NSBTアナリスト 辻 一平
1.「ランドパワー」を改めて問い直す場
12月18日閉幕したランドパワーフォーラム・ジャパン(LFJ)は、単なる装備の展示会でも、技術の見本市でもなかった。
LFJの本質は「陸上戦力(ランドパワー)とは何か?」「それはインド太平洋の平和と安定にどう寄与し得るのか?」という、極めて根源的な問いを、国内外の防衛・軍関係者、研究者、企業が同じ空間で共有した点にある。
冷戦終結後の日本での陸上戦力の議論は、しばしば“時代遅れ”あるいは“前近代的”なものとして語られてきた。しかし、ウクライナ戦争が突きつけた現実は、そうした認識が幻想だったことを容赦なく暴いた。
大規模な地上戦、塹壕、持久戦、そして膨大な人的・物的消耗……。LFJは、こうした現実から目を逸らさず、「未来の戦場」を現実の延長線上で捉え直す場だったと言える。
2.ウクライナ戦争が示した“不都合な真実”
LFJ全体で貫いていた暗黙の共通認識は明確だ。
未来の戦争はスマートで短く、クリーンなものではないということだ。
ウクライナ戦争は、最先端技術が投入されながら、結果として「長期」「消耗」「持久」という古典的な様相を呈した。
ドローン、衛星、人工知能(AI)、精密誘導兵器といった各要素は確かに戦場を変えた。しかし、それらは戦争を終わらせたわけではない。むしろ戦争の“速度を上げ”“可視性を高め”そして「消耗を加速」させた。
特に印象的なのは、兵器の性能よりも「運用」「統合」「持続力」が勝敗を分けている事実である。
どれほど高性能な装備を持っていても、それを継続的に補給、整備、運用できなければ意味をなさない。これは日本の防衛を考える上で、極めて重い示唆を含んでいる。
3.世界視点のプレゼンが突きつけた現実
LFJの中で、RUSI日本特別代表の秋元千明氏による「ウクライナ戦争に見る未来の戦場」は、非常に示唆に富む内容だった。
秋元氏のプレゼンテーションで優れていた点は、ウクライナ戦争を“特殊事例”として処理しなかった点にある。
むしろ、「これは未来の戦争の一つの原型であり、日本も例外ではない」とのメッセージが、静かだが強い説得力をもって提示されていた。
特に重要なのは、以下の3点だ。
第一に、戦争は国家全体の持久力を試す行為であるとの認識。
前線の部隊だけでなく、後方の産業、補給、政治、社会の意思が戦争を支える。これは、平時と有事を明確に分けて考えてきた日本社会にとり、極めて不都合な真実である。
第二に、情報と指揮統制(C2)の重要性。
ウクライナ戦争では、ドローンや衛星による情報取得と、それを迅速に意思決定へ結びつける能力が、戦場の優劣を左右している。
これは単なる技術論ではなく、「どこまで現場に判断を委ねられるか」との組織文化の問題でもある。
第三に、同盟国・パートナーとの協調そのものが戦力であるとの視点だ。
装備の相互運用性だけではなく、「思想」「ドクトリン」「判断基準」の3つをどこまで共有できているかが、将来の戦争では決定的になる。
プレゼンはウクライナ戦争とは「人と殺人ロボットとの戦い」という言葉で結ばれた。そして「機械と機械の戦い」はもうすぐそこまで来ているとの危機感と、では日本はどうするかとの問いを会場に与えた。
4.ランドパワーは「地上部隊だけの力」ではない
LFJを通じて強く感じたのは、「ランドパワー」という言葉の再定義が進んでいるということだ。もはやランドパワーは、単に地上部隊の数や火力だけを意味しない。
それは、地上から戦域全体に影響を及ぼす統合能力であり、「情報」「サイバー」「宇宙」「民間技術」を含めた“結節点”としての機能を持つ。
言い換えれば、ランドパワーとは「戦場を“支配する”力」ではなく、「戦場を“成り立たせる”力」と捉える方が適切かもしれない。
この視点は、日本の陸上自衛隊にとっても非常に重要だ。
離島防衛や抑止力強化の文脈で語られがちな陸自の役割は、統合の観点でみれば今後より広い戦略的意味を帯びていく。
5.日本が直面する課題と可能性
LFJを通じて見えてきたのは、日本が抱える課題と同時に、可能性でもある。
課題は明白だ。
- 長期戦を想定した備えは十分か?
- 組織として学習し、適応する仕組みを持っているか?
- 産業基盤と防衛を本気で接続できているか?
一方、日本には強みもある。
高い技術力、規律ある組織文化、同盟ネットワークだ。
問題は、それらを「平時の延長」で運用し続けるのか、「未来の戦場」を見据えて再構築するのか、という意思の問題だ。
6.結語——LFJは“警鐘”であり“出発点”である
LFJは、華やかな未来像を語る場ではなかった。
むしろ不都合で重く、考えることを強いられる現実を突きつける場だった。
しかし、それこそがLFJの価値である。
ウクライナ戦争は、日本にとって「遠いところの戦争」ではないと伝えている。
ただ、その教訓の全てをどこまで取り込むべきか、との声もあると思うが、現状の国家間の技術競争や開発投資額の状況をみれば、無視はできない。むしろそれらの問いに対して戦略上、戦術上の解を持たねばならない。LFJは、その事実を静かに、しかし確実に示した。
未来の戦場は、すでに始まっている。
問われているのは、日本がそれを“適応する側”でいられるのか、
それとも“適応できなかった側”になるのか、
である。
参加者はこの警鐘をしっかりと刻み込み伝えなければならない。
■
辻 一平
NSBT Japanアナリスト。元陸上自衛隊特殊作戦群。小部隊戦術、暗所・夜間戦術、市街地戦、特殊作戦および関連装備に精通。目的型組織の構築や自立型人材の育成にも専門的知見を有し、現在は海外における作戦動向、部隊運用、先端装備に関する戦術的・技術的分析と評価を担っている。