法人税減税とパイプラインの水もれ - 矢澤豊

2010年07月01日 10:25

The First Law of Policy Economics: Every inefficiency is someone’s income.
政治経済学の第一法則:すべてのムダは、だれかの収入である。


参院選が公示ということで、各政党ともマニフェストを発表しているようです。以前の「私の逆マニフェスト」エントリーが原因とは思えませんが、各党とも、おっかなびっくりながらも、私が掲げた重要事項に対して、(以前に比べれば)それなりに踏み込んだ内容のようです。

しかし「法人税の減税」を成長政策の一環として売り出しているのは、いささか片腹痛い。

確かに日本の法人税は、高すぎますが、それを下げることだけによって日本経済が停滞から成長にうつるとは思えません。「初めの一歩」ではありましょうが。

経済学の専門家ではありませんが、私は30代の前半を証券化案件を中心としたキャピタル・マーケット・ロイヤー、後半は投資ファンド組成をもっぱらとしたファンド・ロイヤーとして過ごしました。いうなれば世界金融という舞台において、お金が流れるパイプラインを敷設・修理する配管工(プラマー)だったわけです。

不良債権の流動化は、下水道工事。ベンチャー・ファンドなどは、上水道工事。

人呼んでグローバル・ファイナンシャル・システムのマリオ・ブラザーズ。(とはいえ、マリオとルイージがかつては配管工であった過去を知る人も少なくなりましたが。)

リーマン危機このかた、シャドー・バンキング・システムなどと揶揄されましたが、いくら「お上」がゲートキーパー(=蛇口?)を特定しようとしても、お金は水のように流れ出してしまうものです。特に「資本」という名のつくお金は「さびしんぼう」(これも古い...)で、常に「ビジネスチャンス」という価値創造の場に集まってくるお友達を求めて、国境を超えて流れ出そうします。

こうした「パイプライン」において、税金というものはいわば「水漏れ」です。

「あの国にパイプラインを通すと水漏れがひどいから、あそこには(資金募集、もしくは資金投下のための)蛇口だけおいておこう。」

というのが、今までの日本でした。(日本だけでなく、先進国はどこも同じですが。)

法人税が下がれば、このように日本を避けて敷設されていたパイプラインが、日本に戻ってくるかもしれません。わざわざ弁護士や会計士(彼らの手数料も「水漏れ」です)をつかって、大がかりなパイプライン・スキームを組まなくても、漏らさなければならない「水=税金」は日本で漏らしておこう、となるでしょう。

「お上」も「パイプライン」には目を光らせておりますから、パイプライン・スキームには「お上リスク」が大なり小なり伴います。

最近では京セラが今年4月、大阪国税よりシンガポールや香港の海外子会社を利用した価格移転・約50億円の申告漏れとの指摘をうけて、約25億7千万の追徴金の一部を納入するとともに、異議申し立てをしております。京セラは5年前にも価格移転・約243億円の申告漏れとの指摘を受け、約127億円の追徴金を支払いましたが、異議申し立てが一部認められ、内73億円を返してもらっています。(「申告もれ!」は一面トップを飾りますが、「一部還付」(しかも追徴金の半額以上)は、ほとんど取り上げられないので、京セラさんの名誉のためにあえて太字にしました。)

基準と適用がかなりグレイな「価格移転」と、伝家の宝刀「否認」という、国税当局の二刀流攻撃にさらされて、「水」もれっぱなし。僭越ながら同情に堪えない京セラさんです。(なぜ京セラが...ということに関しては、思い当たる「伏線」に気がつく読者諸賢も多いのではないでしょうか。)

このような「お上リスク」をしょい込むよりは、日本で税金を払っておきましょう、と考える経営者も、法人税の引き下げとともに増えてくるでしょう。

しかしお金の流れが日本に戻ってきたとしても、それは減少傾向著しい、税収の下支えにはなっても、経済の成長、雇用の促進には直接つながらないのではないかと私は思います。

お金の「パイプライン」は戻ってきても、大きなビジネスチャンスはあくまでも日本国外にあります。今までは海外での収益を、海外で申告し、海外での設備投資に当てていました。しかし日本の税金が下がったからといって、海外での収益を日本で申告するようになったとしても、だからそのお金で日本での設備投資するというシナリオにはならないでしょう。(日本が法人税を下げたとしても、日本企業が事業を行っている国の方でも、あの手この手でジャパン・マネーを自国にとどめおかせようとしていることも忘れてはいけません。)

日本の経済を成長させ、雇用を促進するためには、日本にお金の流れを戻すだけではなく、日本にビジネスチャンスを創出しなければなりません。そのためには既存の日本の経済構造/ビジネスモデルの修正が必要なのです。不動産物件にたとえれば、老朽化甚だしく、建て替え/リフォーム時期はとっくに過ぎてしまったにもかかわらず、最近は家賃支払も滞り気味のテナントがじゃまして何の手の打ちようもない、しかも個々のテナントによるメンテナンスクレーム(=社会保障)で破産直前の「日本国ビル」。日本経済の成長のために本当に必要なのは「規制緩和」による、テナント(=現役ビジネス牽引者)の交代と、建て替え・リフォームによる収益性の改善なのです。

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