黒坂岳央です。
「日本は生きづらい」という言葉をよく見る。
SNSやメディアでは、働くことの苦しさ、人間関係の息苦しさ、将来への不安が語られ、しばしば「日本社会は生きづらい」「日本の会社はおかしい」といった議論があちこちで交わされる。
本当だろうか。少なくとも、その原因を「日本という国」や「国民性」に一括りにしてしまうのは解像度が粗い話になる。
この生きづらいという言葉は、「会社で働くこと」に集約されているのではないだろうか。筆者の持論を取り上げていく。
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会社員が生きづらい
日本で「生きづらい」と語られる文脈の多くは、会社員を前提にしている。
主婦、学生、自営業者から同じ強度でこの言葉が発せられることは比較的少ない。もちろん彼らに苦労がないわけではないが、「人格を否定されている感覚」「逃げ場のない閉塞感」という意味での生きづらさは、会社勤務において圧倒的に顕在化する機会があるし、自分自身もその経験がある。
これは、日本の会社が単なる労働の場ではなく、評価・人間関係・生活基盤を一体で抱え込む構造を持っているためである。会社に適応できないことは、仕事が合わないという話にとどまらず、「社会人として失格」「人として問題がある」という文脈にすり替わりやすい。ここに、生きづらさの温床がある。
選択肢を持たないことが生きづらさになる
だが、会社員として働く事そのものがイコール生きづらさではない。思うに「選択肢の有無」にあると思っている。
たとえば、本人はリモートワークに惹かれて入社をしたとする。だが、事情が変わって会社が一方的に出社を要請したとする。このとき、反応は二つに分かれる。
一つは、スキルや経験を十分に持ち、労働市場での選択肢がある人である。このタイプは生きづらさなど感じない。出社要請の条件が合わなければ、別の会社にすぐ移るだけだからだ。
実際、現在の労働市場では、職種によってはリモート前提の企業はいくらでも存在する。結果として、生活スタイルも心理的安定も維持される。
生きづらいのはもう1つのタイプだ。会社に生殺与奪を握られている状態だ。「出社しろ」と言われたら従う以外に選べない人である。会社から言われるままに振り回され、理不尽に耐え続ける感覚が生きづらさの正体である。
真の問題は会社員であるか、仕事の内容や上司ではない。選択肢を失った結果として、生殺与奪を自ら差し出さざるを得ない状態に置かれているか否かである。
選択肢を持つことの重要性
こういう議論では「会社が悪い、社員の人生のことをちゃんと考えない」といった話がよく出る。だが、自分はあまりそう思わない。確かに世の中には悪魔のような悪い企業があるが、今どきそれはほんの一部に過ぎず、多くの場合、それが唯一の選択肢だと思い込まされているだけなのだ。
解決方法はシンプル。選択肢を自分が持てばいい。先ほどのリモートワーク解除が嫌なら、即転職しても年収などのキャリアを維持、もしくはむしろアップグレードできるよう、常に自分自身の時価総額を高める意識をするのだ。
筆者の場合は幸いにも、そうした判断が可能な状況にあった。転職した瞬間から「この会社ではこのスキルと経験を得て、その次はこのような会社に行こう。そのためには必死に働かねば」という感覚があったので、「いざとなればいつでも出られる」と考えていた。会社から受ける心理的圧力はあまりなかったという記憶がある。もちろん、瞬間的には上司や会社から理不尽な対応をされたことは数多くあるが、人生そのものが後ろ向きになるような感覚はない。
「市場価値を高めろ」というのは会社へのロイヤリティのためではなく、それ以上に自分が生きづらくならないためである。
日本ではキャリアを意識しづらい
しかし、ずっと昔から「価値を高めろ」と言われ続けてそうなっていないのか?それは個人の怠慢というより、社会構造の問題である。
日本社会は長年、新卒一括採用、年功序列、終身雇用を前提としてきた。学生時代までの教育も、「正解を当てる」「レールに乗る」ことを重視してきた。加えて解雇には大きなハードルがあり、そうなると会社側も景気に連動した柔軟な雇用は難しい。その結果、「就職」ではなく「就社」という感覚がスタンダードになる。そうなると転職はリスキーな行為に映る。
会社を選び直すことは「裏切り」や「失敗」と結びつけられ、動かないことが美徳として内面化されていく。主導権を持てないのは、能力不足というより、そうした前提で育てられてきた結果なのである。
◇
日本は会社員以外であれば生きづらさは比較的小さいと思っている。自分は経営者、投資家の立場で、「日本という国に由来する理由」で生きづらいと言っている人を見たことがない。
「稼げないと辛いでしょ」という人もいそうだが、どの国でもそれは同じだ。人生の選択肢を自分で持てる人間にとって、日本はむしろ、低コストで清潔、便利で、非常に生きやすい国家である。
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