ウェブ上の「プラットフォーム競争」が始まった - 池田信夫

池田 信夫

朝日新聞のWEBRONZAがスタートしました。半年ぐらい前に一色編集長が来られて「アゴラを参考にしたい」とのことだったので、アゴラやblogosに似ているところもありますが、ウェブ上で署名入りのまともな言論が流通することをめざしたわれわれとしては「プラットフォーム競争」は大歓迎です。

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ただ中身をみると、よくも悪くも朝日新聞的なpolitically correctnessの制約はまぬがれません。もちろん今は記事が少ないので、これからどうなるかはわかりませんが、たとえば雇用問題で解雇規制の問題に踏み込むなら有料の読者も増えるでしょうが、今までの朝日の社説の範囲にとどまるなら、商業的にも成功しないでしょう。

論壇誌は、紙の世界では絶滅危惧種です。『論座』も含めて、左右の論壇誌はほぼ全滅で、あとは『正論』と『VOICE』と『世界』が、赤字を垂れ流しながら版元の意地で続いているだけです。こうした雑誌がだめなのは、冷戦時代の「保守」と「革新」の軸の上で同じパターンの論争を続けてきたためです(VOICEは少し違いますが)。

実は右派系論壇誌の編集者も、保守イデオロギーは信じていない。ある編集者は「私も家では朝日新聞を取っているが、あれと同じことは新聞でいくらでも読める。金をはらってもらうためには、新聞で読めない特殊な意見でないとだめだ」と言っていました。高齢者の世界では「大東亜戦争は正しかった」みたいな感情論は一定の固定読者がありましたが、『論座』のような建て前論は市場がない。

この観点からいうと、残念ながら一色さんのような中道左派的な意見は「報道ステーション」で毎日やっているので、金を取るのはむずかしい。WEBRONZAを見ると、執筆者も「朝日文化人」だけではなく、ウェブから出てきた若い世代も起用するなど工夫のあとが見られますが、こういう言論はブログで読めるので、7月1日から月735円というのは急ぎすぎじゃないでしょうか。

いずれにせよ、記者クラブや再販制で競争を制限してきたメディアの世界に、競争が出てきたのはいいことです。今度は、今は亡き『諸君』のような右派系オピニオン・サイトが出てきて――中身はもうちょっとアップデートして――WEBRONZAと闘ってほしいものです。