なぜEV普及が進まないのか?:テスラや中国に太刀打ちできない欧州

年末のこの時期に欧州委員会がガソリン車とディーゼル車の新車販売を2035年までに禁止する計画を見直すと発表しました。現状2035年以降に販売される自動車はゼロエミッション車でなけれならないと規定していましたが、これを90%に引き下げる方向で検討するというものです。たかが10%じゃないか、と考えるのは正しくありません。100%という壁が崩れてしまえば今後、80%にでも50%にでも容易に崩れやすいと考えるべきです。

アメリカではトランプ氏がEVへの補助金を切ってしまったこともあり、フォードもGMもEV戦略では苦戦しています。フォードはライトトラックのEV事業から撤退を表明するに至っています。日本勢もホンダが巨額投資をカナダで行い、北米EV生産の拠点にするのかと思いきや、あっという間に計画変更を発表しました。同じカナダにいる者としては残念な思いであります。

ではなぜEVが普及しないのでしょうか?

Robert Way/iStock

ご承知の通り、私はEVが売れないはずがないというスタンスです。事実EVもずいぶん改良、改善されてきており、伸びた航続運転距離もさることながらカナダでは充電施設も十分にあり、街乗りでは全く不自由しない状況にあります。そして白いテスラが街中でまるでiPhoneを使う人のように普及しています。そのテスラ社、株価は極めて堅調で最高値を更新しています。

テスラの株価がなぜ最高値かこれはどうも違う理由があるとみています。マスク氏の別事業会社、スペースXを2026年に上場させると発表されました。その評価価値目標を232兆円とするとしています。では目先、誰がメリットがあるかといえばテスラ社とグーグル社であります。実はグーグル社の株価がほかのテック株に比べて比較的堅調なのはオープンAIに対抗するジェミニ3が高評価で囃された点もありますが、実際にはスペースX絡みの方が大きいと個人的には見ています。グーグル社はスペースX社の株式を少なくとも7%程度は保有しており、これが上場によりとてつもなく化けるとともにグーグル社が宇宙事業を通じて展開できる足がかりとなるからです。

テスラもたぶんスペースXとのリンクで自動運転の安全化や監視ができる仕組みを進化させるとみています。スペースX社が提供するインターネットサービス、スターリンクは実は私の事業には欠かせないのであります。それは私が使うのではなく、私が管理するマリーナの船舶のネットサービスです。船が航海にでるとネットは普通は無くなるのでその間もネットにつなげるにはスターリンクしかないのであります。同様に最近、民間航空機に乗るとネットサービスが有償、無償で使えますが、あれもスターリンク アビエーションのサービスであります。

話しがそれました。テスラがどうこうという議論がありますが、私から見ると自動車専業企業がアプローチできるレベルではなく、次元が二つぐらい違う世界に向けて様々なサービス展開が垂直型で出来る圧倒的強みがあるのがテスラなのだとみています。

では欧州はなぜあれほど環境問題に繊細だったのに緩めるのでしょうか?答えは簡単です。欧州製のEVは勝てないのです。誰に?大っ嫌いなイーロンマスク氏のテスラやようやくヤバいと感じ始めた中国のEV責めにも太刀打ちできないのです。よって仮に2035年の100%ゼロエミッション基準を貫けば欧州から自動車産業が無くなるリスクが出てくるのであります。

覚えていらっしゃる方も多いと思いますが、欧州は環境重視という意味では地域をあげての取り組みでありました。ところがフォルクスワーゲン社のディーゼル不正問題が生じ、もともと環境負荷が大きかったディーゼル車から当時まだ新しい概念だったEVに舵を切るのです。もちろん、欧州勢は自分たちがEVのイニシィアティブを取れると確信しEUや英国をはじめ、各国は政策の中でEV化を取り込み、更にそれはアメリカ、カナダ、日本へと伝播したのであります。

ところが誤算は中国にありました。中国はもともと内燃機関の自動車は後発中の後発であり技術的に劣っていたところに全く新しい自動車コンセプトで部品数も少なく、将来性があり、環境負荷にも優しいこともあり、国を挙げてそれを普及させたのでした。結果としてEVメーカーが乱立するも激しい競争を経て圧倒的な市場形成とディファクトスタンダードを生み出したのであります。

よって欧米はEVにこだわっていると何らかの形で中国を利すると考え始めます。トランプ氏がEV補助金を止めたのはマスク氏との関係ではなく、中国けん制であり、表に見えない中国への圧力であります。

ただ個人的にはそれでは欧米勢はEVにおいて中国に降参するのかという風にも聞こえなくないのです。日本のメーカーは出足は遅かったもののここに来てEVをしっかり作り始めており、少しずつ自動車のEV化を進めています。電池についてはそろそろ全個体電池も出てきそうですが、ナトリウムイオン電池が今後、開発展開が期待できます。これはレアメタルを使わず、製造資源は無尽蔵にあり、マイナス40度でも動きます。このように技術進化は遂げてくる中、内燃機関のインフラが維持できないとみています。つまりガソリンスタンドと整備工場で働く人材であります。

EVは極めて政治的である一方、技術競争の塊であり、かつ、顧客となる人々への啓蒙が重要であります。日本ではEVのチャージングステーションに普通車が止まっているのが当たり前になっている現状を聞くにつけ、全然なっていないと思います。私のところのEVステーションに普通車が止まっていることはまずないし、そうすればすぐにレッカー移動されるのが当地の常識なのです。

EV普及できないのは私から見れば中国とテスラに降参したと酷評されても致し方ないのであります。当面はHVで引っ張れると思いますが、HVは使い方によってはガソリンを本当に使わないのでガススタンドのインフラ維持が厳しくなる問題が先に来るような気がします。特に地方は要注意だと思います。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2025年12月22日の記事より転載させていただきました。

会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。