総務相就任のあいさつでは「NTT再編なんて2周遅れの政策だ」と切り捨てた原口一博氏が、一転してNTTを水平分離する「光の道」を打ち出した理由はよくわかりませんが、政府がFTTHという特定の物理インフラを推進するのは地デジのような失敗のもとです。NTT再編はFTTHとは別の企業統治の問題で、両者を「光の道」などという形で混同すべきではない。
また電力系の通信事業者も指摘するように、光ファイバーをサービスと分離すると採算性が悪くなって設備投資やサービスの高度化を阻害し、インフラ会社をつくるとNTTと独立のインフラによるプラットフォーム競争を阻害するおそれが強い。
しかしNTTの変則的な経営形態を改め、民営化以来、25年にわたって続いてきたNTT問題に決着をつけるというねらいは悪くない。このとき最大の障害になるのは90%以上の独占になっている加入者線ですが、光とメタルは別々に考えるべきです。NTTが二重設備を持ち続けるのは非効率なので、銅線は(アメリカのベライゾンのように)売却してはどうでしょうか。
この回線を政府が買収し、電話交換機を廃棄してDSLで全面IP化すれば維持費用は大幅に下がるので、銅線は時間をかけてなくせばよい。メタル加入者線の売却を条件にNTT法は廃止し、政府の保有株式もすべて売却し、完全民営化すべきです(加入者線の買収を株式交換で行なってもよい)。いずれにせよ最優先の問題は、FTTH、メタル、無線などの多様なインフラによってプラットフォーム競争を実現することです。
かつてはこれは困難でしたが、今は無線技術の飛躍的なイノベーションによって可能になりました。「帯域が足りないので無線は高速化に限度がある」というのは首都圏だけの話で、携帯電話の帯域でさえ地方ではガラガラです。都市部では市場原理にまかせていてもFTTHが普及するでしょうが、地方はFTTHより電波のほうがコストははるかに安く、利用密度が低いので実効速度も高い。
ただ電波で本格的なブロードバンドを実現するには、FCCのようにテレビが占拠しているUHF帯を300MHz以上開放する電波の道が必要です。iPadからイーサネットがなくなったことに象徴されるように、今後のブロードバンドの主役は無線です。
新興国のイノベーションについてのEconomist誌の特集で印象的なのは、数千人の労働者を工場に集めないで、携帯電話で結んで分散的に生産を行なうネットワークです。資本主義の象徴だった工場をモバイル・ネットワークに置き換えるイノベーションこそ、インターネットの次のモバイル革命でしょう。
コメント
池田先生とは多くの面で意見を同じくしていますが、この件については意見が相当異なります。 これは理念の問題ではなく、技術的フィージビリティーと経済的フィーじビリティーの計算の問題です。
先の「学識経験者とは?」と題するブログでも書きましたとおり、実際に設備投資をして大損をして青くなったりしてきた人間から見ると、実業の世界に住んでいない方々の考えは、理念の段階にとどまっているように思われます。
無線か有線かの問題も同じで、要するにコストの問題です。この場合、数年でキャパシティーが足りなくなり、また設備を打ちなおすことの苦痛を体験してきている私達は、一般の方々のように楽観的にはなれないのです。。
しかし、実業の世界にいる人間は、「実は自分の会社のための利益導入を考えているのではないか」という疑惑に常にさらされます。「光の道」についての考えが、何故NTTとソフトバンクの間でそんなに違うのかということも、一般には理解しがたいことでしょう。
私の提案は具体的な討論会です。色々な立場の方に入っていただいて、アゴラで是非機会を作っていただけませんか?
おっしゃる通り、この問題のコアは理念ではなく、「無線でFTTHが代替できるか」というきわめてテクニカルな問題なので、総務省の審議会のような場でやるより、専門家だけで研究会をやったほうがいいと思います。ICPFで「特別セミナー」をやりましょうか?
