インフレがある世界、金利がある世界

株価がバブル時の最高値を更新したのは24年2月。「もはやバブル後ではない」と言いたいところでしたが、失われた30年のもう一つの象徴といえばデフレであり、金利のない世界でした。私は金利のない世界は仏教の教えと若い頃に誰かに吹き込まれた記憶があるのですが、事実、そのような教えを唱える仏教は福岡の報恩寺のように実際にあるようです。貧困のない共同体という思想なのだと思いますが、日本人も仏門に入り、幸福社会を目指すようになったのか、と勘違いするほどでありました。

私は黒田氏が日銀総裁の時は強い違和感を持っていました。超低金利(あるいはマイナス金利)にして市場にじゃぶじゃぶの資金を投下するという考えであります。マネタリストのフリードマン教授の信奉者であるベン バーナンキ氏がデフレ克服にはヘリコプターでお札をばら撒けばよいと述べたことが思想の背景にあったとされます。ですが、この理論の背景は「財とサービスが一定である限りにおいて」という前提がつくのですが、日本の場合は総需要不足に対して総供給が増加するという事態が生じたため、お金の中に日本が埋もれてしまったという表現が一番正しかったと思っています。

植田日銀総裁はその発想を修正すべく就任時からその取り組みを行いました。その結果、見事と言えるほど金利のある世界に戻ってきたのです。つまり私の懸念通り黒田氏の施策は違っていたわけで、それを推した安倍氏も間違いだったように感じます。

ところが現政権は財政緩和政策を取ります。もちろん、一義的にそれがダメとは言いません。効果的な緩和策なら良いのですが、どうも総花的に見えるのです。その昔、竹下総理がふるさと創生事業と称して日本中の市区町村に1億円をばら撒いたことがあるのですが、それに近い感じがしないでもないのです。その上、今回は一定程度景気が良い中でのバラマキなのでインフレを促進しやすくなる効果があり、日銀が利上げしてインフレを引き締めるのに対して政府がそれをブレイクするという相反するチカラがかかるのであります。

なぜばら撒くのか、たぶん、財政の状況が良いこともあるのだと思います。つまり税収が多い、これが財務省が緩め政策に強い抵抗を示していない理由ではないでしょうか?もちろん、現政権の支持率が異様に高いこともあります。

為替については植田総裁の先日の記者会見で歯切れが悪かったのが尾を引いています。問題は2つ。引き続き利上げのベクトルにあるとしながらも、次はいつごろかのヒントを出さなかったこと、もう1つは中立金利の見直しを述べなかったことであります。特に中立金利については日銀がそれについて述べると言っていたので失望感が漂ったわけです。

これの何が問題か、といえば円安が止まらないのです。これは国内物価を押し上げる要因になるとともに国際通貨の一角である円の立ち位置が崩れてしまうのであります。片山さつき財務大臣がブルームバーグとの単独インタビューで現在の為替の動きを投機的とし、「断固として措置を取る、アクションを取るということを申し上げている」と述べています。個人的には為替介入をやる気がします。タイミングはクリスマスの頃で市場参加者が極めて少ない北米時間24日午後から25日は狙い目でしょう。その後、1週間もやりやすい時期だと思いますが、年が明けるとやりにくくなります。片山氏の「断固」の意思を確認するには絶好の機会になります。

片山さつき財務大臣

ただ、仮にここで5円ぐらい円高になっても市場は軽くあしらうとみています。つまりひと月もせずに今の水準に戻る公算はあります。以前から申し上げているように為替の決定要因は通貨量が基準ですが、国力がモノを言うからです。

ではお前ならどう通貨防衛をするのか、と言われたらとりあえず、政治の圧倒的安定化を図る、これしかないと思います。ついては国民民主を与党に引き込む、そして絶対多数で安定した政権を作ることでしょう。今の与党は維新が文句ばかり言って離婚カードは自分たちが握っているというスタンスですが、そこに国民民主が加わることで吉村氏を黙らせればよいと思います。

インフレがある世界、金利がある世界は平常経済に戻るということです。最終的には中立金利がどこにあるか日銀がそれを示すことでゴールが見えやすくなると思いますが、個人的には1.5%-2.5%のレンジではないかとみています。仮にそれが正しいとすれば利上げ余地はまだまだあると市場は理解するので円安は止まりやすくなると思います。

何度も言いますが、インフレがなく、金利もない世界は異常だったのです。集中治療室で体力の回復を待つも、30年も眠り続けたようなものです。病院から退院すれば当然、自分のチカラで歩き、稼ぐ努力をしなくてはいけません。今はそのリハビリの中にある訳で少しずつ体力をつけることで異常値であった日本の経済状況が戻るだろうと思っています。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2025年12月23日の記事より転載させていただきました。

会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。