日本の中小企業政策は、二度と戻れない場所を超えた
2026年2月8日。衆議院総選挙の結果、日本の中小企業政策は「生存の選別」という、二度と戻れない不可逆な一線を越えた。
解散前の高市政権は、それまで石破元首相らが固執していた「新しい資本主義」という、聞こえの良い分配重視の看板を即座に下ろした。
代わって掲げられたのは「健全な発展」である。
これが今回の選挙で国民から全面的に承認された事実は重い。
つまり、国は「甘い救済」を切り捨て、実力のある企業を徹底的に伸ばすという、冷徹な競争戦略への舵切りを圧倒的に選択したのだ。
社長、あなたはまだ、国が中小零細を救ってくれると思っているのか?
この問いに答えるには、今回の総選挙が何を意味するのかを、財務と金融の実務家として冷徹に分析する必要がある。
高市首相 同首相Xより
「利益2兆円」の怪物が主導する新世界
現実を直視してほしい。
三菱UFJ銀行や三井住友銀行が叩き出す利益の額をあなたはいえるのだろうか?
100億円や1000億円ではない。
1兆円だ。
そして三菱UFJは今期、2兆円を超える「利益」を叩き出すと発表している。
売上ではなく、利益が、である。
この数字の意味を理解しているだろうか。
中小企業が束になっても到達できない規模の資本が、今、日本の金融システムを動かしている。
そして、高市政権が掲げる「健全な発展」とは、まさにこの巨大資本が成長企業を選別し、育て、収益を最大化する構造を、国策として後押しすることを意味する。
政権が「健全な発展」を掲げ、2兆円もの利益を出す巨大資本が2026年の新制度を主導する。
この状況下で、事業計画すら書けず、将来のキャッシュフローすら語れない会社が、どうやって生き残るというのか。
圧勝した高市政権の継続は、依存時代の終焉を意味するのだ。
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令和の選別ツール「企業価値担保権」
その選別の「武器」となるのが、2026年5月25日に施行される「企業価値担保権」である。これは単なる融資制度の追加ではない。金融庁が6年をかけて設計した、銀行と社長の「二極化」を完成させる国家プロジェクトだ。
この制度の検討が始まったのは2018年。
「動産・債権を中心とした担保法制に関する研究会」が設置され、従来の不動産担保・経営者保証に依存しない融資の在り方が議論されてきた。2023年12月には「事業性融資の推進に関する業務の基本方針」が閣議決定され、2024年6月7日、国会で法律が成立した。
この法律の推進本部は、内閣総理大臣直轄である。本部長は金融担当大臣、構成員は経済産業大臣、財務大臣、農林水産大臣、法務大臣。5つの省庁が連携する文字通りの国家プロジェクトだ。
2025事務年度の金融行政方針では「金融行政の目玉」として明記され、もはや金融機関の評価基準(モニタリング対象)に組み込まれることは確定している。
そして今回の総選挙で、高市政権の「健全な発展」路線が国民に承認された。
これは、企業価値担保権という選別ツールの全面稼働に、政治的な正当性が付与されたことを意味する。
昭和・平成の社長は「土地さえあれば、銀行が貸してくれる」と信じてきた。しかし、この新制度が変えるのは社長の融資環境だけではない。銀行そのものが、選別されるのだ。
金融庁が仕掛ける「金融インフラの二極化」
昭和・平成の社長は、「土地さえあれば、銀行が貸してくれる」と信じてきた。不動産担保があれば安心。これは、高度経済成長期からバブル期にかけて機能した「成功体験」である。
しかし、企業価値担保権が変えるのは、社長の融資環境だけではない。銀行そのものが、選別される。
金融庁は、この新制度を通じて金融機関の「目利き能力」を可視化しようとしている。高度な事業性評価を伴う融資に対応できる銀行には成長企業が集まり、対応できない銀行は、必然的に従来通りの担保依存型融資、すなわち現状維持の零細企業との取引に固定されることになる。
これは、国による「金融インフラの二極化」という、極めて合理的な選別プロセスである。
企業価値担保権が求めるのは、事業の将来性、無形資産(ブランド、技術、顧客基盤)、将来キャッシュフローの評価である。これを審査できる銀行と、できない銀行。この差が、2026年5月以降、決定的に可視化される。
そして、審査できない銀行に口座を持つ社長は、どれほど成長意欲があっても、その銀行の審査能力の限界が、会社の成長の天井になる。
地銀再編の裏にある「知性のコスト」
なぜ国は、地方銀行の再編をここまで急がせたのか。
青森のプロクレアホールディングス(県内シェア約7割)や長崎の十八親和銀行(8割超)、新潟の第四北越銀行、千葉の千葉銀行、茨城の常陽銀行など、独占禁止法の特例まで認めて「1県1行体制」を加速させたのは、企業価値担保権の審査には膨大な「知性のコスト(専門人材とリソース)」が必要だからである。
