一時世の中を騒がせた「SIMロック解除問題」は、「事業者の自主的な取り組みに期待する」という総務省の基本的な考えが固まり、妥当な方向に向かっていると思っていましたが、そんな折も折、日経新聞の一面トップで、「ドコモが全機種についてSIMロックを外す」ということを報じたので、少し驚きました。ドコモは、これまで、「ユーザーの意向に従う」という事を繰り返して表明してきていましたので、「ユーザーの意向」が確かめられる前の段階での、一方的で且つ大胆なこの発表は、多くの憶測を呼んでいます。
私は現在ソフトバンクモバイルの副社長をしていますから、当然、このドコモの発表についてのコメントを何度か求められました。これに対して、私はこう答えています。
「SIMロック問題については、事業者間で考え方が違うようです。ドコモさんは自らの考えに従ってこの様な決定をされたのでしょうが、ソフトバンクの考えがこれによって影響を受けることはありません。ドコモはドコモ、ソフトバンクはソフトバンクです。我々もSIMロックフリーの機種を何機種か出して、ユーザーの反応を見ようと考えていますが、iPhoneやiPadをSIMフリーにする計画は、当面全くありません。」
何とも面白味のないコメントで申し訳ありませんが、これが事実なのですから仕方がありません。
SIMロック問題については、総務省の内藤副大臣を始めとして、何人かの方々が今年の初め頃から突然ハッスルされ、相当大きな議論となりました。「SIMロックは日本固有のものであり、これが日本の携帯端末機の世界市場での不振の一因となった」とか、「SIMロックを外せば事業者間の競争が促進され、通信料や機器の価格が下がる」とかいう、私に言わせれば「全く根も葉もない議論」が流布され、不思議な情況が広がりました。
私は、このアゴラのサイトでも、この様な議論が如何に「根も葉もないもの」であるかを縷々論じさせて頂きましたが、それでも、「いつもは『改革開放派』であるソフトバンクが、この件になると『旧守派』になる。結局は自社の利益だけを考えているのではないか」と言う人達を完全には根絶出来てはいません。「『光の道』では天下国家を論じているのに、SIMロック問題になると違った立場をとっている」というご批判もありました。
このことを通じて私が感じたのは、「世論は『レッテル』で動きやすい」という事です。つまり、「SIMロック」と言えば、「制限」を連想させるので、悪いイメージがあり、「SIMフリー」と言えば、よいイメージがあるということです。今回のドコモさんの発表も、「ドコモは全てを『自由』にする『良い会社』だ。『制限』をしている『悪い会社』に、みんなで圧力をかけよう」と言いたいかのようです。
しかし、識者の多くは、「レッテル」は現実にあっていないものが多く、「レッテル貼り」は危険なものであるという事を、よく知っています。
「ダム」にも、「良い(役に立つ)ダム」「悪い(無駄な)ダム」「普通の(どちらとも言えない)ダム」があるように、「制限」にも、「良い制限」「悪い制限」「普通の制限」があるのは当然です。全ては、「レッテル」によってではなく、「個々の事柄についてのメリットとデメリット」によって判断されるべきは、当然のことです。
もし、「SIMロック解除」が、一部の人が主張しているように本当に素晴らしいことであるなら、ドコモの今度の決定は「ユーザーのことを考えてくれた快挙」として大歓迎され、それによってドコモの端末機の売り上げは急増する筈です。ソフトバンクもKDDIも、「これで自分達のSIMカードがドコモ端末機に挿入して貰えるチャンスが到来した」と色めき立ち、争って通信料を下げる筈です。そうなると、これに対抗する為にドコモも通信料を下げ、大競争が起こって、通信料金全体が大きく下がる筈です。でも、本当にそんなことになるのでしょうか?
