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時間がないから仕事が終わらない。——本当にそうだろうか。
『要領がいい人が見えないところでやっている50のこと』(石川和男 著/明日香出版社)
1時間あっても半分しか進まない人がいる。一方で、20分で3割片づける人もいる。差は時間の長さじゃない。集中の深さだ。そんなこと、わかっている。わかっているのに、できない。
ちょっと思い出してほしい。大学受験の本番。「始めてください!」の合図の後に、スマホを触った人がいるか。LINEの返信をした人は? コーラ飲みながらガム噛んで隣の人とおしゃべりした人は? いないだろう。1点でも多く取るために、全神経を注いだはずだ。
私が受けた税理士試験は制限時間2時間だった。「あと5分あれば」「もっとテキスト読み込んでおけば」と後悔しながら、あっという間に終わった。つまらない映画の2時間は永遠に感じるのに、本気の試験の2時間は一瞬で消える。あの集中力を、なぜ仕事で出せないのか。
出せないんじゃない。出す仕組みを作っていないだけだ。
やり方は簡単。1時間だけ、本試験のつもりで仕事をする。ネットは見ない。メールも開かない。飲み物すら手を出さない。タイマーを1時間にセットして、事前に「集中するので話しかけないでください」と周囲に宣言する。11時スタート、12時終了。昼休みのチャイムが試験終了の合図だ。
たった1時間。されど1時間。これが、とんでもなく効く。
周囲がうるさければ会議室を取ればいい。カフェでも図書館でもいい。環境は自分で作るものだ。リーダーなら「集中タイム」としてチーム全体に導入してもいい。全員が何をやるか宣言して、終了後に報告する。会話禁止。雑談禁止。私の会社では集中を妨げる人を「デスク爆弾」と呼んでいるが(どこの職場にもいるだろう)、そういう人にも例外なく守ってもらう。
話を戻すと、要領がいい人にはもうひとつ共通点がある。学び続けていることだ。
忙しいのに勉強なんて、と思うかもしれない。でも、勉強で得た知識は「貯金」のように積み上がる。問題にぶつかったとき、昔読んだ本の一節がふと浮かんで解決の糸口になる。そういう経験、一度くらいあるんじゃないだろうか。
スタンフォード大学のキャロル・ドゥエック氏が言う「成長マインドセット」。才能は努力で伸びる、という考え方。これ、きれいごとに聞こえるかもしれないが、実際そうなのだから仕方ない。
教員だった亡き父がよく言っていた。「リンゴは誰かにあげたら手元からなくなるが、知識は伝えても自分と相手の両方に残る」。教えることが最高のインプットだという話だ。生徒より先生が一番勉強になる、というやつである。
試験本番のあの集中力と、日々の学びの蓄積。この二つをバカにしないこと。要領がいい人は、結局そこに行きつく。
※ ここでは、本編のエピソードをラノベ調のコラムに編集し直しています。
尾藤克之(コラムニスト、著述家、作家)
■ 採点結果
【基礎点】 39点/50点(テーマ、論理構造、完成度、訴求力)
【技術点】 20点/25点(文章技術、構成技術)
【内容点】 21点/25点(独創性、説得性)
■ 最終スコア 【80点/100点】
■ 評価ランク ★★★☆ 水準以上の良書
■ 評価の根拠
【高評価ポイント】
導入の巧みさ:コロナ禍のトイレ部品不足という意外性のあるエピソードから仕事の段取り論へ展開する構成が秀逸で、読者の関心を自然に引きつける力がある
体験に根ざした説得力:税理士試験の「あと5分あれば」という実感、「デスク爆弾」という社内用語など、著者自身の職業経験に基づく描写がリアリティを与えている
実践的な提案の具体性:「A課長、11時に仕上がる予定です」「Bさん、15時からお願いできますか」といった台詞形式での提示は、読者がそのまま職場で使える即効性がある。また、誰もが共感できる身近な比喩を多用し、ビジネス書にありがちな堅苦しさを排除している
【課題・改善点】
知見の新規性:段取りの重要性、集中力の確保、ナレッジ共有といった個々の主張自体は既存のビジネス書でも繰り返し語られてきたテーマであり、独自の切り口がもう一段ほしい
データ・根拠の薄さ:ドゥエック氏の成長マインドセットへの言及はあるものの、著者の主張を裏づける調査データや研究結果の引用が限定的で、論拠が個人の経験則に偏っている
章内の論点拡散:段取り術、集中タイム、ナレッジ共有、学びの習慣と、ひとつの章に複数のテーマが詰め込まれており、各論点の掘り下げがやや浅くなっている印象がある
■ 総評
本書は「要領がいい人」の仕事術を、著者自身の実務経験と身近なエピソードを軸に平易に解説した実用書である。受験本番の集中力からオフィスの「集中タイム」提案へと、意外性のある導入から本題へ橋渡しする構成力は確かなものがあり、読者を飽きさせない。
一方で、個々の主張についてはビジネス書の定番を超える新規性にやや乏しく、データによる裏づけも限定的である。ただし、明日からすぐ実践できる具体的な提案の数々は、特に若手から中堅のビジネスパーソンにとって十分な価値がある一冊といえる。