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電気が来ないという理由で、AI用のデータセンターの建設が遅れている。
政府によれば、送配電網への未接続のデータセンター等の電力容量は2030年度までの累計で約1,500万kWに達し、日本の最大電力需要のおよそ1割に相当する規模にまで膨らんでいる※1)。これ以上に、データセンター事業者からの接続に関する「問い合わせ」の容量はさらに多い、と関係者は指摘している。いつ電気が来るか分からないことが、データセンター投資のボトルネックになっている。
日本データセンター協会の増永事務局長は、
とにかく電力が圧倒的に不足しています。データセンター事業者としては電源を選択している猶予はないのです。
と述べている※2)。
電力不足に陥る根本原因は、2011年の東日本大震災以降の経産省の電力政策の完全な失敗である。
第一の失敗は、脱炭素の名目のもとに、火力発電を抑えつけていることである。火力発電は今なお日本の発電電力量の7割を占める基幹電源である。そうであるにもかかわらず、日本政府は、脱炭素政策、なかんずく排出量取引制度の導入によって、火力発電事業の採算性を消し去っている。
短期的な電力需要増大に対応するには、その現実解は火力発電以外にはない。それが封じられていることは、電力不足の第一の原因となる。これについてはすでに詳しく書いた。
そして、第二の失敗は、いわゆる電力システム改革と呼ばれる電気事業制度改革の失敗である。2011年の東日本大震災によって東京電力福島第一原子力発電所が事故を起こした。経産省はこれを受けて、事実上の懲罰として、全国の電力会社を解体した。
すなわち、発電、送配電、小売りが一体となった垂直統合の一般電気事業者が解体されて、発電会社、送配電会社、小売会社への垂直分離が行われた。地域独占も解体されて、多くの発電会社と小売り会社が参入した。発電会社は約1300社、小売会社は約800に上る。この制度改革によって競争が導入されることで電力価格は低下するはず、というのが政府の説明だった。
だが、今の電力不足問題は、まさにこの電力システム改革の帰結として起きている。データセンターを建設したいと思う事業者が、送配電会社への系統接続を申し込んでも、送電線の空き容量が不足しているという理由で送変電設備が増強されるまで数年間も待たなければならないケースが増えている。
これは必ずしも物理的な空き容量の不足だけが原因ではない。垂直分離の下では、送配電会社は全ての接続申し込みを公平に扱う制度になっており、データセンターないし蓄電池事業者の接続検討申込に対しては先着優先で対応しなければならない。
事業者は少しでも負担金の安い地点を見つけようと複数の地点で申込みを行うが、実際に建設するのは1個所かまたは事業化を断念することも少なくない。このようないわゆる接続の「から押さえ」が蔓延して問題を悪化させている。
データセンター案件にしても、送配電会社としては、現行制度の下では、あまり積極的に接続をする動機を持ちえない。大型のデータセンターの接続のためには、数百億円といった設備投資が必要になるが、データセンターによる将来の電力需要が不確実であれば、それが回収できない恐れがあるためである。
送配電会社は送配電設備を建設・管理し、小売事業者から電力の託送料を受け取る仕組みになっている。すると小売りの利益は小売り事業者が、発電の利益は発電事業者のものになってしまう。その一方で、データセンターが予定通り稼働しなければ、送配電会社の収入は途絶えてしまい、設備投資をした分が回収できなくなる。
火力発電事業者の側も、地域全体として電力需要が伸びるかどうかは何ともわからないところがある。データセンターが増えるとしても、それがどの程度になるか、ましてどの火力発電会社の電気を使うのか予測は出来ない。のみならず、他の産業の衰退などによって電力需要が減少することもある。このため、発電事業者も、積極的に発電所を建設するという形にはなっていない。
結局、現行の電気事業制度においては、数多くのデータセンターが電力供給を渇望していても、送配電事業者にも、発電事業者にも、積極的な設備投資の動機は生じない。
もしも、電気事業が地域独占・垂直統合・総括原価方式のまま、つまりは大震災のあった2011年以前の状態であったらどうだろうか。
