税金は死んでから納めよう - 小飼弾

小飼 弾

というわけで、前回からの続き。

なぜ増税は消費税であっては駄目なのか – 小飼弾 : アゴラ

長くなったので、続きは次回ということにさせていただく。が、ヒントはここに上げてもよいだろう。

次回はこのグラフからはじまる。

改めてこのグラフをご覧頂きたい。

これはバブル経済のただ中にあった1990年を100とした場合の、名目GDPと個人金融資産の推移である。見てのとおり、名目GDPはほとんど増えていない。「失われた20年」の姿はここにもくっきり映し出されている。

ところが、個人金融資産はその中にあって増えているのである。1000兆だったものが1400兆に。リーマンショックによるへこみも見て取れるが、2009年を見るとGDPがマイナスなのに増えている。一体どういうことなのか?

現役世代から高齢世代への所得移転がその原因ではないか。

年齢階層別の金融資産保有割合をグラフ化してみる:Garbagenews.com

右が2004年、左が2007年。ただでさえ高齢者に集中している資産が、より集中していることがこのグラフから伺える。要するに、よりお金を使ってくれる世代からお金を使ってくれない世代に資金が移動しているのだ。

図録▽年齢別の資産額と収入額

2004年の30歳未満の世帯主の家計資産は、817万円であり、70歳以上の家計資産は5,961万円と7.3倍に達している。同じ倍率は1999年には6.7倍であったので、資産の年齢格差は広がっているといえる。下の方の図により、世帯主の年齢別に資産の減少率をみると、若い世代の方が、資産の減り方が大きくなっており、この結果、年齢格差は広がったのである。

404 Blog Not Found:消費税は三重に逆進的である

この状態で消費税率を上げ、それを社会保障の財源にあてたら一体どうなるのか。
この傾向がますます進むことは子供でもわかる。老人はわかりたくないだろうが。

つまりそういうことなのである。

それではなぜ高齢世代はお金を溜め込んでしまうのか。

いつ死ぬかわからないからだ。

仮に退職直後に1億円あったとしても、その後10年で死ぬのであれば年間1000万円使えても、20年生きるのであれば年間500万、30年生きるのでは年間333万円しか使えない。で、どうなるかは本人にだってわからない。皮肉にも、低金利がその傾向に拍車をかけている。年利6%あれば600万円の収入で悠々自適も夢ではないが、今や1%の金利を稼ぐのだって大変だ。

そんな彼らに資産課税を持ちかけたら、総スカンを食うのは目に見えている。

だったらいっそ、生きている間ではなく死んでから納めてもらえばよいではないか。

仮に相続税を100%にしたらどれほどの財源になるか?

拙著「働かざるもの、飢えるべからず。」でざっくり試算してみた。

働かざるもの、飢えるべからず。」 P.154

ベーシックインカムにより、80兆円もの金額が全国民に均等に配分されるのですが、今まで行っていた他の社会再配分は当然廃止することになります。

まず、生活保護。これは憲法第25条が保証する、最低限文化的な生活に必要な収入がない人に対する補助金でもあるのですが、現状では「もらうべき人がもらえない」、「もらうべからざる人がもらっている」という二つの問題を抱えています。なぜそうなるかといえば、申請者を政府が審判するという仕組みがあるから。この仕組みが不要になるのですから当然生活保護も不要になります。

ベーシック・インカムは、見方を変えれば国民全員が年金を受給するということになるのですから、基礎年金も当然廃止となります。基礎年金には世帯扶助の他に積み立てた分もあるのですが、これはそのまま国民に返すことになります。

国が社会保障のために再配分している金額は、現在68.5兆円。その一方、国は社会保険料の名目で35.1兆円を国民から集めているので、差し引き 33.4兆円の「お得」ということになります。

現在の税収の三本柱である所得税、法人税、そして消費税は、2009年度でそれぞれ15.6兆円、10.5兆円、10.1兆円ですから、これを使って法人税と消費税を廃止してもまだ13兆円も「おつりが来る」ことになります。

