高学歴、高キャリアほど人生から自由が減る

黒坂岳央です。

「勉強して良い大学に入れば、将来の選択肢が広がる」

我々はそのように幼少期から刷り込まれている。筆者は義務教育を早々に放り出し、中学・高校はほとんど不登校状態で学校に行かなかったので「将来は職業選択の自由がなくなる」と嫌になるほど脅されてきた。

だが、この意見は残酷なまでに嘘だと思っている。実際は真逆で高学歴、高キャリアを目指すほど、道は少なくなりやがて一本道しかなくなっていく。

「責任」という代償を背負う覚悟で本当に人生を自由に生きたければ、むしろ学歴やキャリアなど気にしないほうがいいと思っている。

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人は「権利」に縛られる

良い学校へ行くような人は総じて長期視点を持った努力家揃いだ。仕事で東大、海外MBAを含めて数多くの難関大学卒と一緒に働いたことがあるが、彼らは仕事も出来るし、とんでもなく努力をする。

客観的に見ると、高学歴は人生の選択肢を無限大に持っているように見える。実際、そのとおりだ。その気になれば高級官僚、大企業ビジネスマン、起業家などの道がある。その気になればパティシエ、保育士、料理人なども自由なはずだ。

ただしここで注意すべきなのは、「選択肢があること」と「実際にその選択肢を選べること」は別問題という点である。学歴は本来、可能性を広げるための“権利”であるはずだが、多くの場合、それは次第に「行使しなければならない義務」へと変質していく。

筆者自身、米国大学留学を経て就活をするタイミングでリーマン・ショックにあった。最初は「米国までいって会計の勉強をしたのだから」と大手監査法人、大手税理士法人、大企業の会計職などを中心に門戸を叩いたが経済不況で手も足も出なかった。

すぐにプライドを捨てて柔軟に戦略を変えればよかったが、「あんなに頑張ったのだから」と、すぐに気持ちを切り替えることは難しかった。

本来、可能性を広げるための切符であったはずの学歴が、いつの間にか自分の身を縛り付けてしまうのだ。

エリートほど起業しない理由

高学歴・高キャリア層の多くは、「できる自分」に対して強烈なアイデンティティを抱いている。彼らの世界観はしばしば「Up or Out(昇進するか、去るか)」という垂直的な価値観に支配されている。

だから彼らが向かう道は、競争社会だ。官僚、法人など形を変えて彼らはそこで競争する。勉強で競争に勝ち続けてきたから、ビジネスでも競争し、そして勝つ。

そして常に頂点を目指す教育を受けてきた彼らにとって、異業種への転職や起業といった「部分的なリセット」を伴う横移動は、一時的な能力低下や地位の喪失を意味する。だから優秀な人ほど、真に優秀さが求められる起業の世界にはいかない。

筆者は「起業家はサラリーマンより偉い」など稚拙な表面的評価をしているのではない。自分が言っているのは、起業家はサラリーマンよりはるかに「変数」が多く、多面的な情報処理をするための能力が求められる、という話を言っている。

実際の起業の現場を見渡すと、この構図はよりはっきりする。起業家は中卒、高卒だらけの世界だ。筆者の周囲で店舗、農家、酪農、法人など形は違えど経営者をしている人のほとんどは高卒で、大卒は自分くらいなものだ。

これは「学歴が低いほうが起業に向いている」という単純な話ではない。むしろ、彼らは雇用や肩書きに強くロックインされる経験をしてこなかったため、環境変化や職業の切り替えに対する心理的コストが低かった、という側面が大きい。

一方でおそらく、勉強を勝ち抜いた真のキャリアエリートが柔軟性を引っ提げてドンドン起業すれば、とんでもなく成功する人はもっと出てくると思っている。

もちろん、高学歴で起業し、大きな成功を収めている人も現実に存在する。

ここで言っているのは「できるか、できないか」という可能性の話ではない。問題にしているのは、「平均的にどちらの選択がなされやすいか」という傾向の話だ。

勉強で競争を勝ち抜いてきた人ほど、これまで積み上げてきた評価軸から外れる決断を後回しにしやすい。その結果として、起業という選択肢が現実的に取りにくくなる傾向がある。

「勉強エリートと起業家に求められる能力は違う」と言われそうだし、それ自体は正しい。だが起業はセンスではなく、「型」だと思っているので、彼らが本気を出せばサラリーマンから起業家へのスイッチングも可能であり、最初は苦戦しても優秀な人はやがて突き抜けるだろう。

中年になってからの「初転職」の難しさ

「高学歴、エリートの話でしょ?自分には関係ない」

と思うかもしれない。だが、そんなことはない。すべての人に共通して言える話だ。

どんな人でも同じ会社、同じ部署、同じ仕事をすれば確実に熟練する。つまり、相対的に強者になる。いわゆる「学歴やキャリア」という武器と同じ性質を持つ。そしてこの武器が転職を難しくする。

特に、20代から30代を一つの場所で過ごし、一度も「脱線」を経験しなかった人は危うい。40代、50代になって初めて直面する転職や環境の変化は、想像を絶する恐怖を伴う。だから中年まで一度も転職しないのはリスクだ。「一生この会社で働きたい」本人がそう思っても、会社が消える時はあっという間だ。そんな時、いきなりフラットに価値を求められる労働市場に放流されて戦えるか?変化できるか?そのリスクは常に考えておくべきだ。

その逆に若い頃に転職や異分野への挑戦を繰り返しておくといいだろう。そうなれば「環境が変わっても自分はやっていける」というフットワークの軽さを身体化できる。自分は正社員になってからも必要なスキルと経験を得てドンドン転職して年収をアップさせていったので、独立する時も変化に対してまったく躊躇はなかった。若い頃にフットワークを軽くしておく価値は非常に大きい。

学歴は本来、可能性を広げるためにあったはずだ。これは「勉強するな」「学歴を捨てろ」という話ではない。勉強で得た武器に人生を委ねきってしまい、その武器を外す決断ができなくなることこそが、本当のリスクだと言っている。

もし今、その学歴のせいで身動きが取れなくなっているのなら、もう無理に重課金してまで高学歴を獲得する価値はなくなっていく。ただでさせ、変化が早く、外国人労働者やAIとの戦いが始まっている今、下手な学歴やキャリアなんて得れば「プライドは高いが機動力が低く、変化に弱いビジネスパーソン」になってしまうだろう。

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なめてくるバカを黙らせる技術」(著:黒坂岳央)

働き方・キャリア・AI時代の生き方を語る著者・解説者
著書4冊/英語系YouTuber登録者5万人。TBS『THE TIME』など各種メディアで、働き方・キャリア戦略・英語学習・AI時代の社会変化を分かりやすく解説。