ジャパン・マネー再び ― 世界を買い叩け! ― 藤沢数希

2010年05月27日 01:49

欧州のギリシャ危機によりユーロが売られている。また、金融危機の震源地だったアメリカのドルも多額の財政赤字や景気の先行き懸念により弱い。そして相対的に世界の通貨の中で円の価値が高まっている。円高だ。

ドルとユーロの推移
出所:日本銀行のウェブ・サイトより筆者作成


こうなると膨大な輸出産業を抱える日本の財界や経済評論家からは、政府による為替介入や日銀のさらなる金融緩和によって円安に誘導せよとの声が高まる。しかし、筆者は円高は必ずしも悪いこととは思っていない。むしろ、現在の円高は日本企業にとってグローバル化を一気に進めるまたとない好機であると考えている。

円が安ければ、相対的に日本の人件費などの製造コストが安くなるので、日本製品の価格競争力が高まり輸出産業に有利となる。逆に円が高ければ、海外からモノを買う時の(日本円で見た)コストが下がるので輸入産業に有利だ。輸出産業の代表はトヨタ自動車やソニーなどのメーカーで、輸入産業の代表は途上国で生産した衣服を輸入しているユニクロや、同じく途上国で生産した家具などを日本で売っているニトリなどである。そのどちらも日本国民の生活にとって重要なことはいうまでもない。

しかし、ここでは輸出産業か輸入産業かという切り口ではなく、別の観点から円高の利点を考えよう。なぜ、筆者が最近の円高を日本企業の好機ととらえているかというと、それは海外の企業買収などを通して、日本企業が世界に進出するいい機会だからだ。

少子高齢化に伴ない今後は日本のマーケットが収縮していく。これからは日本企業は否が応にも世界に出ていかないと生き残れないのだ。少子高齢化を解決するためには日本国政府は大胆な移民政策を採用する必要があるが、企業経営者が政治が問題を解決してくれるのを持っていてもしょうがない。経営者が「日本の政府が無策だから」などと業績の悪化の言い訳をしたところで、誰がそんなことを聞くだろうか。継続的に利益をあげられなければ、企業というのはひっそりと市場から消えていくだけである。例え政府が無能だとしても、経営者はあらゆる方法を考え、利益を出し続けないといけないのである。そして、今の日本の多くの企業にとって何をしなければいけないかというと、それはグローバル化だろう。

例えば、野村證券は破綻したリーマン・ブラザーズを買収して、多くの元リーマンの社員を法外な報酬で雇入れた。また、最近では人事制度を世界の金融機関のスタンダードに急速に合わせつつある。その過程で多くの軋轢が生まれ、苦しむだろう。しかし、改革には痛みが伴う。そして、改革なくして成長なしだ。筆者は野村証券の試みがうまく行くのかどうかはわからないが、ひとつだけいえることは、日本の市場だけに留まっていたら遅かれ早かれ未来はなくなるということである。また、日本のECモール最大手の楽天はアジア進出に伴い社内公用語を英語にしたとのことである。アステラスなどの製薬会社もアメリカの企業を買収したりしている。日本企業も生き残りをかけて、もがきながらも世界に着実に進出しようとしているのである。

円の価値が相対的に高い時には、日本企業にとって海外の会社を買収したり、海外に工場を作ったり、また、海外で優秀な人材を雇用することが容易になるのである。優秀な経営者は、どの会社を買えばいいか、どの国に工場を作るべきか、また、どこの国で社員を増やそうかと常に考えている。そして、円が急速に高くなっている時こそ、そういった国際化戦略を一気に前倒しで実施するときなのだ。

また、信用バブルの崩壊で不良債権処理に手こずっている欧米の金融機関は融資を増やしにくい。その反面、ほとんど傷を負わなかった日本の金融機関は、日銀の超緩和政策と相まって、いくらでも資金を貸し出せる状況だ。ほとんどゼロの金利で日本の優良企業は資金を借り入れることができるのだから、その潤沢な資金を使って世界の会社を一気に買い漁ることができる。もちろん、新興国にさらに工場を建設したり、海外でハングリー精神あふれる優秀な人材を採用してもいい。こういったまたとないチャンスの時に日本の金融機関も企業も手を拱いて見ている場合ではなかろう。

そのためには日本企業の人事制度も大幅に見直す必要があろう。グローバル・スタンダードな人事制度というのは、実は驚くほど単純である。社員を年齢や性別や国籍などで決して差別することなく、その社員がどれだけ会社の利益に貢献できるかだけを見るのである。当然、年功序列や終身雇用などの概念はない。日本企業が世界に進出して成功するには、世界から優秀な人材を雇い、彼らの能力を最大限に生かさなければいけない。

日本国政府がどれだけ無能で政府が破綻したとしても、日本の企業は世界の中で生き残らなければいけない。また日本の企業が潰れたとしても、そこで働く日本人はよりよい機会を求め世界の中で生きて行かなければいけないのだ。

今こそ、日本企業は世界に飛び出していくべき時だ。
世界を買い叩け!

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