「アロンアルフア」を製造販売する東亞合成株式会社が、キャンペーンオリジナルアニメ「つくの子」を配信している。
「つくの子」の「つく」は、アロンアルフアで「くっつく」のダジャレ。ヒットアニメ「推しの子」のパロディであることは言うまでもないが、アニメの大半を占めるのは「ダジャレ」だ。その連打が凄まじい。設定からしてダジャレだらけだ。
「大切なものとくっつきたい!」
アイドルを目指すプラモ大好き主人公「いますぐつくの(今直筑乃)」。行く手を阻むライバルは「ハガ・スヨン」。そしてプロデューサーは「ク・ツク」。目指すはK-POPアロドル界のトップ(Kは韓国ではなく「くっつく」ポップ! アロドルはアロン……省略)。
・劇中のライブ日程は、9月29日9時29分(くっつく・くっつく)
・劇中のイベントの参加人数は、249,889,929人(つよく・はやく・くっつく)
・背景の商業施設は「渋谷109」ではなく「渋谷929」(くっつく)
そして、このキャンペーン自体の開始日も11月19日(いいつくの日)……いやもう十分だ。
さむい。ダサい。オヤジギャグ。これまで不遇に扱われてきたダジャレ。だが、バカにするなかれ。ダジャレは、伝達が早く記憶に残る。とてつもない可能性に満ちている。(本当か?)。では、広告のプロの仕事を見てみよう。まず、キャッチコピーから。
キャッチコピーはダジャレに満ちている
眞木準氏は、「広告界の貴公子」と呼ばれた名コピーライターである。残念ながら2009年に60歳の若さで早逝された。氏の代表作を挙げる。
「恋を何年、休んでますか。」(伊勢丹 1989年)
このコピーは好評を博し、2001年放映のドラマタイトルにも使われた名作である。だが、覚えている人はあまり多くないのでは。多くの人が記憶しているのはこっちだ。
「でっかいどお。北海道」(全日空 1977年)
そう。この眞木氏こそ、ダジャレキャッチコピーの第一人者なのである。氏の作品群には
・「おぉきぃなぁワッ。」(全日空 沖縄)
・「ネクタイ労働は甘くない。」(伊勢丹)
・「父曜日。」(伊勢丹 父の日ギフト)
などダジャレ――本人曰く「ダジャレじゃない。オシャレ!」――コピーが並ぶ。
数十年前、筆者は氏のキャッチコピー講座を受講したことがある。講座終盤に受講生全員がキャッチコピーを作成するのだが、提出されたコピーは大半がダジャレ(オシャレ)。眞木氏が優秀作として取り上げたのは「行くヨーグルト」。やはりダジャレだった。
そもそも、ダジャレ(駄洒落)は揶揄する言葉だ。“何か言われたとき、すぐにかえす気のきいた言葉”である「しゃれ」に、教養がないという理由で、“くだらない”・“つまらない”を意味する「駄」をつけたのが「ダジャレ(駄洒落)」である。
眞木氏は、「ダジャレ」を「しゃれ」に復権させるどころか、「オシャレ」にまで昇華させた。さすが広告界の貴公子だ。眞木氏に限らず、名作コピーには、ダジャレ・掛詞を用いたものも多い。例えば、以下のコピーだ。
「愛に雪、恋を白」(JR SKISKI)
作者の一倉宏氏は、このコピーを「眞木氏と同様の手法」で書いたという。
「愛に雪、恋を白」(JR SKISKI)
サービス名もダジャレに満ちている
ダジャレを重用するのはサービス名も同様だ。例えば「Suica(スイカ)」と「ICOCA(イコカ)」である。
左 伊豆急ウェブサイトより/右 三洋電車公式サイトより
Suica(スイカ)は東日本旅客鉄道(JR東日本)が発行する交通系ICカードである。「スイスイ行けるICカード」の意味を持たせ、スイカ(西瓜)と合わせた緑色をメインカラーとして採用している。正式には「Super Urban Intelligent CArd」の略だという(……どう見てもこじつけに見えるのだが)。
一方、ICOCA(イコカ)は、西日本旅客鉄道(JR西日本)が発行する交通系icカードである。こちらも「IC Operating CArd」 の略だという……だが、さすが関西。
「ICOCAでいこか?タッチしていこか?」
「ICOCAで買おか?タッチして買おか?」
ダジャレコピーに切れがある。
商品名もダジャレに満ちている
大阪・関西万博公式キャラクターの名称「ミャクミャク」もダジャレ類だ。
ミャクミャクは、絵本作家である山下浩平氏がデザインし、愛称は一般公募から選ばれた。同一愛称で二人から応募があったため、公式サイトには、両者のコンセプトが記載されている。
「私たち人間の素晴らしさを『脈々』と受け継ぐ」「ミャク=脈」
(川勝未悠氏)
「国際的なつながりを『脈』という言葉で表す」
(作田陽向氏)
生命感を表す「脈」とのダジャレ、繰り返しによるオノマトペ効果、そして(慣れると)可愛いキャラクター。相乗効果で大ヒットとなり、「日経トレンディ」25年ヒット商品番付1位となった。
日本語は楽しさに満ちている
先の眞木氏の講座は、「グラフィック」に偏りがちなクリエイターたちに対し、「言葉」の楽しさ・大切さを訴えていたのが印象的であった。
ダジャレ・ごろ合わせ・掛詞。日本語は楽しさに満ちている。来年、新商品発売や新ブランド立ち上げ、新会社創設をお考えの方々。ネーミングは、広告代理店やコンサルタントに頼む必要はない。年末年始、ご自身で言葉遊びしながら考えてみてはいかがだろうか。
【参考】
キャンペーンオリジナルアニメ「つくの子」
他