黒坂岳央です。
ビジネスには能力やスキルの以上に結果を左右する要素がある。それが「気遣い」である。
年齢を重ねるほど、相手に気遣いが出来る人と、逆に相手に気を遣わせる人の格差はドンドン開いていく。仮に相手に気を遣わせる側になると、本人にどれほど高い能力があっても人は離れ、信用も低下する。
特にこれからのAI時代で生き残るには人的魅力が極めて重要だ。いい年をして相手に気を遣わせている人は静かに淘汰されるだろう。
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「飲み会」は気遣いのリトマス試験紙
この違いが最も原始的な形で表れるのが、飲み会や懇親会の場だ。
「気遣いができる人」は、相手の話に傾聴し、グラスが空きそうになれば自然に次の注文を促す。場の空気が停滞しないよう、黒子として能動的に動く。飲み会を信頼構築のチャンスと捉え、相手を利することでトータルで自分の信用を作る、という大局的視点を持っている。
一方、「気を遣わせる人」は、周囲が自分を楽しませてくれないと不機嫌になったり、不貞腐れたりする。周囲に「機嫌を損ねないように」と腫れ物に触るような対応を強いる。こうなると周囲に「この人はコミュニケーションコストが高い」という評価となり、職場での評価も悪くなる。
「今どき、飲み会なんかで良し悪しを評価するなんて古臭い」と言われそうだが、現実としてオフィスの仕事では見えない「気遣いスキル」が一発でわかるのが飲み会というリトマス試験紙なのだ。
そして自社で飲み会をしなくても取引先で接待があれば逃げられないし、アメリカや中国でもパーティーなど飲み会に準ずる交流会は存在する。実際、筆者は米国系外資では日本企業にはない気遣いも数々経験してきた。
結局、どこへ行っても気遣いの必要性は形を変えて現れるため、上手に振る舞えるスキルを持っておいて損はないだろう。
リモートワークこそ気遣いが必須
対面の機会が減った現在、気遣いの主戦場は「オンライン」に移行した。直接対面しない。服装もラフで気を遣わなくてもいい。そう考える人が増えたが、実際は逆で「リモートワークこそ気遣いが必須」なのだ。
例えばチームでプロジェクトを進める際、対面なら「あれどうなってる?」と一言で済む確認も、リモートではそうはいかない。 チャットで「今の進捗はいかがですか?」と打ち込み、相手の作業を中断させ、返信を待つ。この「確認」と「待機」という小さなラグが積もり積もって、プロジェクト全体の効率を大きく落としかねない。
筆者の場合、共同作業の進捗管理はこちらから「Googleドキュメントやスプレッドシートを使うのはいかがでしょうか?」とこちらから提案するようにしている。なぜなら、こうすることでリアルタイムでファイルの進捗が相手に伝わり、相手が最も知りたい「期日」と「現在の進捗率(%)」が、一目でわかる位置に常に最新状態で表示させることが出来るからだ。
こうしておけば、相手はわざわざチャットで進捗確認の必要がない。「ここまで進んでいるのだな」と勝手に見に来て、安心してくれる。こちらも頻繁な報告も手間もなくなるので一石二鳥である。
ZOOMビデオ会議の気遣い
筆者は仕事柄、出版社や雑誌社、テレビ局との打ち合わせやインタビューをZoomで行う機会があるが、自分の身だしなみ以上に「相手に届く映像と音声の品質」に気を使っている。
プツプツと切れる音声や、ノイズまみれの画質は、相手の脳に強烈なストレスを与えてしまう。「聞こえづらいが、聞き返すのも悪い」と相手に気を遣わせた時点で、ビジネスマンとしては失格だろう。
筆者がやっている気遣いは以下の2点だ。
1つ目は安定した回線の確保だ。筆者は重要なビデオ会議では必ずLANケーブルで有線接続し、通話中は裏で重いファイルのダウンロードなどが走らないよう帯域を管理している。
2つ目はマイクだ。多くのノートPCの内蔵マイクは性能が低く、キーボードを叩く打鍵音やPCのファン音、部屋の反響音を拾ってしまう。数千円のUSBマイクで構わないので、外部マイクを使うべきだ。
あるいは、昨今のハイエンドスマホはマイク性能が極めて高いため、PC内蔵マイクの代わりに最新のiPhoneでつなげることもある。
生成AIにも「気遣い」が必要
昨今は誰しも生成AIを使うようになったが、実はAIにも気遣いはした方がいい。「機械相手に気遣いなど不要では?」と思うかもしれない。だが、AIへの配慮が雑な人間は、AIから雑なアウトプットしか引き出せない。
「AIを使ってみたが、大した答えが返ってこなかった」 そう嘆く人のプロンプトを見ると、利用者のニーズを伝えられていなかったり、背景情報がゼロだったりと、総じて抽象的であることが多い。
AIのご機嫌を取る必要はないが、「お膳立て」という意味での気遣いは不可欠だ。
- こちらの状況を詳細に言語化する
- 時系列を整理して伝える
- 求めるゴールや、ターゲット属性を明確に入力する
これらを面倒がらずに入力することで、初めてピンポイントで有用な回答が得られる。 「過去の入力内容から察してくれるだろう」という手を抜けば、対人関係だけでなく、対AI関係においても生産性を下げる要因となるのだ。
気遣いは「性格ではなくスキル」
気遣いを「性格」と考える人は少なくないが、気遣いは「ビジネススキル」である。知識として理解し、経験すれば自然にできる。だが出来ない人は年をとっても出来ない。そして気遣いスキルはなるべく若いうち、早いうちに身につけなければならないのだ。
理由はシンプルで「歳をとると、誰もあなたの振る舞いを注意してくれなくなるから」である。
若手のうちは「もっと周りを見ろ」「マイクの音が悪いぞ」と先輩が教えてくれるかもしれない。しかし、ある程度の年齢や役職になると、周囲は「扱いづらい人」「面倒な人」として、あなたを静かに避けるようになる。
誰も指摘してくれないまま、裸の王様になり、気づいたときには孤立している。これが「気を遣わせる人」の末路だ。
◇
人間は相互扶助の世界に生きる「社会的な動物」である。気遣いは面倒くさくてしたくないもの、ではなく自分が有利に生きるためのスキルに他ならない。
若い頃はまだしも、中年以降で周囲に気を遣わせてばかりではその先は「仕事が出来ない人」というレッテルだけでなく、孤独が待っているだろう。
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