと分析しています。これは真の支持率というより、国民がナラティブの中に落とし込まれてしまっているとも言えないでしょうか?

欧州の指導者は人口構成層が複雑すぎて一つのストーリーを作り出しにくいのです。ところが同じ移民国家のアメリカでトランプ現象が起きるのは何故かといえば私が研究した中で明白に感じるのは何処からの来たアメリカ移民だろうが、移民になった瞬間アメリカンになるのです。それぐらいアメリカは色濃い国家であり、憧れであり、文化があり、国民への影響力が極めて強い国だと言えます。メルトポット文化とはよく言ったもので新移民をメルトポットに入れてぐるぐるかき混ぜて「はい、新しいアメリカン一丁上がり」というぐらいに強い個性を打ち出しています。カナダとは真逆の政策や思想だと言えます。

世界は分断する理由はストーリーを誰がどう作るか次第なのだと思います。時として国家が作り出します。イスラエルのネタニヤフ首相はそういう点では「語り部」なのです。トランプ氏は個人的にはディールマンなので不屈の精神力なんて全く持っていません。高市さんはストーリーを作るタイプですね。またこれに感化されて個人が様々なストーリーを作り上げることもあり得ます。よって時として国家内部が分断することも当然起きうるわけです。韓国だって台湾だって政治は拮抗しているのです。

今までは日本は中庸なスタンスでしたがこれから試練があるのかもしれません。2026年はその覚悟が必要かもしれません。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2025年12月15日の記事より転載させていただきました。

会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。