鳩山由紀夫を擁護する - 藤沢数希

2010年06月03日 00:38

鳩山由紀夫がとうとう辞めた。総理就任後たった8ヶ月で辞任に追い込まれた。就任直後は80%近い支持率だったが、そこがピークだった。そして最近はとうとう10%台まで落ち込んでいた。この間、日本経済は低迷して、郵政改悪法案や普天間基地の移設問題での不手際で、多くの国民から不信を買った。社会主義的な政策も多くの経済評論家に酷評された。よって、今日の辞任後も、なおも彼の失政を批判する声は大きい。


筆者は、鳩山氏が首相に就任した直後に話題になった彼の論文を読んで非常に悪い予感がしていた。典型的な反市場、反米のイデオロギーが綴られた現実離れした彼の思想がはっきりと読み取れたからだ。そういった考え方はグローバル経済の中で生きている日本と、そこで生活する日本国民にとってひどく有害に思えた。しかし、筆者が本当に恐れていたことは、そんな反市場、反米をかかげる鳩山由紀夫率いる民主・社民・国民新党の連立政権が、国民の絶大な支持を集めていたことであった。当時、この連立政権の危険さを指摘していたのは、ブログなどの一部のインターネット・メディアだけであった。多くの国民もマスメディアも戦後はじめての「政権交代」に浮かれていた。

案の定、郵政再国有化沖縄の米軍基地の問題で、筆者の悪い予感は当たってしまった。しかし、筆者の予想が裏切られたこともある。そういった鳩山政権の失政を非難する声が日に日に高まっていったことだ。多くの国民が鳩山政権のさまざなま矛盾に気づきはじめ、テレビや新聞などのマスメディアも社会主義的な政策を批判しはじめた。気がつけば鳩山政権は自ら墓穴を掘り自爆していた。こうなってくると元来逆張りが好きな筆者は鳩山由紀夫という人物を擁護してみたくなってくる。支持率が地に落ち辞任にまで追い込まれた今だからこそ彼を擁護してみよう。

彼は日本国民の将来よりはるかに重要な問題に孤独に取り組んでいた

鳩山由紀夫の発言はブレる、ヴィジョンがないと常に批判されていた。沖縄の米軍基地問題ではあれだけ大騒動したのに「(沖縄の)海兵隊が抑止力と思わなかった」とサラッと発言してしまうあたりこの人を総理にしておいて大丈夫なのかと心底心配になった国民も多いのではないか。この総理は何も考えてないんじゃないかと。しかし、ここで筆者は声を大にしていいたいのである。鳩山首相はそんな日本の安全保障や日本経済などよりはるかに重要な問題に取り組んでいたと。確かに日本国民の生活のことはほとんど考えていなかったかもしれないが、そうしないことの正統な理由があったのだ。

それでは彼が取り組んでいた問題とは何か。それはいうまでもなく彼の母親からの毎月1500万円にもおよぶ子ども手当であり、その脱税問題だ。脱税というのは量刑相場が決まっていて、主にふたつの観点から罪の重さが決まる。ひとつ目はその脱税が売上を隠すなどの悪質で故意のものかどうか、ふたつ目は脱税の金額である。悪質な故意のもので脱税額が億単位になると通常、実刑となり牢屋にぶち込まれる。鳩山総理の場合は、秘書を使い母親からの莫大な送金を、他人の個人名を無断借用し個人献金と偽っていた。明らかに悪質かつ故意である。また脱税額も公表されているだけで6億円と非常に多額だ。つまり、これが風俗経営者や金融業者などの民間人だったら確実に刑務所に入る案件なのである。

今まで大富豪の上流階級の家に生まれ順風満帆な人生を送ってきた彼が、検察や国税のさじ加減ひとつでいきなりブタ箱にぶち込まれるかもしれない瀬戸際に立たされたのである。こんな状況で正気でいられるだろうか。だから彼は経済政策や安全保障の問題でチンプンカンプンの発言を繰り返し、国民の顰蹙を大いに買ったのだが、それはやむを得なかったのだ。そんなことよりはるかに大きい問題に鳩山由紀夫は孤独に取り組んでいたからだ。国民の将来、日本経済の将来を考える時間なんて全く無かったんだよ。だからみんなも彼のことをわかってやってほしい。彼は本当は頭がよくてもっといい政策を提案できたかもしれない、きっとやればできる人間だったってことを。

