もう一つの論点は、日本経済の活力が低下している現状をどうするかということです。日本の開業率は図のように90年代以降、5%以下で低迷しており、これが日本経済が長期停滞を脱出できない大きな原因と考えられます。第1セッションでは池尾さんと西さんに起業の条件について話していただき、第2セッションでは村上さんに世界的な視野から見たベンチャーの現状を話していただきたいと思います。
日本は昔から起業の少ない国だったわけではありません。図のように1960年代までは開業率は10%を超え、零細企業では50%を超えることもありました。他方、廃業率も高く、こうした激しい新陳代謝が高度成長のエンジンだったわけです。現在の開業率の水準はOECD諸国の中でも最低レベルで、アメリカの半分以下です。起業は資本主義の中核的メカニズムですから、これが衰えていることは深刻な問題です。
その原因は単純ではありません。ふつう考えるのは、成長率の低下によって開業率が下がるという因果関係ですが、これは循環論法になってしまいます。もう一つの原因は、資金調達が困難になってきたということです。特に90年代以降は、不良債権を抱えた銀行が貸し出しに慎重になり、中小企業の資金調達が困難になったといわれています。
しかしこの説明は、論理的におかしい。必要な資金が調達できないのであれば、資金の超過需要で金利は上がるはずですが、実際にはずっと超低金利が続き、企業が貯蓄主体(債務の返済が借り入れを上回る)となる状態が続きました。つまり真の問題は資金需要が低下していることで、その原因は投資機会の減少だというのが多くの経済学者の意見です。
これは最近よくいわれる「内需拡大」とも関連します。特に投資が貯蓄を下回り、貯蓄過剰を純輸出(経常黒字)で埋める構造が、ここ20年ぐらい続いてきました。これは慢性の病気で、治療は容易ではなく、原因もよくわかりません。「間接金融が優位だ」とか「企業収益が低い」という説明もよくありますが、これも原因なのか結果なのかよくわからない。「日本人の国民性がリスク回避的だ」というのは何の説明にもなっていない。
いずれにせよ、ケインズ以来ほとんどの経済学者が同意するように、このようなアニマル・スピリッツを高めることは、資本主義の健全な成長にとってきわめて重要です。何が問題なのか、そしてどうすればいいのかを考えたいと思います。
コメント
野口悠紀雄氏が言うように
現在の税制は給与所得者に有利すぎるように思います。
個人事業を優遇して自由な形で働く人がもっと増えれば
そこから色々な企業が生まれるのではないでしょうか。
税制で一番問題なのは好況時に得られた利益を不況時の赤字の穴埋めに備えることが殆ど出来ないことだ。どんな企業でも好不況の波によって生じる損益の変動を平準化したいと思っているが、現在の税制ではそれが不可能だ。これを変えるには国の単年度予算制度を変え、好況時の税収を全て一会計年度で使ってしまうという悪習を変えることから始めねばならない。零細企業の場合、企業会計や納税事務の簡素化のため、法人税を利益に関係なく規模(人数等)に比例した定額にすることを検討すべきだ。