黒坂岳央です。
年末になると、宝くじ売り場には長蛇の列ができる。毎年、それを嬉々として取り上げ「宝くじは愚者の税金だ」「自分は投資で成功している」という承認欲求を解消するための投稿をよく見る。
自分を上に上げるために他人を下に見て悦に入るのは稚拙だと思いつつ、彼らの言っていること自体は間違ってはいない。確かに正論ではある。筆者は宝くじをバカにすることはしないが、買ったこともない。
だがこうした「合理的な批判派」こそ、意外に相手の視点を見落としていると感じる事がある。
※本稿は、宝くじを買うことを「合理的だ」と主張するものではない。ただ、宝くじ購入者を一括りにして「バカだ」という意見を見るたび、そこには見落とされている視点があるのではないか、と感じて書いた。
TkKurikawa/iStock
投資や起業にはない宝くじのメリット
「宝くじを買う暇があるなら、起業や投資の勉強をしろ」彼らはそう批判する。だが、これこそが「持てる者」の傲慢な盲点で、宝くじを買う人達を解像度高く見えていない。
そもそも起業や投資に挑戦するには「適格資産」が必要だ。言い換えるとエントリーには入場チケットがいる。
まずは時間と精神力、数年単位の学習と挑戦の継続が前提である。また、失敗すれば、かけていた資金や時間を失う。そして税制上、ビジネスで10億円の「手残り」を得るには、約20億円以上の利益を出し、最高税率の壁を越えなければならない。
「宝くじなど買わずに少額からインデックス投資を始めるべきだ」という反論もあるだろう。それ自体は正しい意見だ。だが「人生が詰んでいる感」がある人にとって、「20年後の期待値」はインセンティブとして弱い。
それに対して、宝くじには「即時性」「思考不要」「非課税」という圧倒的なメリットがある。当選金は所得税がかからず、そのまま全額が懐に入る。
何の準備、努力、スキルも要らない。ただ売っているものを買うだけでいいので誰でも出来る。インデックス株の値上がりを20年待つ、みたいなことをしなくても当選すれば即お金が手に入る。
ほとんどの人は起業、投資で成功しない
批判派が持ち出す根拠は、常に「数学的期待値」である。還元率が約50%である以上、買えば買うほど資産は半減する。
だが、購入者、当の本人が求めているのは平均値の向上ではなく、「人生の期待値」である。
起業や投資で成功する人は全体のほんの一握りだ。さらに一度、成功しても途中で失敗してそれまでの利益を飛ばす人もいる。そもそも、上述の通り、特に投資はある程度の元手がなければエントリーすら出来ない。
つまり起業する人、投資する人の絶対数の少なさを考慮すると、「起業か投資すればいい」はズレたアドバイスといえる。「それが出来たら苦労はしない」と返ってくるからだ。
宝くじは「数百円の紙切れ」であらゆる時間、資金、努力、スキルをスキップできる可能性を買っていると考えれば、それは起業や投資に入れない人達にとって時間対効果を極めた究極のショートカットとも言える。現実的な確率として当たるかどうかはさておき、宝くじが魅力に見える気持ちはわからなくもないのだ。
宝くじ当選後の末路を笑う者達
さらに批判派は「宝くじに当たっても、リテラシーがないから彼らはどうせ数年で破滅する」と笑う。確かに、大金を扱う器がなければ資産を失うのは事実だろう。日本だけでなく、アメリカでも宝くじに当選後、不幸な末路をたどる話はいくらでもある。
だが、その論理で言えば、「原資を減らすことを恐れるあまり、節約と蓄財に人生を捧げ、死ぬ時が最も金持ちになる人」もまた、「お金を使う」という面から見たファイナンシャルリテラシー不足といえる。
たまに「爪の先に火を灯す勢いで貯めました」と特集される人がいるが、お金は増やしたら勝ちなのではなく、それを満足行く人生経験になるべく早い段階で出来たら勝ちだと思うのだ。「お金を上手に増やし、上手に使う」、この入口から出口まで出来て始めて「確かにリテラシーがある」と思われる。
年寄りになってから資産持ちになったものの、それまで節約しすぎてあまり人生経験がない、という相手を「羨ましい!」と思う人はいないはずだ。
◇
さらに批判派は「宝くじに当たっても、リテラシーがないから彼らはどうせ数年で破滅する」と笑う。確かに、大金を扱う器がなければ資産を失うのは事実だろう。日本だけでなく、アメリカでも宝くじに当選後、不幸な末路をたどる話はいくらでもある。
だが、その論理で言えば、「原資を減らすことを恐れるあまり、節約と蓄財に人生を捧げ、死ぬ時が最も金持ちになる人」もまた、「お金を使う」という面から見たファイナンシャルリテラシー不足といえる。
たまに「爪の先に火を灯す勢いで貯めました」と特集される人がいるが、お金は増やしたら勝ちなのではなく、それを満足行く人生経験になるべく早い段階で出来たら勝ちだと思うのだ。「お金を上手に増やし、上手に使う」、この入口から出口まで出来て始めて「確かにリテラシーがある」と思われる。
年寄りになってから資産持ちになったものの、それまで節約しすぎてあまり人生経験がない、という相手を「羨ましい!」と思う人はいないはずだ。
■
2025年10月、全国の書店やAmazonで最新刊絶賛発売中!
「なめてくるバカを黙らせる技術」(著:黒坂岳央)