特別養護老人ホーム待機者5万人減の裏で進む「定員割れ」の深刻度

特別養護老人ホーム(特養)を巡っては、長年「入所待ち」が社会問題とされてきた。一方で近年は、待機者数が減少する一方、定員割れや人手不足といった新たな構造問題が浮かび上がっている。

  • 厚生労働省の調査によると、2025年4月1日時点で特養の待機者は約22万5000人となり、2022年の前回調査から約5万人減少した。
  • 待機者減少の背景には、全国的な施設整備の進展に加え、代替サービスの拡充があると上記の記事では指摘されているが、それ以外の理由も大きいようだ。

  • 特養は原則として要介護3以上の高齢者を対象とし、入浴や排せつ、食事などをケアプランに基づいて提供する公的性格の強い施設である。待機者の約9割にあたる約20万6000人は要介護3以上で、依然として重度者中心の需要構造に変わりはない。
  • 都道府県別では東京都が1万8776人と最多で、都市部を中心に地域差が大きい状況が続いている。

  • 最大の制約要因は介護スタッフの人手不足であり、定員分の職員を確保できず、空床があっても受け入れできない施設も存在する。新設された施設が職員不足で開業できない、あるいは待機者数を過大に見積もり定員が埋まらないといった事例も報告されている。
  • 地方では、雇用の多くを介護・医療に依存する地域構造が固定化しており、制度や財源が揺らげば地域経済そのものが崩壊しかねないとの懸念もある。

特養の待機者減少は一見すると前進に見えるが、その裏側では人手不足や地域経済への過度な依存といった深刻な問題が進行している。入所しやすくなった一方で、制度の持続性や介護現場の疲弊は限界に近づいており、単なる施設整備では解決できない段階に入っていると言える。

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