政府は、物価高と人手不足が深刻化する介護分野への緊急対応として、2026年6月に介護報酬の臨時改定を行う方針を固めた。定期改定を待たずに賃上げを実施するが、財源問題や制度の持続可能性を巡る懸念も強まっている。
参照:26年度介護臨時改定、2.03%増 MEDIFAX web
- 政府は19日、2026年6月の介護報酬臨時改定の改定率を全体で2.03%引き上げる方針を決定し、その内訳として処遇改善に約1.95%、食費対応に約0.09%を充てる考えを示した。
- 厚生労働省は2025年12月12日の社会保障審議会介護給付費分科会で、2026年6月を念頭に介護報酬の臨時改定を行う方針を正式に提示した。
- 政府は、介護職員の給与を2026年度に月額最大1万9千円引き上げる方針で、障害福祉事業所の職員についても同水準の処遇改善を行う考えを示している。
- 新たな「介護職員等処遇改善加算」では、これまで対象外だった訪問看護、訪問リハビリテーション、居宅介護支援を新たに算定対象に含め、介護職員以外の従事者にも対象を広げる。
- 処遇改善の実効性を担保するため、生産性向上や事業所間の協働化を要件に加え、施設では生産性向上推進体制加算の取得、訪問・通所系サービスではケアプランデータ連携システムの導入などを求める方針だ。
- 今回の臨時改定は、2025年度補正予算による月1万円の賃上げ措置が2026年5月で終了することを踏まえ、空白期間を生じさせないため6月施行とする異例の対応となる。
- 分科会では、介護分野の賃金水準が他産業との差を広げているとして月2万円規模の賃上げや公費負担の拡大を求める声が相次いだ一方、財源として市町村の介護給付費準備基金を充てることへの懸念も示された。
- 介護分野の問題の本質は、公的保険と補助金により価格が低く抑えられ、過剰消費を通じて資源配分を歪めている点にある。
- 介護保険は保険料と同額の公費が投入され、実質1割負担に近い利用者負担が一般会計の赤字要因の一つとなっており、負担の在り方そのものを見直さない限り、給付拡大と財政悪化の循環は止まらない。
- 医療・介護従事者数は製造業就業者数を上回る見通しで、地域によっては雇用の大半を医療・介護が占める構造が固定化しつつある。
今回の介護報酬臨時改定は、人材流出を防ぐための「その場しのぎ」としては一定の効果が見込まれるが、需要抑制や利用者負担の見直しといった根本改革を先送りしたままでは、制度の持続可能性はさらに損なわれる。賃上げと給付拡大を続けるだけの政策対応が限界に近づいている現実を、直視する局面に入っている。
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