イランでは昨年末から各地でイスラム聖職者支配体制(ムッラー政権)に抗議するデモが続いている。ロイター通信は13日、イラン当局筋からの情報として、抗議デモで治安部隊を含め約2000人が死亡したと報じた。
イランの最高指導者ハメネイ師(イラン国営IRNA通信から)
イランの最高指導者ハメネイ師が86歳と高齢の上、国民のムッラー政権への不満は高まっていることから、抗議デモが更に続けば、イラン革命(1979年)以来、継続してきた聖職者支配体制が崩壊する可能性が出てきた、と受け取られている。ただし、イランでは組織された野党勢力や指導者が不在で、ポスト・ハメネイ師の受け皿が見当たらない。
そこで考えられるシナリオは軍事力を有する「イラン国軍」か「イスラム革命防衛隊」が暫定的に軍事統制を敷く可能性だ。以下、イランの国軍(アルテシュ)と「イスラム革命防衛隊」(IRGC)という二つの異質の軍事組織についてそのプロフィールをまとめた。
イラン国軍は陸軍、海軍、空軍、防空軍から構成されている。旧イラン帝国軍を継承しており、アメリカやイギリスの影響を受けた軍制を持ち、その使命は旧帝政軍を継承し領土防衛を担うことだ。
一方、IRGCはレボリューション・ガードで、1979年のイラン革命後に、体制への忠誠が疑われた国軍への対抗勢力として、最高指導者ホメイニーの命令で創設された。革命体制とイデオロギーを守る特殊なエリート軍事組織で、独自の陸海空軍や特殊部隊ゴドス軍(クッズ部隊)、ミサイル部隊、民兵組織(バスィージ)を有する。
イラン軍の総兵力は国軍・革命防衛隊合わせて約60万人規模だ。組織的には、国軍とIRGCの全軍を指揮するのはアブドルラヒム・ムーサヴィ参謀総長(Abdolrahim Mousavi)だ。国軍のトップはアミール・ハタミ(Amir Hatami)総司令官。IRGCはモハンマド・パクプール総司令官(Mohammad Pakpour)だ。パクプール総司令官は、2025年6月のイスラエル軍の空爆でホセイン・サラミ総司令官が死亡した後、後任として昇進・任命された。
IRGCは米国からテロ組織に指定されるなど、海外でのテロ活動や軍事活動を行ってきた。イランは過去、パレスチナ自治区のイスラム過激派テロ組織「ハマス」、レバノンの民間武装組織ヒズボラ、イエメンの反体制派武装組織フーシ派に軍事支援してきた。同時に、シリアのアサド政権に対してもロシアと共に軍事支援してきた。その一方、イスラエル軍の空爆で大ダメージを受けた核関連施設など、核兵器開発のために巨額の資金投入を繰り返してきた。その中心的役割を果たしてきたのはIRGCだ。
IRGCは同時に、イランの経済を掌握し、それを資金源としてこれまで反イスラエル作戦を展開してきた。IRGCは石油とガス産業、建設と銀行だけでなく、農業と重工業にも組み込んでいるコングロマリットを所有している。
イランは過去、二つの異なる性格を持つ軍事組織が対立してきたことがある。例えば、革命直後、新政権は旧王政時代の国軍を「革命を覆す恐れがある組織」として強く警戒した。1980年のクーデター未遂事件などを受け、国軍幹部が多数処刑・追放された。
また、.イラン・イラク戦争では両者は戦術や資源を巡って激しく対立した。訓練を受けたプロの軍人である「国軍」は伝統的な近代戦術を重視したが、宗教的情熱を重んじる「革命防衛隊」は、甚大な犠牲を伴う「人間による波状攻撃」などを強行した。また、革命防衛隊が巨大な経済コンツェルン化し、政治的影響力を強める一方で、国軍は「予算不足・装備の老朽化・政治からの疎外」という冷遇を受け続けてきた。最近では、2025年に発生したイスラエルによるイラン攻撃の際も、防空任務を担う国軍と、報復攻撃を主導する革命防衛隊の間で、対応の優先順位や責任の所在を巡る摩擦があったと報じられている。
ハメネイ師が不在となり、現体制が流動化した場合、IRGCは、ハメネイ師亡命後の権力空白を即座に埋める準備が最も整っている組織だが、IRGCは現体制の象徴であり、国民からの恨みも非常に強いため、彼らによる統治は「軍事独裁」と見なされ、内戦やさらなる激しい抵抗を招くリスクがある。
一方、国軍は、政治から距離を置く「国家の守護者」としてのイメージを保ってきた。過去の抗議デモの際も、国軍は「国民に銃を向けない」と受け取られるなど、国民からはIRGCよりも信頼を得ている。亡命後の混乱期に、国民が「秩序の回復」を求めて国軍を支持する可能性はある。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2026年1月14日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。