また、鳩山総理は優柔不断で決断力がないと批判されてきた。しかし、これも筆者にいわせてもらえばとんだお門違いだ。「お母さんからもらったお金を民主党議員に配って権力を握っている」なんてことが世間にバレたら大変なので、鳩山由紀夫氏の秘書は必死に「子ども手当」を個人献金に偽装していた。しかし、これがバレて大きな脱税問題に発展するやいなや、鳩山首相はその罪を全て自分のために何十年も身を粉にして働いてきた秘書に押し付け、自分は何も知らなかったと主張した。ふつうに考えたらそんなことはありえないだろう。このような形で部下に全ての罪を擦り付けてつき離すなんて人間として最低だ。だから国民は怒ったわけだ。しかし、待ってくれ。これは鳩山首相は本気になったら冷酷な決断をなんの躊躇もなく下せるという証左ではないか。優柔不断で決断力がないという彼の評判は間違っている。筆者は彼は本当は決断力のある男だと思う。

働いたこともなかったし、働く必要もなかった

筆者もそうだが、彼の経済や国民生活に関する発言には多くの国民が違和感を持っていた。鳩山首相は友愛、友愛と連発していたし、命を守りたいともいった。しかし、なぜかビジネスの現場で実際に毎日必死で働いている人々の心にはまるで響かなかった。ところがこれもよく考えてみれば当然ではないか。彼はほとんど働いこともなかったし、また、働く必要もなかったのだから。鳩山由紀夫は莫大な富を持つ家に生まれた。そして勉学に励み、アメリカに留学して、大学で教鞭をとっていた。どれも生活のためではない。いわば金持ちの道楽程度のものだった。だから必死に商売している人の気持がわからなかったし、日本の、そして世界の経済がどうやって動いているのか感覚的には全くわかっていなかったのではないだろうか。だから彼の経済政策が的はずれなのもしょうがなかったんだ。彼が悪いんじゃない。あまりにも恵まれすぎた彼の境遇が悪かったのだ。

彼は感情豊かな人間くさい男だった

鳩山総理をみていて常に一貫していたことは、彼の小泉純一郎に対する憎しみだ。郵政選挙と呼ばれた衆院選では、小泉純一郎率いる自民党に民主党はケチョンケチョンに叩きのめされた。お母さんからもらった大事なお金で育て上げてきた、民主党の仲間たちが独裁者の小泉純一郎の前に無残にも散っていった。だから、小泉純一郎を憎んだ。殺してやりたいとさえ思った。もしかしたら小泉純一郎に嫉妬していたのかもしれない。

だから「小泉の構造改革のために格差が広がって国民生活がめちゃくちゃになった」というようなデマを流して、必死に自民党を叩こうとした。そして、とうとう自民党を叩きのめし念願の政権交代を果たしたのだ。ついに積年の恨みをはらす時が来た。小泉政権が成し遂げたことをめちゃくちゃにしてやろうと思った。だから、国民新党の亀井静香を金融・郵政改革担当大臣に任命したのだ。迷いはなかった。亀井氏なら小泉純一郎が命をかけて成し遂げた郵政民営化をめちゃくちゃにできると思ったからだ。案の定、亀井氏は期待以上の働きをしてくれた。少し問題だったのはそれが多くの国民の利益に反していたことぐらいだ。

政治もビジネスも最後は私怨と怨念で動くのだ。女の奪い合いで戦争になったなんて話は歴史の中にゴロゴロしてるし、ビジネスでは女にふられた腹いせに会社を買収したという話まであるくらいだ。宇宙人と揶揄された鳩山由紀夫だが、筆者はここに彼の人間くささを見い出すのだ。鳩山由紀夫は、時に激しい感情に身をゆだねる情熱的な男だったのかもしれない。もっとみんなから愛されてもおかしくなかった。

本当に、本当に短い間だったけど、筆者はさまざまな政治・経済の興味深い問題を投げかけてくれた鳩山由紀夫に心からありがとうといいたい。そして、さようなら。

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