土曜日はバレンタイン ディでしたが、昨今のカカオ高騰でその様相もだいぶ変わってきているように聞きます。読売新聞によれば新製品投入に当たりチョコレートの部分を抑え、フルーツや焼き菓子との組み合わせなどで見た目よく、そして価格も高くなり過ぎないようにしているとあります。
私は日本の典型的なバレンタインとは全く無縁になっていますので義理チョコすら36、7年前に貰ったのが最後であります。一方、当地のバレンタインはカップルや夫婦がその関係を深める趣旨なので良いレストランに行く人も多いです。あるいは自宅で食事するにも男性は花を持っていく習慣があるのでスーパーなどでは花の特設売り場があるほどです。数日前に業務で行ったあるフレンチビストロも超満員、バレンタイン客が既に入っていることもあるそうで90分の時間制限でした。フレンチビストロでこの時間制限は短いなと思いましたが、食事がバンバン出てくるし、サーバーがエリアを何人かでカバーする仕組みなので効率が良いのでしょう。ほんとに90分で終わってしまいました。
なぜ日本のバレンタインは女性が男性にチョコをあげるのかについては製菓会社やデパートがそのような仕組みを作り上げたからとされます。つまり売り手のマーケティング手腕にまんまと乗せられたというわけです。もっともそれを一番先にやったのはモロゾフで1935年に「愛する人にチョコを」という宣伝を英字新聞に出したのが最初ともされます。とにもかくにも男性はチョコをもらい、3月14日にはホワイト ディで何倍かのお返しをするのもこれまた業界の術中にはまってしまったわけです。掌の上でころころしているのは乙女心でも男の下心でもなく、業界のウッシッシという笑い声なのです。
日本はギフト文化とされます。盆暮、旅行の土産から山分けなどもあり、各種挨拶は「手ぶらじゃいけない」のであります。そのギフト文化、どこから来たのか、と言えば案外面白いところに行き当たります。
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それはお供えであります。私は建設会社出身ですから地鎮祭とか起工式には縁が多く、カナダでも建物を建てる時には常に日本式でやっています。(こちらにも神主はいらっしゃいます。)そのような式典をする際は神主と事前の打ち合わせをするわけでその中でお供え物はどうするかを調整します。大概の神主さんは主催者側に酒だけ用意してほしい、あとの野菜や米、塩などは神主側で用意するというケースが殆どです。
奉献酒は招待された方の重要度を表すこともあるので主要な参列者には一升瓶3本をお願いしています。(日本でやる時は我々が勝手に買ってきていました。)カナダで「SAKE?一升瓶?なんじゃそりゃ?」ってなもんで彼らにどこで売っているか教えてとにかく持ってきてもらい、私は用意した紐で3本をくくり、熨斗紙に筆ペンで汚い字ながらも奉献酒、〇〇Limitedと書いて祭壇に奉るわけです。
式典の終わりに直会と称してお神酒を頂戴する儀式があります。奉献したお酒の一本を開け、お神酒を頂戴するのですが、杯(さかずき)はさすがに当地にはないので私は醤油皿で代用しております。このお神酒こそ、神様からのおすそ分けであり、日本のギフト文化の原点とされるのです。
たとえば大昔、誰かがお伊勢さんにお参りに行くとします。すると近所の人から「私の分も(お祈り)お願いします」と餞別を預かります。お伊勢参りを無事済ませたら餞別をもらった方々にお土産を買い、「確かに伊勢参りに行ったよ。そして頂いた餞別のうち、一部でお伊勢さんのおすそ分けをもらってきました」という話になるのです。近所のひとは「ありがたや、ありがたや」といって赤福を食べるわけですね。
基本的には日本のギフト文化は神様へのお供えが原点で、その後、おすそ分けという形に発展しながら今日に至っています。昔、海外旅行から帰ったら土産をばら撒いていたことがありましたが、あれも「私だけ楽しんできちゃ申し訳ないので皆さんにおすそ分けしますね」という発想であります。
私もつい2年ぐらい前までは日本に出張に行くと帰りに成田空港で「東京ばな奈」とか「萩の月」を買い、従業員などにおすそ分けをしてきたのですが、あまり喜ばれないので最近はおすそ分け中止です。むしろ、困るのはこちらから日本に行く際にお土産を期待している日本の方対策で、「カナダのおいしいお菓子とか」期待されても日本のそれに絶対に勝てないし、毎度メープルシロップでも能がありません。そこでもう何十年も前から日本への土産はなし。むしろ手土産が必要なら日本に着いてからデパートで買うことにしています。
ギフトは人と人のつなぎをよくする役目もあります。釣り好きの人が大漁だった場合、近所やお知り合いにおすそ分けします。あれは貰う方にとってはサプライズギフトなので嬉しさは大きいものです。そして後日、「おいしかった、あの魚」といって魚の代わりに果物がお返しにくることもしばしば。こうやって人間関係のグリップをしっかりつないでいくのが日本文化の良いところともいえそうです。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2026年2月15日の記事より転載させていただきました。