村上グループがフジの不動産を売却を迫るが…

村上グループというより村上ファンドといったほうが親しみがあるのですが、現在は父の村上世彰氏がレノという投資会社、娘の野村絢氏が個人名でアクティビスト型投資を行っています。今回、その父子が本格的に攻め始めたのがフジメディアホールディングス。例の騒動の時は比較的後ろに回り、あまり目立った感じがしなかったのは当時のバトルの趣旨が村上父娘にとってあまり主眼ではなかったのだろうと思います。

フジテレビHPより

今回、同社株を買い増しして攻めたてるポイントがメディアと不動産の分離であります。大手メディアに散見できる通り、メディアはなぜか不動産がお好きなようでTBSは赤坂サカスの再開発でフジと似た体質、テレビ朝日は有明地区開発、日テレは汐留の本社ビルのほか不動産賃貸事業が有名だし、朝日新聞や日経新聞もよく知られた不動産持ち会社であります。

経営者が考えることは事業がうまくいかない時のバックアップであります。つまり本業の一本足打法だと詰まる時は一気に詰まるのです。私が秘書時代に会長から教えを受けたことがあります。「ゼネコンがなぜホテル事業をやるかわかるか?」と。当時、施主からの支払い条件の悪さは驚くほどでした。ある得意先の約束手形なんてサイト6か月でした。つまり割り引かない限り6か月間、金にならないわけです。こんなのふざけていると思うのですが、建設業というのは扱い額が何億、何十億円という規模なので「そこをどうにか…」と揉み手をすれば「うちには建設会社はいくらでも出入りしているんですよ」という担当の一言に「結構です」になってしまうのです。

そこで会長は「日銭が入るホテル事業はゼネコンと相性は最高なのさ」と誇らしげに語ったのであります。この学びは私には意味がありました。今でもそうですが、手持ちの日本とカナダの開発事業は完成後、運営を開始しても人件費も取らず、利益も取らず、ただひたすら借金の返済を行っています。でもその間、借入金がない運営中の不動産事業からキャッシュが入るのでそれで人件費を賄うという仕組みを作り上げたのです。つまりメリハリの経営です。

では本題のメディアと不動産。村上氏のいう一本足打法は正解か、といえば私はNONと申し上げます。それはメディア産業に稼ぐ力がほとんどないか衰退過程にあり、それを回復する術が今のところ見いだせていない点を上げます。

フジサンケイグループの売り上げの3/4はメディア、1/4が不動産事業です。一方、利益のセグメントを見ると2021年3月期はメディア137億円に対して不動産37億円、つまり比率で見れば8:2でメディアでした。ところが例の事件の影響がまだ少ない24年3月期を見るとメディア157億円に対して不動産が195億円と逆転しています。トレンド見てもメディアの売り上げは22年の230億円をピークに下がり続け今では直近は赤字であります。一方、不動産収入と利益は破竹の勢いで伸びているのです。

経営学修士を取ったような方からすると複数の事業を持つのは良くないとし、経営資源を一つに集中すべきだとする教えを受けるはずです。ただ、それは絶対的に勝ち抜け、圧勝するシナリオがある場合なのです。フジは放送法でがんじがらめの事業なのです。もちろん一社独占することもできません。一般企業のような経営の自由度がない点、及び海外に出るという野心がほとんどないのならフジテレビが変わるとしてもそれは抜本的変化ではなく、化粧が変わる程度なのです。

ワーナーブラザーズが売りに出ていますが、これから先の成長より身売りの方が正しい選択だと考えたわけです。もちろん、メディアは何処か勝ち抜くのですが、映画の世界ならネットフリックスに圧勝の気配があります。それは世界の茶の間のハートを取り込んだからです。しかし日本のメディアは日本語の放送であり、若者はテレビ離れが進み、バラエティ番組に限ればどのチャンネルも似たり寄ったりで差別化が図れません。朝日新聞は不動産があるから経営が続いていると言えます。村上氏にはフジの前に朝日新聞に殴り込みをかけたらどうかね、と言いたいところであります。

私は実はカナダのある大手テレビラジオのメディア会社の株主を10数年続けているのですが、ひどく苦戦をしています。株価は買値から99.9%下がり時価総額なんて私の手持ちの商業不動産の価値より少なくなっています。先般も株主総会にオンラインで参加してこの苦境をどう乗り越えるのか、聞いていたのですが、何年たっても名案はなく、ずっと縮小均衡のリストラを続けているのです。

北米のメディアの状態が日本にもいつかは伝播していくわけで私からすると日本の地上波の放送は受信料がタダだから存在できるようなもので今のテレビ好きの高齢者が視聴を止めたらどうなるのだろうと思うのです。

フジの清水社長は村上氏側のメディア切り離しについて「我々からすれば短期的な考えにみえる」と述べています。私は村上世彰氏は嫌いじゃないのです。氏の自叙伝も読み、しっかりした理論の中で生き抜いてきたのだなというのは理解しています。でもどんなプロでも100発100中なんてないのです。今回の村上父娘のアプローチは頂けないなぁ、と感じるところであります。

村上 フレンツェル 玲氏 村上財団HPより

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2025年12月日の記事より転載させていただきました。

会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。