ウクライナ問題では「有志連合(CoalitionoftheWilling)の会議が開催された」といったフレーズをよく聞く。例えば、フランス、ドイツ、ポーランドの欧州3国がウクライナへの武器支援を主導し、他の欧州連合(EU)に連帯を呼び掛ける場合だ。ウクライナ支援に消極的なハンガリーやスロバキアの反対を想定し、支援支持国だけで課題を協議する。すなわち、特定の政治課題や紛争問題に対し、目的を共有する国々が自主的に参加・結成して実行する。「有志連合」は常設の同盟とは異なり、その時々の状況に応じて参加国メンバーが変動する。
ダボス会議で「平和評議会」の設立式が挙行、ダボス会議公式サイトから
「有志連合」という政治枠組みは、2003年のイラク戦争で広く使われた用語だ。国連安全保障理事会で拒否権を有する5カ国の常任理事国間で意見が一致しないため、米国主導で「有志連合」が結成された。
パレスチナ自治区のガザ紛争やウクライナ戦争で明らかになったが、国連には紛争解決力がない。国連外交官は「議論は長々と続く。大多数が支持していても常任理事国の一国でも反対すれば、決議案は可決できない」と嘆く。その主因は第2次世界大戦後設立された国連の安全保障理事会にある。国連改革とは、安保理改革を意味するといわれる所以だ。現状では、常任理事国の一国として拒否権を放棄する国はない。
トランプ米大統領は国連の無能力さを良く知っているから、共通の価値観を有する少数の国を中心に紛争の解決を目指す。そのためトランプ政権は就任以来、国連専門機関を次々と脱退してきた。最近では、トランプ米政権は22日、世界保健機関(WHO)からの脱退手続きを完了したと発表したばかりだ。
次はトランプ大統領が提案した「平和評議会」(Board of Peace)だ。トランプ大統領は、昨年9月に米国が仲介した20項目からなるガザ停戦計画の第2段階の一環として「平和評議会」(BoardofPeace)を提案し、その参加国の署名式が22日、世界経済フォーラム(WEF)の年次総会(ダボス会議)で行われた。
「平和評議会」の任務は当初、ガザ地区に限定されているものと受け取られていたが、「平和評議会」の憲章には「紛争の影響を受け、またはその脅威にさらされている地域において、安定を促進し、信頼できる合法的な統治を回復し、永続的な平和を確保することを目指す国際機関」と明記されている。だからトランプ氏の下で、「平和評議会」が国連安全保障理事会に代わる組織に拡大しようとするのではないか、と受け取られ出している。
「平和評議会」の設立日には、トランプ大統領に加え、アルゼンチンのハビエル・ミレイ大統領やハンガリーのビクトル・オルバン首相など、各国首脳や政府代表、そして合計19カ国の代表が設立文書に署名した。その他、バーレーン、モロッコ、アルメニア、アゼルバイジャン、ブルガリア、インドネシア、ヨルダン、カザフスタン、コソボ、パキスタン、パラグアイ、カタール、サウジアラビア、トルコ、アラブ首長国連邦、ウズベキスタン、モンゴルの代表が署名した。
ちなみに、トランプ大統領が進める「平和評議会」に対し、カナダのマーク・カーニー首相は20日、ダボス会議でトランプ氏主導の新しい世界秩序構想に異議を唱え、会議参加者から「ダボス会議で最高のスピーチ」と注目を集めた。
カーニー首相は、「米国主導のグローバル・ガバナンス体制は現在、ルールに基づく秩序の衰退と大国間の競争を特徴とする亀裂に直面している」と強調した。メッセージの核心は、「米国抜きで、必要であれば米国に対抗してでも、我々はやっていかなければならない」というものだ。同首相は超大国が自国の利益を追求するために容易に採用する「弱肉強食の法則」に安易に従うことを拒否し、「力の弱い者の力は誠実さから始まる」と宣言している。
カーニー氏は「私たちは古い秩序が戻ってくることはないと知っている。その終焉を嘆くべきではない。懐古主義は戦略ではない。私たちはこの断絶から、より大きく、より良く、より強く、より公正なものを築くことができると信じている。それが中堅国家(ミドル・パワー)の任務だ。中堅国家は共に行動しなければならない。なぜなら、我々がテーブルに着かなければ、我々はメニューに載ってしまうからだ」と述べ、「米国、中国、ロシアが世界をパイのように分割するのをただ傍観するのではなく、バランスを取るよう呼びかけるべきだ。これはナイーブな多国間主義ではない。問題ごとに、共に行動できる十分な共通点を持つパートナーと、機能する連合を築くことだ」と説明している。
「有志連合」、「平和評議会」、そして「中堅国家同盟」といった一連の政治的枠組み(構想)は新しい世界秩序建設に向けたアイデアだ。いずれにしても、私たちは今、現行の世界秩序が終焉し、新たな世界秩序に向けて激動の真っ只中にいることだけは間違いない。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2026年1月24日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。