社会保障改革の「本当の力学」が見えてきた
幸いなことに、日本維新の会、国民民主党だけでなく、チームみらいも社会保障改革を主張するようになり、社会保障改革を志向する立場からすれば大変心強い状況である。
しかし、日本維新の会が連立入りしたにもかかわらず、高市氏の意向ばかりが目立ち、維新の改革が進んでいないことに強い不安を覚えた。そこで、社会保障制度改革の仕組みと力学構造についてより詳しく検討した結果、以下のような力学によって社会保障改革が進められていることが分かった。
もちろん、専門家や詳しい人にとっては常識レベルの話かもしれないが、一般の有権者として政治に関心を持っている程度では、なかなかたどり着けない認識ではないかと思われる。
かく言う私自身も、社会保障改革に強い関心を持ち発信を続けるようになってから間もなく3年になろうとしているが、誠に恥ずかしながら、ここまで十分に理解できていなかった。
以上を報告するので、ぜひ参考にしていただきたい。
改革案を作るのは誰か? 医師会の「拒否権」の正体
まず、根本的に改革案を作成するのは厚生労働省の官僚である。
官僚が素案を作り、それが厚労部会や中央社会保険医療協議会(中医協)といった、外部からの介入が及びにくい閉鎖的な組織の中で議論される。
そこで承認された案が、与党内──歴史的に見ればほとんどの場合は自民党──の政務調査会(政調)審議会を経て、ようやく党の正式案となり、国会に提出されるという仕組みである。
この構造に関しては、前回の記事も参考にしていただきたい。
この仕組みのため、そもそも厚生労働省の官僚が適切な改革案を作成しない限り、いくら議論を重ねても改革が進むはずがない。
そして、問題は厚労部会、中医協に医師会の意向が色濃く反映される歴史的経緯と構造があり、さらに医師会は自民党に多額の献金をするなど、党全体の政策決定にまで及ぶ影響力があるということだ。
医師会は、内部の議論の進め方と政権方針の制約という二つの経路を通じて影響力を行使してきた。とりわけ、都合の悪い改革案には部会や中医協で反対するという形で、実効的な拒否権を持っていた。
そのため、この構造を熟知している厚生労働省は、そもそも医師会が通さないような案は最初から提示しようともしないという形で、改革の方向性が強く制約されてきたのである。
維新連立入りの効果:官僚の「本音」を引き出す
では、それを打破する方法は何か。
現状を象徴する現象は、医師会に対する反対勢力として位置づけられる日本維新の会が連立与党入りしていることである。
そして維新が政権内にあっても反医師会的主張を崩さないことで、部会や中医協における拒否権を発動しにくくさせている。あるいは、より直接的には「骨太の方針」に方向性を示すことで、厚生労働省の改革案そのものに方向付けを与え、医師会勢力が拒否権を発動しづらい状況をつくっている。
その結果、維新が連立入りして以降、改正医療法や診療報酬改定についても、かなりの部分で医師会の意向を退ける方向に進みつつある。
これは裏を返せば、厚生労働省にはもともと一定の改革意欲が存在していたことを示している。すなわち、医師会さえいなければ、改革案自体はいつでも提示できる能力と意欲を有していたという証左である。
いずれにせよ、政治の力学としては、与党内に反医師会的な勢力──より具体的には、医師会の意向に対して実効的な対抗力を持つ勢力──が存在することで障壁が低くなり、厚生労働省もより踏み込んだ改革案を提示できるようになった。
したがって、日本維新の会が社会保障改革を推進するために本来行うべきことは、単に法案や政策案を提出することではなく、政権内で医師会への忖度を拒絶する声を積極的に上げ続けることであったと言える。
「役人が出せる案」の限界と、不可欠な政治的圧力
しかし、これは厚生労働省が単独で案を提示できるレベルの比較的小規模な改革にしか当てはまらない。
例えば、維新の目玉政策であるOTC類似薬の保険適用除外や、高齢者の医療費自己負担を原則3割とする案など、社会的な反発や影響が極めて大きい改革については、制度の根幹に関わる変更が必要であり、政治的な強い要請や圧力がなければ、厚生労働省や中医協が自発的に踏み込むことは困難である。
つまり、これらの改革を実現するためには、「骨太の方針」に期限付きで明記する、あるいは予算拒否をちらつかせた強力な圧力をかける、といったレベルの政治的関与が不可欠だということである(前回記事参照)。
有権者が持つべき「したたかさ」
この力学が見えてくれば、有権者の行動も変わる。
単に「改革を支持する」という姿勢にとどまらず、
「どの党に、どのように圧力をかければ制度が動くのか」
を計算して行動できるようになる。そうなれば、維新の主張の強度や、国民民主党・チームみらいの主張内容に対して、どのように反応すれば誰がどのように動くのかという解像度が高まる。
例えば、最近ではチームみらいが高齢者の自己負担3割を主張し始めてから支持を伸ばしているが、その主張を拡散・強調すれば、それに対抗して維新も主張を強める。その結果、政権内における反医師会勢力の影響力も強まる、という力学が働く。
国民は、こうした構図を踏まえて、ある程度意図的に発信することも可能になる。
いかがだろうか。
政治は歴史的既得権益の集積だ。素朴な希望を呟くだけでは何も変わらない。だが、制度の構造を理解すれば、限られた影響力でも効果的に使える。
それが少子高齢化でがんじがらめの日本で、私たち有権者が持つべき「したたかさ」だ。
そういう時代に生きている、ということである。
編集部より:この記事は精神科医である東徹氏のnote 2026年2月3日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は東徹氏のnoteをご覧ください。