是非特別セミナーをお願いします。
私は自分自身で無線ブロードバンドを自ら手掛けてきたからこそ、無線の限界を知っているのです。「せいぜい5GHz程度の電磁波を色々な干渉にさらされる広い空間にばら撒いてみんなで共有するモバイルブロードバンド方式」では、一定以上のデータスループットが求められる場合には、「格段の高周波をチューブの中に閉じ込め無菌状態にして一人一人に手渡す光通信方式」に勝てるわけはありません。
また、モバイルブロードバンドのユーザーあたりの実行スピードを上げようと思えば、セルを小さくしなければならず、そうなると有線部分の比率がが多くなり、その有線部分は当然光でなければならないので、結局FTTHにWiFiを繋ぐのとあまり変わらないことになります。(勿論セル間のハンドオーバーなどでは威力を発揮しますが、その分コストは高くなります。)
色々な方々が色々な角度から議論をするのはよいことなのですが、基本的な技術の理解度が素人レベルにとどまっていると、結局、政治的な思惑から議論を誘導しようとする人達の餌食になってしまいます。先ずは技術の基本についての理解を共有することからはじめなければなりません。
無線にしろ、有線にしろ、ユーザが選べるようにしてほしいです。お前は無線だ、いやFTTHにしろ、100Mbpsで十分だろ、いや1Gbpsに切り替えろ など、お上から決められるのは嫌ですね。
孫さんの『全ての日本国民に光の権利を』を変更して『全ての日本国民に快適ネットアクセスの権利を』にして頂ければ、殆どの人は賛成すると思います。 『FTTHよりも無線の方が良いのではないか?』と多くの人が思っているからです。 『電波の帯域を十分に確保する政策』が実施された場合は、無線で問題が解決するように思うからです。
都市部では家の前まで光回線は来ています。 都市部の1人暮らしの人は固定電話すら契約しませんし、引越も頻繁にします。 1年半後の地デジさえ対応できていません。(総務省2009年11月6日発表、地デジ放送対応は賃貸集合住宅居住者の52.5%)
FTTHの最大の障害は、各家庭へ光回線をひく『工事費用』と『工事の煩わしさ』です。 今後、技術革新と回線コスト低下は飛躍的に実現できますが、FTTHの家庭工事費用は殆ど下がりません。(国家による強制工事で引き下げなくても、無線で問題が解決すると思うのです。セルを小さくして解決できるなら良い事です。)
無線(家庭への工事が不要)
メタル回線(NTT局舎の工事が必要)
光(家庭を含め、大掛かりな工事が必要)
都市部でも、正当な競争状態であれば『無線>メタル>光(FTTH)』で無線に軍配が上がるのでは・・・?
『電柱利用権利も、電波と同時オークションにする』というのはいかがですか・・・?
インフラ会社でFTTHを整備するにしても、8分岐なんて使わずに一本ずつ家庭まで引かないと意味ないと思います。分岐せずに引けば、ADSLのように、各事業者が自分の経営判断で1Gbit/sや10Gbit/sのようにグレードアップして競争できるから、ユーザは価格と性能見合いで事業者やサービスグレードを選べる。8分岐のままでは、電力系会社のいうように事業者間の調整がうまくいくとは思えず、ユーザの選択肢が増えるとは思えません。
インフラ会社を主張するなら、税金使って、一本ずつ家庭まで引く、税金使うから事業者の使用料は安くなる、税金使うけど一般道路のように投資した税金以上に効果がある、と主張した方がわかりやすいと思います。
無線に対する大いなる期待が、大いなる誤解と幻想を生んでいると思います。 シャノンの法則を超える魔法が無い限り、無線が光を超えることは有りません。
過去10年以上にわたり、新しい無線システムが紹介される都度、安易な報道と煽動で、多くの失敗が生まれました。
「スペクトラム拡散は、見えない電波だ。」「UWBなら他の無線方式と共用できる。」「WiMAXは、非見通しで50km/70Mbps 光ファイバ並の通信が可能。」などなど、これらのメリットだけをセールストークし、その条件を考慮しない議論は、結果として電波の無駄遣いや死蔵、他の手段によるブロードバンドの推進を遅らせました。
このあたりは,きちんと技術評価すれば、明確なのに、流行ものを追いかける事がステータスな、学識経験者/有識者やマスコミの煽動に多くが引っ張られています。
しかし、今さらなんで、光の道でインフラ徹底整備なのでしょうか? もちろん、ルーラルでのブロードハンドを切り捨てろとは言いませんが、それを都会人が押し売りするのは、ダム建設や高速道路と一緒です。 ラストワンマイルではなく、いまはラストワンホームをどうするかで、それは段階的には、3Gや衛星でも良く、とにかく常時接続可能とすることが先でしょう。
それよりも、どうやって光の利用率を上げるか、そのためにはサービスやソリューション、各種事業に対する規制緩和などが先ではないでしょうか?