参院選の本当の争点 - 池田信夫

2010年06月30日 17:40

参院選が告示され、選挙戦が始まったが、今ひとつ盛り上がらない。昨年の総選挙には「政権交代」という大きな争点があったが、その結果生まれた鳩山政権の迷走ぶりに有権者が白けてしまい、菅政権には大した期待をもっていない。

最大の争点だった消費税も、自民党が10%という数字を出して「責任野党」のカラーを出したと思ったら、民主党がそれに相乗りして「超党派で協議しよう」と言い出した。「消費税みんなで上げれば恐くない」というわけだろうか。他方、法人税も民主・自民両党が引き下げを言い出し、これも争点にならない。

そんな中で注目に値するのは、自民党がマニフェストで「解雇規制を緩和すると同時に、企業における柔軟な経営を行える環境を整備するなど、企業の持続による雇用の安定につなげます」という政策を打ち出したことだ。


みんなの党も「民主党政権の派遣禁止法案は、かえって働き方の自由を損ない、雇用を奪うものであり反対」と、昨年の総選挙で派遣労働規制に賛成したのに比べて少しスタンスを変えている。労働市場の問題はこれまでタブーであり、「クビを切りやすくする制度改正はけしからん」という労働組合の攻撃を受けるため、両党ともおっかなびっくりの慎重な表現になっている。

実は、財政赤字と労働市場の問題は表裏一体である。今まで自民党政権が増税を先送りして国債を増発してきたのは、実質的には若い世代から老人への巨額の所得移転である。派遣労働規制も、老人の「終身雇用」を守るために労働市場から若年労働者を排除するものだ。それは投票率の高い老人に迎合する、政治的には合理的な戦術である。愚かなのは、選挙に行かない若者だ。

このような政治家の「老人バイアス」は、どこの国でも多かれ少なかれ見られるが、急速に高齢化が進む日本では、世代間の利害対立がもっとも激しい。生涯収入が世代間で7000万円以上違う国というのは、世界でも例をみない。老人のため込んだ資産は消費されないので需要は低下し、若者は「自分の年金は出ないかもしれない」と心配して節約する。このまま放置すると、日本が老人大国になって活力を失うことは確実だ。

そして団塊の世代が首脳陣を占める民主党は、明らかに社会保障の食い逃げをねらっている。「強い社会保障で強い経済が実現する」という支離滅裂な話は、老人の既得権を隠すレトリックだ。私は、選挙で争うべき本当の争点は、右翼とか左翼とかいう冷戦時代の対立ではなく、この世代間対立だと思う。特に労働市場の問題をどう扱うかは、政党の試金石だ。不公正で非効率な所得移転を阻止する系統的な政策を打ち出さないかぎり、自民党も公明党もみんなの党も、政権を取ることはできないだろう。

アゴラの最新ニュース情報を、いいねしてチェックしよう!
池田 信夫
アゴラ研究所所長 SBI大学院大学客員教授 学術博士(慶應義塾大学)

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