かつては、大規模な電力消費量の増大が見込まれるということであれば、「新規需要開拓」を合言葉として、発電・送配電・小売部門からなる全社を挙げて、設備投資に邁進した。
送配電のための設備投資費用が嵩むとしても、それは信用力の大きい垂直統合・地域独占・総括原価方式の電力会社が発行する電力債でファイナンスすることもできた。また、送配電に投資すれば、それに電気を供給することも独占的に出来たから、自社で積極的に発電所を建設し、売上が伸ばし利益を出した※3)。
そして何よりも、地域独占であった電気事業者は、地域全体の産業活動が発展することなくしては、自社も成長しないことをよく分かっていたから、質の高い電力需要家の誘致にも熱心であり、埋め立て、港湾整備や道路整備などの、自治体のインフラ整備計画にも積極的に協力した。
もし今もなお垂直統合・地域独占・総括原価のままであったなら、電力会社は「千載一遇のチャンス」とばかり、自治体と協同して、確実に電力需要を生みそうな質の高いデータセンター投資を選別して誘致し、そこに電力供給インフラを発電から送配電まで一気に全社一丸となって建設していたのではないか。
かつての東京湾・大阪湾・伊勢湾の重工業コンビナートには、必ずその中核に火力発電所があった。そして重要なことに、電気事業者は、電力需要の下ぶれのリスクを取ることができた。総括原価方式によって利益が保障されていたからである。
もちろん、この電気事業体制には問題点も指摘されていた。特に、設備投資が過剰になり、結果として電気料金が高くなるのではないか、ということである。このような点については政府も認識して、料金の査定を精緻に行うなどの漸進的な改革が行われていた。
だが、問題点以上に遥かに重要なことは、電気事業者が「電力需要の下振れリスクを取れる」ということが、電力供給を豊富にすることにつながり、ひいては経済成長に大きな寄与をしたことである。
電気は産業や生活の必需品であるため、経済全体にとっては、電気を過剰に供給するためのコストよりも、電気が不足することによるコストの方がはるかに大きい。このため、常に供給が過剰気味になる方が、不足気味になるよりも、国の経済のためには遥かに適切である。
今、電力不足がボトルネックとなってデータセンター建設が進まないという状況は、非常に大きな経済成長の機会を逃していることに他ならない※4)。
今、政府審議会では、データセンターの電力不足問題が生じていることを認めているものの、垂直分離自体は是としたままで、「事業者間の連携を進める」といった小手先の改革を加えようとしている(総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会 第3回次世代電力・ガス事業基盤構築小委員会 令和7年10月31日、資料5)。
しかし、戦略的な失敗は、戦術的な成功では取り返しようがない。もともと事業者間の垂直「統合」を禁止して、価格シグナルのみに任せるというのが垂直分離の原点なのだから、「連携」するというのは自己矛盾で、うまくいくはずがない※5)。
国運を左右するAIに電気を供給できないような電気事業制度は、震災前、つまり2011年の状態に戻すべきだ。
そのための具体的な法案について以前に書いたので参照されたい。
電力を垂直統合に戻す法律:安定・安価で計画的な電力供給を実現せよ
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※1)正確には、「一般送配電事業者に接続供給申込みが行われ、なお未連系となっている特別高圧案件の容量」であり、データセンター以外も含む。
※2)https://www.jaif.or.jp/journal/feature/itsociety/data_center/binge/
※3)加えて、小売事業も垂直統合されていたので、電気事業者はその売り上げと利益ももちろん期待することができた。
※4)経済学的な説明を加えると、少々電気料金が高くなっても、電力需要はそう簡単に減らない。このことは電力需要の価格弾性が小さいという形で計測できる。価格弾性が小さいということは、消費者余剰が非常に大きいのである。したがって電気が不足すると莫大な消費者余剰が失われることになる。
※5)自己矛盾になっていることは、この審議会資料自体も「垂直連携のメリットと中立・公平・競争の重要性の緊張関係」として婉曲ながら認めている。
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