これはあくまでベーシック・インカムの財源として、相続税100%というより社会相続を充てた場合の試算であるが、80兆円というのは、過去最も税収のあった1989年を20兆円も上回る。しかもこれは年々増加し、2020年には109兆円にもなると見込まれているのである。

その莫大な課税ベースに対し、現在実際にどれだけ課税されているかが、次のグラフである。

72兆円の1.8%、1兆3000億円程度となる。

納税とは痛いものである。確定申告したことがない人にはわかりづらいかも知れないが(余談であるが、消費税増税論者の本音の一部もこの痛みの感じづらさにあるのではないか)。しかし唯一、相続税だけはもはや痛みがわからなくなってから支払うものである。厳密には相続人が支払うので遺族は痛いが、それなら国が相続人ということにしてしまえば無痛になる。遺産争いまでなくなってよいことづくめではないか。

100%はムリにせよ、増税が必要であればまず上げるべきは相続税であり、見直すべきは「直間比率」ではなく「収資比率」である。

Dan the Taxpayer

コメント

  1. bobbob1978 より:

     「老人が財を貯め込んで消費しない」ことが現在の日本における消費の冷え込みの一因であるのは確かでしょうし、「財源として消費税より相続税を!」というのは十分考慮する価値のある話だと思います。
     ただその場合は「どのような資産を相続税の対象とするか?」を十分に議論するようにしないと、中小企業は相続時に軒並廃業することになります。「非上場企業の株式は相続税の対象外」等の新しい相続税税制を議論する必要がありますが、民主党の相続税改正案を見る限りではそう言ったことは何も考えず、ただ増税しているように思います。

  2. https://me.yahoo.co.jp/a/u540mrdbVIb5etvNTFCFUJ40iuo- より:

     考え方は全面的に賛成です。その前に池田さんが「逆進的では無い」と主張されている事への反論を、ご自身のblog上で述べてアゴラでは触れていないのは何故でしょう?
     とりあえずツッコミをいくつか。
    ・貴方は独身ですか。
    ・金融資産だけならともかく、自宅などを物納するとなると、子供や奥さんはホームレスになるということですか。
    ・農家の場合、農地を物納することになるけど、誰が耕作するのか。
    ・中小企業の殆どを含むいわゆるオーナー企業の場合、そのオーナーさんは株式を物納するのか。その場合、国がその中小企業等を経営し雇用を守れるのか。

     とりあえず瞬時に浮かんだのを掲げました。

  3. usa67 より:

    死人に口無しだから相続税100%で良いということでしょうか?今の60代までが黄泉の国にいくまで平均で20年もあるのに、それまで日本の財政事情が持つと思いますか?
    それよりも、こんなに老人が資産を持っているのであれば、動産、不動産に関わらず資産を持っている人に対しての年金の支給を即座にやめたら良い(至急条件の変更)。資産が不動産(自宅など)で現金化が難しい老人には、銀行などの金融機関とリバースモーゲージを積極的に組める仕組みを作ればよいでしょう。一方で本当に資産がないし、収入もない、収入を得る能力も無い高齢者には、生活保護者と同じように必要な住宅や食料、医療を国が支給すればよいのでは。

    増税の議論のはずが、出された情報から考えるに増税する前に年金の支払い条件を変更した方が良いという印象を受けました。高齢者に対する医療保険も受益者負担をもっと増やして、高齢者にかかる社会保障費用の削減を目指すことが増税機論より先ではないでしょうか。

  4. 松本孝行 より:

    思ったのですが、ダンさんは
    ・世代間ギャップの縮小

    ・財政赤字の圧縮
    をいっぺんにやろうとしているのではないでしょうか?それであれば、相続税というストックに税金をかけると言う考え方もアリかと思います。

    しかし両者共に我々の世代として重要ではありますが、一つの税で同時に行わなければならないものでしょうか?消費税+相続税でもいいんじゃないでしょうか?

