米国はベネズエラを支配下に置いた。次に目標にしている国はキューバである。キューバは熟れすぎた果物のように時間の経過とともに自然に地面に落ちていくはずだ。しかし、そうはいっても倒壊にあまり時間をかけるのは良くないとして、トランプ政権はキューバのカストロ体制と交渉を開始している。同国の指導者層をロシアに亡命させるためだ。
その次に米国はニカラグアの独裁者を駆逐し、コロンビアに右派政権を誕生させることが目標となっている。
法治国家は看板だけ:崩落するメキシコ
それと併行して米国が長年気になっているのがメキシコである。同国は2000年代から麻薬組織(カルテル)が国の政治を支配しているといっても過言ではなくなっている。
カルテルは政界、経済界、司法界などに影響力を持つようになっている。大統領でさえも彼らを恐れているのが現状だ。大統領の選挙資金には必ずカルテルから資金が出ており、またカルテルに背くような対策を取ると暗殺される可能性さえある。
ペーニャ・ニエト大統領の政権時に国防相を務めた軍人のシエンフエゴ大将がカルテルから高額の賄賂をもらっていたことを米国の麻薬取締局(DEA)が調べ上げた。彼と彼の家族が米国に旅行に行った時に空港で逮捕されるという事件があった。
このように政府の閣僚でさえもカルテルの手が忍び寄っているのである。その後、彼は「メキシコで裁かれる」という条件で釈放され帰国した。しかし、メキシコの司法で軍隊の将校を裁くような力はなく、結局彼はメキシコの法廷で証拠不十分として釈放となった。これが今のメキシコである。司法でさえ機能しなくなっており、法治国家は看板だけの状態になっている。
トランプの野望は国境の南にある
そのようなこともあって、トランプ大統領は最近の「フォックス・ニュース」のインタビューで次のように述べた。
米国は麻薬取引をやっているカルテルを地上戦にて攻撃したいと思っている。彼らがメキシコを統治しているからだ」「我が国で毎年25万から30万人を殺している」。この死者数は薬物乱用による死者数を示したもので、薬物を米国に導入しているのがカルテルである。さらに同大統領は「国家指導者(シェインバウム大統領)は不安を抱いている。カルテルがメキシコをコントロールしていることに幾分恐れを抱いている。だから(私は)何かせねばならない。
“麻薬ハブ国家”として肥大化したカルテル
1990年代初頭にはメキシコには7つのカルテルしかなかったが、現在カルテルは50以上ある。それに準ずる組織としてギャング組織などが多数存在している。その中で最大の組織シナロアとヌエバ・ヘネラシオンは政治指導者、判事、警察、企業経営者などあらゆる分野に影響力を持っている。彼らは賄賂をばらまき、要求を受け入れない場合は殺害することも容易だ。
彼らの違法行為を追跡するジャーナリストは2000年から今年1月までに176人が殺害されている。だから犯罪を担当するジャーナリストは死と対峙しながら強い正義感をもって事件を暴いている。
1980年代まで麻薬は南米コロンビアが中心であった。メキシコは麻薬の最大消費市場である米国の隣国にあるということで中継地として成長した。それが次第に勢力を拡大し、コロンビアのカルテルを凌ぐまでになった。
メキシコから米国に密輸できる検問所は60以上ある。一般の輸出品を積んだコンテナの中に麻薬を隠して米国に密輸している。この検問所の検査官もカルテルから賄賂をもらって見て見ぬふりをし、米国に商品を輸出させている。米国で麻薬を密売して稼いだ資金で武器などをメキシコに輸入している。その数は日ごとに2000丁だという。
さらに、米国やメキシコで特殊部隊に籍を置いていた軍人たちが民間軍事組織を設立してカルテルと組み仕事している。その数は45以上と言われている。彼らの持っている武器は高度なレベルにあり、メキシコ軍のヘリコプターを打ち落としたこともある。
主権か現実か:メキシコのジレンマ
シェインバウム大統領はカルテルの撲滅に米国から軍隊を入れることは国家の尊厳にかかわるとして拒否している。しかし、米国から軍事介入してカルテルと戦わせない限り、カルテルを退治することは不可能である。
それは即ち、米国に麻薬が今後も密入国されることを意味する。特にトランプ大統領が注意を注いでいるのは合成麻薬フェンタニルだ。致死率が異常に高い薬物である。それを米国で密売しているのはシナロアとヌエバ・ヘネラシオンの2つのカルテルがほぼ大半を占めている。
彼らの武装力はメキシコの軍隊を凌ぐレベルで、同じ兵力で対戦すればメキシコ軍に勝ち目はない。しかも軍部や警察にもカルテルから賄賂を受け取っている軍人や警官もいる。だからまともな戦いはできない。
トランプ大統領にとって最大のジレンマの国はメキシコである。