モームリ事件が示す「成長企業の盲点」

2026年2月3日、退職代行サービス「モームリ」代表が弁護士法違反の疑いで逮捕された。報道では、非弁行為に当たるのかどうかという法律論が中心になっている。

しかし、この出来事は単なる法解釈の問題にとどまらない。急成長する企業が法制度とどのように向き合うのかという、経営上の重要な論点も浮かび上がらせている。

これは一企業の問題ではなく、成長局面にある企業に広く共通する論点でもある。

法律問題の背後にある市場構造

退職代行という分野には、強い潜在ニーズが存在していた。職場を辞めたいと思いながらも、上司に言い出せない、引き留めが怖いといった心理的障壁は高い。

一方で、この領域は労務と法務が交差する繊細な分野でもある。こうした特性が参入のハードルとなり、結果として制度の隙間に市場が生まれたと見ることもできる。

需要はあるが、既存制度との緊張関係も内在している市場だった。こうした市場はしばしば、外から見ると競争が少ない魅力的な領域に見える。

一般に競争の少ない市場は魅力的に映る。いわゆるブルーオーシャンである。しかし、競合がいないのは偶然ではない。そこには文化的、運営的、あるいは制度的な「越えにくい壁」が残されていることが多い。

ブルーオーシャンに潜む摩擦

ブルーオーシャンは単に競争が少ない市場ではない。競合が入りにくい理由となる、何らかの摩擦を内包した市場とも言える。

今回、表面化したのは、その中でも法制度との摩擦だったと見ることができる。重要なのは、こうした摩擦が市場の構造そのものに内在していたという点である。

小規模なうちは社会的影響も限定的であることが多い。しかし利用者が増え、存在感が高まるにつれ、制度との接点は強まり、解釈や運用の問題が前面に出てくる。

企業の成長が摩擦を生んだのではなく、もともと存在していた摩擦を可視化したにすぎないだろう。

需要を伸ばす力と線を引く力

マーケティングによって需要を顕在化し、利用者を拡大することはできる。しかし顧客にとっての価値が、そのまま社会的正当性になるとは限らない。市場の支持と法制度の評価は別の軸で動いているからだ。

マーケティングは需要を拡大できるが、制度の境界までは拡張できない。伸びる構造と守れる構造は、必ずしも一致しないのである。

境界を設計する戦略の重要性

制度と隣接する市場で持続的に成長してきた企業の多くは、自らの役割を明確に限定してきた。判断や交渉そのものに踏み込まず、情報提供や業務支援に徹するなど、「やらない領域」を定めることで摩擦を回避している。

市場が空いているからといって、安全とは限らない。むしろ潜在的な摩擦が残っている可能性を前提に、自らの立ち位置を定義することが求められる。

マーケティング戦略は、需要を拡大するだけでなく、どこまで踏み込み、どこで踏みとどまるのかを設計することでもある。今回の事件は、その重要性を改めて示している。