  5. ikuside5 より:

    消費税か所得税か、の選択ではどうなりますか?世代間格差を解消するためには、消費税を上げるか、年金に高率の税をかけるかの2択になってくるわけですが。その上で若者世代への社会保障がより必要であることには賛成いたしますが。

  6. haha8ha より:

    税金・世代格差についての論議は、楽しく?読ませてもらっていますが、視点を変えた以下のような考え方はどうでしょう?

    「土地の相続・譲渡はその1割とし、残りは必ず国に返却する」

    ・とりっぱぐれがない
    ・国土の無駄に遊んでいるところが有効利用、大規模開発できる
    ・納税がイヤで土地を持ちたくない人は都市に向かうインセンティブが働く。逆に名誉として裕福層、功労者などに土地を渡せば、その人たちの勤労意欲になる。

    当然、問題は多々ありますし、1割については根拠有りませんが、破綻もありうる日本、空想ぐらいしたっていいかなと思いました。

  7. ikuside5 より:

    連投になり申し訳ないですが、そもそも消費税を財源としてさらに活用すべきだという意見のポイントは、ご指摘の「収資比率」の観点、つまり、間接的にではあるが資産(貯蓄でよいかと)への課税効果が消費税にはあるのだ、という点にあるわけですよね。これは池田先生の取り上げられていた大竹先生の論文での指摘かと思うのですが。

    それと私は、どうも、お年寄りが消費をしないという意見には、納得がいかないんですよね。ちょっと一面的にすぎる見方なのではないかと、なんとなく感じます。たしかに歳をとれば、家や車などの大きな買い物はしなくなりますが、お元気なうちには旅行などに出かけたりと楽しんでいるケースもお見かけしますし。さらに高齢になってくると、今度はむしろ、ちょっとしたことをするにも人を使わなければならなくなります。そうなってくると、なにかと支出が嵩んで来るはずです。行動範囲が狭くなると食費なども節約も効かなくなりますし。また、高齢者が詐欺の被害に合いやすいという報道などを見ていると、本当にお年寄り自体の消費性向はそんなに低いのか?とつい思っちゃいますね。まあ詐欺は関係ないかもしれないですが・・・。

  8. aoi700aoi より:

    >お年寄りが消費をしないという意見には、納得がいかない
    これは私も少し思います。

    日本では、60代と70代では70代のほうが資産を持っていますが、他国では引退後はちゃんと資産が減っていきます。
    社会保障も日本は他国に比べて手厚いです。
    なのに、日本の高齢層が溜め込むのはなぜか?

    単に、高齢層へのビジネスとしてのモノ・サービスの供給が足りてない(需要を掘り起こせていない)だけではないか?と。

  9. ikuside5 より:

    相続税についての議論も結局のところ、お年寄り個人の判断で相続人を決める選択権が全くなくなるわけですよね。これってどうなんですかね?

    お年寄り世帯が単独もしくは夫婦だけで暮らすことには、よりお金はかかるとおもいますが、他の家族と一緒なら助かるし生活費は浮くというようなケースは日本では意外とまだ一般的だったりしますよね。これまでは遺産を残すインセンティブも多少はあったものが、今度はなるべくお年寄りが資産を残さないようにするインセンティブのようなものが生じますね。家計全体で見たら消費の規模は変わらずとも、なるべくお年寄りの金融資産にたかって生活した方が得であるとか。そういうのって、どうなんでしょうか?相続の選択と共に、お年寄りの家族内でのプライバシーが、生前まだ元気なうちからなくなっちゃいませんか?

  10. はんてふ より:

    「厳密には相続人が支払うので遺族は痛いが、それなら国が相続人ということにしてしまえば無痛になる。遺産争いまでなくなってよいことづくめではないか。」

    論者は確か、行動経済学の知見も容認されていました。
    ことベーシックインカムに関わる相続税の話になると、
    そのあたりがウブな感じが致します。

    相続というのはそれこそ人間の怨念の最たるもので、
    「遺産争いまでなくなってよいことづくめ」と
    なるような制度設計というのが想像し辛い。

    行動経済学がかなり発展したとしても、
    ここまで人間の怨念が発生する「相続」を
    制度設計で解決するのは不可能なのではないでしょうか。
    故に、不毛な議論だな、と私は思います。