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黒川伊保子さんの「女女問題のトリセツ」を読んだ。正直、最初は「またトリセツか」と思った。このシリーズ、書店で平積みされすぎて食傷気味だったからだ。でも読み始めたら、止まらなくなった。
というのも、つい先日、職場の人間関係で消耗して帰ってきたばかりだったからだ。「なんであの人、私にだけあんな言い方するんだろう」と。男の自分には理解できない世界だった。いや、理解できないと思っていた。
『女女問題のトリセツ』(黒川伊保子 著/SB新書)
黒川さんは脳科学の立場から、女性同士のイラつきを解明する。女性たちには互いを守り合う本能がある。そこまではいい。問題はその先だ。価値観の違う相手に遭遇すると、脳にアラートが灯る。それが「イラつく」の正体——というくだりで、ふと思った。これ、男女関係なくないか?
「料理が得意」「英語がうまい」「歌が上手」。こういう価値観は、お互いに褒め合える。席を譲り合うように。逆に「私なんて、ぜんぜんダメ」と自分の弱点をプレゼントすることもある。
ここで黒川さんが指摘するのが、自己肯定感の問題だ。このやり取りがうまくいくコツは、グループ全員にある程度の自己肯定感があること。自分の強みを絶対だと思っているから、他の「席」を気持ちよく譲れる——
待てよ。これ、本当に女性特有の問題なのか?
黒川さんによれば、女性はなぜか自己肯定感が低い。人類の女性脳の「生殖可能期間中」は、かなり低い設定になっているという。
女性が他者の評価を気にするのは、「群れて、守ってもらう」という本能があるから。「他人の評価に命がけ」——比喩じゃない、と黒川さんは言い切る。脳にしてみれば、まさに命がかかっている。
ここで唐突に思い出した。知人の話だ。
「私、便利な人になってなかったかしら」
ほう。そうか、これか。
黒川さんが書く通り、ほんの100年前まで人類は生殖期間を終えたらほどなく人生を終えた。だから女性の自己肯定感が低いことなんて、誰も気にしなかった。
愛されたい一心。いい子と言われたくて周囲の期待通りに振る舞う。いい妻、いい母、いい社会人でありたいと願う。それが更年期を迎えるころに、ふと気づく。
「私って便利な人になってはいないか?」
この一文が、重い。軽妙な語り口、だが甘くはない。
本書は「女女問題」を軽妙な語り口で解説する。心理学——いや、脳科学か——をベースに、わかりやすく。
でもこれ、「女女」だけの話じゃないだろう。男も男にイラつく。異性間でも起こる。家庭でも職場でも、この手の問題は日々発生している。なのになぜ、「女女問題」というタイトルなのか。まあ、売れるからか。
イラついたり、イラつかれたり。そのたびに自己嫌悪に陥る。なぜこんな感情が発生するのか。若年層、中高年、高齢者。年齢層ごとに特有の悩みがある。
黒川さんは極めて冷静に女性を観察している。厳しくはない。優しく諭すような。だから受け止めやすい、とは思う。でも個人的には、もう少し辛辣でもよかったんじゃないか。
女性脳とは何か。女性の友情とは何か。その本質を知ることで、イライラの根源を理解できる——
そうだろうか。理解したところで、イライラは消えないかもしれない。でも、ほんの少しだけ、楽になれるかもしれない。それで十分だ。たぶん。
※ ここでは、本編のエピソードをラノベ調のコラムの形で編集し直しています。
尾藤克之(コラムニスト、著述家、作家)
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22冊目の本を出版しました。
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