インフラ側でなく、クライアント側から考えた「光の道」 ―  向井 敬

アゴラ編集部

昨今アゴラの誌上にて、「光の道」を発端とするインフラ側に関する討論が多く展開されていますが、へそ曲がりな私はふと考えました、「クライアント側(端末側)から考えてみては?」と

巷ではAppleの新製品iPadや、GoogleのAndroid、それに続くMicrosoftのWindows Mobile、NokiaのSymbian、RIMのBlackberry等、スマートフォンや、ネットブック、MIDの話題で持ちきりです。 HDMIや高精細画像を売りにした携帯端末も次々に発表され、
トラフィックは増大するばかりです。 と、普通にここまで書くと、インフラ増強論が出てきてしまうのですが、QoSを保つためのオペレータの大変な苦労はさておき、私のような使い手側からすると、それほど現在の通信速度に関してストレスを感じていません。それは単に現在提供されている通信速度の中で、最適なサービスが提供されているからに他なりません。


ですが、国産のAndroid端末や、iPadが出てきた辺りで、ふと思ったのが、「いっそのことこのような機器でユーザにバンバンネットワークを使ってもらって、QoSがままならない状況を作りだし、ネットワーク全体に不満が高まる方向に持ち込めば、この問題は各所で真剣に取り組まれるのでは?」と考えました。

そこで私からの提案ですが、国策のファイバ敷設とかではなく、ファイバ敷設が喫緊の課題となるような、トラフィックを必要とする「打倒!iPhone/iPad-国産マルチメディア・クラウド情報端末プラットフォームの開発」を国策でやってみては?と

この考えの元になっているのが、今から約15年程前に私が外資系無線測定器メーカの営業技術の駆け出しだったころ、お隣の韓国に出張に行かせてもらい、そこでの実体験です。 皆さんも良くご存知だと思いますが、韓国はADSLを発端に、携帯電話、モバイルブロードバンドまで、それらのサービスと製造が順調に推移した国の一つです。 

ある時、勤め先のアジア地区統括より命ぜられ、韓国のKETI(Korean Electronics Technology Insititute、韓国電子技術研究所)に商品説明と技術サポートに行きました。 当時は金泳三大統領の民主自由党政府下において、国策としてKETIに国内電気メーカの選抜された優秀なエンジニアを集結させ、国費で非関税障壁としての国内仕様のCdmaOne端末プラットフォーム開発、輸出を伸ばすためのGSM端末プラットフォーム開発を行っていました。

技術サポートのため、私はラボに案内されて、最初に目に飛び込んできたのが、ラボの壁面に日本製の輸出用携帯電話のポスター大の写真(メーカ名と機種名と無線方式も書き加えられていた)が一面に張られており、その上部に「日本製より良いものを我々韓国人の手によって作り出そう!」というスローガンが書かれていました。

その後通訳を介して商品説明や機器の操作説明をする私に対して、矢継ぎ早に質問し、突っ込む韓国人エンジニアの熱い姿勢はまさに、今回の「光の道」の実現を熱く語るソフトバンクの孫社長の姿と重なりました。 私自身はバブル期入社組の無気力、無関心、無責任と良く揶揄される世代ですが、そんな私にも彼らの持つ使命感や気迫を感じずにはいられませんでした。
(間違いなく日本の携帯電話産業は10年後にブッチギリで韓国に追い抜かれるだろうと)

やがて数年後、彼らはこの研究所で開発したプラットフォーム技術をそれぞれの会社に持ち帰り、2000年初頭には日本の携帯電話出荷台数を超え、現在では韓国のメーカは世界の30%のシェアを持つまでになり、一方日本のメーカは国内全社合わせても5%に届くか届かないかという状況です。

以上を踏まえ、iPhoneやiPadを超える端末プラットフォーム作りを国策でやってみてはどうだろう?というのが私の提案です。
国内メーカの叡智を集め、ハードやソフトだけでなく、ビジネスモデルや、アプリケーションも含め、無敵のプラットフォーム作りを全社で持ち寄って、その後一斉に各社からこのプラットフォームを応用した端末や応用アプリケーションを展開し、引いては「光の道」実現のためのファイバ敷設が喫緊の課題となるような、トラフィックを必要とする端末プラットフォームの開発を! そんなことが出来ないかしら?と思う今日この頃です。

良し悪しはともかく、コンピュータの黎明期やICの黎明期に旧通産省が行った国家開発戦略に携わった先輩方の教えを元に今日私はエンジニアとして働くことが出来ています。「光の道」については過去30年近く同様の議論がなされてきたにも関わらず、なかなか実現できないのは、単に必要とされていなかったからではないでしょうか?それなら必要となるように働きかけるのが自然だと考える次第です。
(向井 敬 シグナリオン・ジャパン株式会社 代表取締役)

コメント

  1. Yute the Beaute より:

    論語に曰く、「人能く道を弘む。道の人を弘むるには非ず。」

    矢澤豊

  2. Diamante より:

    はたして政府主導の開発でiPadやAndroid製品より魅力的なプラットフォームが出来るんでしょうか。

  3. satahiro1 より:

    先ほど放送されていたクロ現を見ていると日本においてのスマートフォンの隆盛について特集されていた(http://cgi4.nhk.or.jp/gendai/yotei/)。
    その中で”キャリア主導ではない、製作を支援”との垂れ幕に目を引かれた。
    私はスマートフォンを手にとったことが無いので画面の上に”SOFTBANK 3G”とある機種が何なのか判らないが、番組ではiモードは厳格な基準を設けてアプリを導入しているそうだが、このスマートフォンでは勝手連的な無料アプリが多数含まれていて隆盛を誇っていると言う。
    NHKのHPでも写真で出ている主婦はスーパーの精肉売り場で画面の上に”SOFTBANK 3G”とある機種で豚肉を使った料理を検索し、品定めを行っていた。
    このような使い方はこのアゴラで話題になっている光ファイバではできない、のだろう。
    >私のような使い手側からすると、それほど現在の通信速度に関してストレスを感じていません。それは単に現在提供されている通信速度の中で、最適なサービスが提供されているからに他なりません。
    >「いっそのことこのような機器でユーザにバンバンネットワークを使ってもらって、QoSがままならない状況を作りだし、ネットワーク全体に不満が高まる方向に持ち込めば、この問題は各所で真剣に取り組まれるのでは?」と考えました。
    番組の中でKDDIの技術責任者はスマートフォンがここまで日本人に受け入れられるとは思っても見なかった(完敗だ)、と言いました。
    これはハードではなくソフトの勝利です。

    この「ヒカリノミチ」においても費用のかかるインフラ整備ではなく勝手連によるソフトの充実が次なるイノベーションに私達をいざなうこと、となるのでしょう。

  4. pyontiti0303 より:

    Yute the Beauteさん、
    —————
    子曰く、人間は努力して正義の道を拡充しなければならない。どうかすると人間は、正義の道に乗りかかって自分の名を売り拡めようとする。

    宮崎市定『現代語訳 論語』岩波現代文庫引用
    —————
    という私に対するご指摘だとしたら、私は穴があったら入りたい気持ちです。 はい

    Diamante さん、
    うまくいくかどうかは、私にもわかりません。
    こういったプロジェクトは官民両方とも使命感とか無ければ成立しないんでしょうね、きっと。 もし機会があれば私も参加してみたいと思っております。

    satahiro1さん
    インフラの話って、とどのつまり、高速道路や整備新幹線と同じ部類で、インフラありきの考え方になるのですが、必要は発明の母と申しますので、このようなことを思いつきました。

    向井

  5. bobby2009 より:

    >これはハードではなくソフトの勝利です。

    iPhoneがまさに、ハードではなくソフトの勝利の代表選手ではないでしょうか。最新のハード技術は何処にもないが、OSの操作性と、Apple Storeから入手できる無数のソフトが、現在の成功の大きな原因となっています。日本のハードメーカー(特にソニー)は参考にして頂きたい。

  6. Yute the Beaute より:

    向井様

    いえいえ。30%じゃ道は広げられないよ、という意味です。恐縮です。

    矢澤 豊

  7. pyontiti0303 より:

    矢澤様

    すみません、ちょっと被害妄想気味な性格なので、深読みしすぎました。

    おっしゃる30%が私の書いた韓国のシェアの数字であれば、確かに30%じゃ道は広げられないのですが、少なくとも日本メーカ全社で5%未満という状況では、どんなに良いソフトウェアやサービスが出来ても影響力は少ないですし、ましてやiPhone/iPadだけじゃ、逼迫するようなトラフィックは生み出せませんし、最もiPhone/iPadは現行の通信サービスで最適なアプリケーションを提供している以上、私の仮説(提案)は崩れてしまいます。 孫社長はiPadはSBMの武器(当面の)だとおっしゃっており、パイオニアであることは私も深く同意しますが、1企業だけでなく、日本中からも武器になるようなクライアントやサービス並びにアプリケーションが出てきてしかるべきと考えた次第です。 そのためには応用範囲の広い、1企業の思惑で左右されない無敵のクライアント・プラットフォームが必要です。 90年代後半のi-mode旋風の時のように世界中が注目するブロードバンドサービスが日本のあちこちから出てくることにより、より多くの機会を得られるというのが趣旨で、通信手段は有線だろうが、無線だろうが正直どうでも良いですし、やはり必要性を皆が感じない限りは、インフラを語っても仕方ないのかなと思っています。(長文失礼)

  8. bobby2009 より:

    >打倒!iPhone/iPad-国産マルチメディア・クラウド情報端末プラットフォームの開発」

    国産OSから始めるのなら大反対です。Tronの二の舞。適材適所でゆきましょう。OSは米国産のAndroidを使い、国産メーカーはハードの完成度と高密度実装技術を磨いて勝負すれば良いのです。

    ところでソニーに注文。せっかくハード技術と音楽コンテンツを持っているのだから、これまでのようにハードで儲けようとせず、Appleを模倣して、ハードとコンテンスの両方で儲けられるプラットフォームを構築すべきです。日本の閉鎖的な文化ではじめるのは困難なら、米国で開始すればよい。自力で難しければ、Apple StoreのようなものをGoogleと協力して構築すればよい。その際、自社だけで儲けるしくみにせず、Android端末メーカーがみんなで参加できるしくみを構築すべき。それでも、ソニーは音楽コンテンツを持っているのだから、他の電機メーカーよりアドバンテージがあると思われます。まずはAndroid端末が、iPhone/iPadの本当の競争相手のレベルに到達する事が先決です。