老人大国の憂鬱 - 『デフレの正体』

2010年06月27日 18:56

★★☆☆☆(評者)池田信夫

デフレの正体  経済は「人口の波」で動く (角川oneテーマ21)デフレの正体 経済は「人口の波」で動く (角川oneテーマ21)
著者:藻谷 浩介
販売元:角川書店(角川グループパブリッシング)
発売日:2010-06-10
おすすめ度:クチコミを見る


本書の帯には「日本経済の常識は大間違い!」などと書かれ、著者も「類書にないオンリーワン」だと勢い込んでいるが、中身はよくも悪くも常識的な本だ。小野理論のようなバラマキ景気対策でも、リフレ派のいうようなバラマキ金融政策でも日本の問題は解決しない。最大の問題は高齢化である――身も蓋もなく要約するとこういう内容で、間違ってはいないがオンリーワンではない。

ただ経済学者のむずかしい論文を読めない政治家には、読みやすいかもしれない。最初に思わせぶりなクイズや「常識を疑え」みたいな話が延々と続くのは冗漫だから、175ページから読めばいい。重要なのは、いま起こっているのは貨幣的な「デフレ」ではなく、高齢化による消費の減退と少子化による労働人口の減少という「構造変化」であることをデータで示している点だ。

特に深刻なのは、1400兆円の個人金融資産のうち1000兆円以上を60歳以上が保有し、その保有額が死ぬとき最大になることだ。労働せず、消費もしない年金生活者が増えたことが日本経済全体を沈滞させており、これは今後さらに深刻化する。これに対する処方箋として本書が提案するのは、年功序列の廃止や生前贈与で所得を高齢者から若者に移転する、労働人口の減少を補うために女性の就労を支援する、「あまねく公平」をやめてコンパクトシティに重点投資するなど、これも常識的だ。

ただグローバル化(特に新興国との競争)による相対価格の低下を無視し、株主資本主義を否定しているのはいただけない。著者のいう「内需型産業」の付加価値を高めるのはいいが、それだけでは成長率は上がらない。資本市場と労働市場の活性化によって企業の新陳代謝を進めないと、成長のエンジンであるハイテク産業は伸びないし、サービス業の効率も上がらないのである。

追記:最近、本書が「デフレ論の決定版」として評価されているようだが、高齢化は成長率低下の一つの原因にすぎない。東アジアだけでも、韓国、台湾、シンガポール、香港の出生率は日本より低く、高齢化率も90年代までは日本は主要国の平均程度である。

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池田 信夫
アゴラ研究所所長 SBI大学院大学客員教授 学術博士(慶應義塾大学)

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