日本が貧しいとお金持ちでも困る

黒坂岳央です。

「日本が貧しくなっても、自分には資産があるから関係ない。円安もインフレも余裕でウェルカム!」

理屈の上ではそう考えやすいが、現実はそうならない。

現在は日本は国家としてはお金持ちだが、国民の可処分所得は昔より減少している状態である。インフレや円安で一般人は苦しんでも、資産家にとってはむしろ追い風になる。だがそれは、国家のインフラが維持されている場合に限った話だ。国家が弱れば、お金で解決できない問題が増えていく。

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医療の崩壊

お金があれば最高の医療が受けられるというのは、社会インフラが維持されていることが前提の幻想である。

現在、日本は最高クラスの医療を非常に手頃な価格で受けられる国家である。しかし、国家が貧しくなり、医療現場が人手不足と予算不足に陥れば、どれほど私立病院に金を積もうと、高度な医療機器を動かす技術者や、24時間体制の看護師がいなくなってしまう。

最も致命的なのは救急医療だ。心筋梗塞や交通事故に見舞われた際、救急車が来ない、あるいは受け入れ先の病院がすべて閉鎖されている状況では、現金は何の役にも立たない。

高度な医療システムとは、豊かな中間層が支える「社会全体のインフラ」の上に成立しているのである。

治安の悪化

貧困は直接治安の悪化を招く。治安が悪化すれば、富裕層は真っ先に狙われる。 高級車で街を走れば強盗に狙われ、自宅を要塞のように警備しても、一歩外に出れば誘拐や詐欺のリスクが常につきまとう。

今の日本のように、夜道を一人で歩ける、あるいは子供が自分たちで登下校できるという「当たり前の安全」は、金銭に換算すればお金で買えない価値がある。

治安が悪化した社会では、その安全を買うために莫大なコストを払い続けなければならない。結果として、自由な生活ではなく「警戒と管理が前提の生活」に変わっていく。

インフラの劣化

道路、橋、水道、電気。これらは国家の血流だ。 国が貧しくなり、これらの維持管理ができなくなれば、どれだけ豪邸に住んでいようが無関係に断水や停電が襲う。

「自分だけ自家発電機や浄水器を置けばいい」と思うかもしれない。しかし、社会の基盤が弱れば、燃料価格の高騰や供給の不安定化が起きる。結果として「希望すればいつでも手に入るとは限らない」という状態になる。

個人の富で国家レベルのインフラをすべて代替することは不可能であり、社会全体の劣化は、等しく個人の生活の質を押し下げる。

海外移住は簡単には出来ない

「日本がダメなら海外へ逃げればいい」という意見がある。だが、現実はそれほど甘くない。 まず、ビザの取得難易度は年々上がっており、巨額の投資や特殊な才能がなければ居住権すら得られない国が増えている。さらに、文化や言語の壁も想像以上に高い。

そして何より、日本レベルの治安、食事、マナー、清潔さを“同時に”満たす国を探すのは難しい。どこへ行っても、何かしらのトレードオフが発生する。

欧米の富裕層エリアは一見華やかだが、少しエリアが変わるだけで雰囲気が一変することがある。日本のような「均質な安全圏」は、世界的にはむしろ例外だ。

自分は海外留学、海外旅行を経験してきたが、どこへいっても日本以上の国は見つけられなかった。だからこそ、日本が貧しくなるのは富裕層にとっても他人事ではない。

「自分だけお金があればいい」という考え方は、社会が安定している時にしか通用しない贅沢な勘違いだ。貧しくなれば、法律や制度は“存在”していても、運用する人手と予算が足りず、現実には機能しなくなっていく。

SNSでは「FIREして自分だけが楽な生活をしたい」という意見が多いが、それは、国が秩序を維持し、その人を支える他者が必須という大前提の下に成り立っている。だから国の豊かさは他人事ではなく全員で守っていかねばならぬのだ。

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なめてくるバカを黙らせる技術」(著:黒坂岳央)

働き方・キャリア・AI時代の生き方を語る著者・解説者
著書4冊/英語系YouTuber登録者5万人。TBS『THE TIME』など各種メディアで、働き方・キャリア戦略・英語学習・AI時代の社会変化を分かりやすく解説。