企業価値を評価するには、財務分析だけでなく、市場動向、技術トレンド、経営者の資質、事業の継続性を複合的に判断できる人材が必要だ。このレベルの審査を、県内に複数の銀行が並立したまま実現することは、コスト的に不可能である。
だから国は、地方ごとに銀行を「統合」させ、限られたリソースを1つの金融機関に集約させた。しかし、統合したからといって、高度な審査能力を持つ人材が突然育つわけではない。
結果として、地方の統合銀行は従来通りの不動産担保融資に固執し、企業価値担保権を使いこなす都市部の大手銀行——三菱UFJ、三井住友といった、利益1兆円超の巨大資本——との格差は、決定的に開くことになる。
これが金融庁の描いたシナリオであり、高市政権が掲げる「健全な発展」の実像である。強者(メガバンク)が強者(成長企業)を選び、弱者(地銀)は弱者(零細企業)に固定される。この二極化こそが、令和の金融政策の本質なのだ。
64.9%の「知らない社長」の末路
金融庁が2025年に実施した金融機関向け認知度調査によれば、企業価値担保権を「知っている」と答えた社長は35.1%に過ぎない。つまり、64.9%の社長が「知らない」まま、2026年5月を迎える。
そして今回の総選挙で、この選別路線が国民に承認された。もはや「政権が変われば何とかなる」という淡い期待は消え去った。高市政権は継続し、「健全な発展」という名の選別は、確実に実行される。
問題は「銀行が貸してくれない」ことではない。自分の会社の成長スピードに、今のメインバンクの審査能力が追いついているか、という視点を持たない社長の思考停止である。
事業計画を書けない社長は、自動的に「低リソースな銀行」の枠の中に留め置かれる。売上高10億の経営者を目指すなら、上位の金融インフラにアクセスするための「共通言語(事業計画)」を持たねばならない。
国は、答えを全て公開している。
中小企業白書、金融行政方針、経済財政白書。これらを読めば、国が何を求めているか、銀行がどう再編されるか、全て書いてある。
しかし、99.99%の社長は読まない。
これは、カンニングペーパーを捨てて試験を受けるようなものだ。情報を知っているか、知らないか。この差が、2026年5月以降、どの金融インフラにアクセスできるかを決める。
国は支援体制も整えた。あとは社長の「在りよう」だけ
ただし、金融庁は「勝手にやれ」とは言っていない。法律では、「認定事業性融資推進支援機関制度」を創設。高度な専門知見を持つ機関が、金融機関と事業者の両方を支援する体制を整備した。
支援内容は、経営実態の把握方法の助言、事業計画の策定・変更支援、定期的なフォローアップ、企業価値評価の専門的指導である。つまり、やる気さえあれば、国が認定した専門家の支援を受けられる。
情報も、ツールも、支援体制も、すべて揃っている。高市政権が掲げる「健全な発展」の波に乗るための材料は、全て公開されている。
あとは、社長が「在りよう」を持つかどうか。それだけが問われている。
結論:銀行を選ぶ「切符」を手に入れろ
企業価値担保権は、社長の「在りよう」を問う制度であると同時に、銀行の「審査能力」を可視化する制度である。
高度な事業性評価ができる銀行——三菱UFJ、三井住友といった利益1兆円超の巨大資本——には成長企業が集まり、できない銀行には現状維持の零細企業が残る。この二極化は、金融庁が6年をかけて準備し、5つの省庁が連携し、閣議決定まで経て、国会で成立させた、国家プロジェクトである。
そして今回の総選挙で、高市政権の「健全な発展」路線が国民に承認された。
もはや救済はない。選別だけが残る。
2026年5月25日。この日から、日本の中小企業は2つに分かれる。
選別される側で終わるか、選ぶ側の知性を持つか。
問うべきは、「銀行が貸してくれるか」ではない。
問うべきは、「自分の会社の成長スピードに、今のメインバンクの審査能力が追いついているか」である。
事業計画を書けない社長は、低リソースな金融インフラに固定される。
書ける社長は、利益2兆円の巨大資本や、高市政権が主導する「健全な発展」の波に乗り、上位の金融インフラにアクセスできる。
2026年5月まで、残り3ヶ月しかない。頑張るのではない。在りようを磨け。そして、自分にふさわしい金融インフラを選択できる切符を手に入れろ。
その決断の刻限は、すぐそこまで来ている。
次回の番外編では、経産省が「伴走支援」の定義に失敗した、不都合な真実を暴露する。国も専門家も迷走している今だからこそ、自立した社長が「無双」できる理由を明かす。
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長瀬 好征
経営コンサルタント。一倉定の思想と認知脳科学を融合した「収益満開経営」を提唱。元融資サポートのプロとして30社以上の財務改善を支援。年商50億円突破を見据えた経営の科学化を伝承している。
収益満開経営(ブログ):https://evergreen-mgt.biz/blog/