ロシアのプーチン大統領は27日、ウクライナ侵攻を進めるロシア軍の司令部を訪問し、ゲラシモフ参謀総長からウクライナ東部ドネツク州や中南部ザポリージャ州の戦場の現状について報告を受けた。その後、「ウクライナが平和的な終結を望まないなら、我々は武力で解決する用意がある」と豪語している。
プーチン大統領、軍服で統合軍司令部を訪問し、ゲラシモフ参謀総長らと会談、2025年10月26日、クレムリン公式サイトから
興味深い点は、プーチン氏が軍服姿で登場したことだ。政治家が軍服で現れる時、権威の象徴、強いリーダーシップ、国家防衛への決意などを内外に示す狙いがある。
ウクライナのゼレンスキー大統領が米フロリダ州でトランプ大統領と会談する前日、プーチン氏は軍服姿でわざわざ司令部を訪問したのだ。単なる偶然ではなく、プーチン氏特有の計算されたパフォーマンスだろう。具体的には、「ロシアは特殊軍事行動の目的を放棄しない」というメッセージをウクライナと米国に向けて発信する目的があったはずだ。
ところで、プーチン氏は元来、軍服を好む指導者ではない。同氏は5月9日の対独戦勝80年記念軍事パレードでも背広姿だった。例えば、ロシア軍の前ショイグ前国防相もべロウソフ現国防相も軍キャリアはないが、プーチン氏は彼らを国防相に任命している。ショイグ氏は軍務を経験していないにもかかわらず将官の階級を得て、2012年に国防相に任命された。一方、アンドレイ・ベロウソフ現国防相は経済学者だ。彼はソビエト連邦で経済学を学び、プーチン氏の経済顧問として仕えてきた。プーチン氏は軍服より背広が好きなベロウソフ氏をあえて国防相に抜擢したのだ。
ちなみに、プーチン氏が最近軍服姿で登場したのは10月26日、統合軍司令部を訪問し、ゲラシモフ参謀総長らと会談した時だ。長距離核ミサイル「ブレヴェスニク」のテストに成功したことを内外に発表するためだった。
「ブレヴェスニク」(9M730)は、ロシアが開発中の原子力推進式巡航ミサイルだ。原子力エンジンによるほぼ無限の長距離飛行が可能で、アメリカのミサイル防衛網を突破することを目的としている。トランプ米大統領は5月20日、次世代のミサイル防衛構想「ゴールデンドーム」を発表したばかりだった。「ブレヴェスニク」は「ゴールデンドーム」すら突破できることを、軍服姿のプーチン氏は誇示しようとしたわけだ。
プーチン大統領は軍の最高司令官だが、そのキャリアの核心は軍人ではなく「諜報員(スパイ)」だ。プーチン氏は1975年から1991年までの約16年間、KGB(ソ連国家保安委員会)に勤務していた。彼は正規軍の将軍としてキャリアを積んだわけではない。そして軍人のイメージよりも「冷徹で有能な実務家・政治家」というイメージを優先する傾向がある。プーチン氏にとって軍服は、あくまで「戦う指導者」を演出する必要がある際の政治的ツールに過ぎない。
ウクライナが主導して作成された20項目の和平案には、ウクライナの北大西洋条約機構(NATO)加盟の放棄、ドンバス地方(ウクライナ東部のドネツク州とルハンスク州)の領土割譲問題などのロシアの核心的要求は明記されていない。プーチン氏は同和平案がモスクワ寄りに大きく修正されない限り受け入れないだろう。
プーチン氏は軍事作戦の継続モードに入っている。2025年に入って戦況の報告を受ける際や軍の司令部(クルスク州など)を訪問する際に、迷彩柄の軍服姿で登場する機会が増えてきた。ウクライナや欧州諸国にとって警戒すべき兆候だ。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2025年12月29日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。