結論から先に申し上げると、残念ながら、そんなことには全くならないでしょう。つまり、「レッテル」の嘘は、遠からず簡単に露呈されることになるでしょう。
先ず、最初に見極めなければならないのは、ドコモが「端末機の値段」をどのように設定するかです。次に、各事業者が自由に流通する自社のSIMカードに対応する「通信料」をどのように設定するかです。いつも申し上げているように、ユーザーにとっての最終的な関心事は、常に「値段」です。アンケートに対しては、ユーザーは適当に答えるでしょうが、いざ自分でお金を払って物を買う時になれば、「レッテル」などには見向きもせず、慎重に「値段に見合う価値」を吟味するのです。
私の推測では、ドコモは、SIMロックを解除したからといって、決して端末機の値段を大幅に上げるようなことはしないでしょう。何故なら、普通の機種については、「SIMロックがあろうとなかろうと、ドコモの機種を買ったユーザーが、わざわざ途中で他社のSIMに差し替えること等はあり得ない」と考えている筈だからです。
それは当然のことです。ドコモの普通の機種を買ったユーザーは、「iモード」とか、「iコンシェル」とか、「おサイフ」とかの、「ドコモ固有の機能」を気に入って買ったのでしょう。しかし、他社のSIMカードに差し替えた途端に、そういうものが全て使えなくなって、単なる「モシモシ・ハイハイの電話機(メールさえ使えない!)」になることを知らされます。そうなると、それを知りながらも、それでもSIMカードを差し替えるような酔狂な人は、この世に存在する筈もないからです。(因みにKDDIのSIMカードの場合は、システムが全く違う為、「モシモシ・ハイハイ」さえ出来ませんから、全く問題外です。)
勿論、もしも「ソフトバンクのSIMカードなら値段が半分になる」というのなら、「酔狂な人」も若干はいるかもしれません。しかし、ソフトバンクには、そんな値段はつけられません。
そもそも、現在の携帯電話の通信料は、基本料というものがあって、その上に、「通話料は毎分幾ら」「パケット料は1パケット当り幾ら」と決っています。それに、各種の無料通話や割引、フラットレートなどが複雑に絡み合っています。各通信事業者は、慎重に色々なケースをシュミレレートして、損の出ないような値段を設定し、ユーザーはそれを総合的に判断して、「自分の場合はこれが一番安くつく」という組み合わせを見つけ出しているのです。
ですから、「何時どこで使って貰えるかも分からないSIMカード単体に対応する通信料」は、当然一番高いものにならざるを得ません。(これは、「定期券や回数券に比べると、普通の片道切符が一番高くなる」のと同じ理屈です。)
「分かった、分かった。それならソフトバンクも、何も恐れることはないのだろうから、ぐずぐず言わずにドコモと同じ事をすればよいではないか」と言われる人が当然いるでしょうが、そうはいきません。
ドコモだって、こんなことをやれば、料金体系を変えたり、その為に新しいコンピュータシステム構築をしたり、セールス現場の教育訓練をしたりと、色々余分な手間やお金がかかるわけですが、「それに見合うだけのメリットがある」と思っているからこそ、今回これをやろうと決めたのでしょう。(その理由については後述します。) しかし、ソフトバンクにとっては、そんなメリットはなく、殆どマイナスばかりですから、「ユーザーの為にどうしてもやらなければならない」という確証が見極められるまでは、慎重を期すのが当然です。
率直に言って、後発である上に「黄金周波数」である800MHz帯の免許を持っていないソフトバンクは、ネットワークのカバレッジについては、当面ドコモやKDDIに若干劣っています。つまり、現時点では、「価格やサービスでその弱点をカバーしていかなければならない」というハンディキャップゲームを戦っているのです。(尤も、これではいけないということで、「基地局倍増宣言」というものまで出して、何とかその弱点を解消しようと、現在必死の努力をしていることも、皆様ご存知の通りです。)
現時点で新たにソフトバンクの端末を買うことを決めて下さった人は、この弱点を斟酌しつつも、ソフトバンクに「総合点での合格点」をつけて下さったわけですから、SIMロックがあろうとなかろうと、基本的には関係はありません。しかし、SIMロックがなくなること(つまり長期使用の保証がなくなること)についての不安は、ドコモに比べると、現状では若干は多くなることも、率直に言って否めません。(KDDIの場合は始めからゼロですから、問題外です。)
さて、このコラムの読者の中には、この業界について相当詳しい方も数多くおられるわけですから、そろそろ綺麗事の話はやめて、ずばり核心の話に入りましょう。(但し、ここには、私自身の個人的な推測も数多く入っていることは、あらかじめご了承ください。)
多くの人達が推測していた様に、今回のSIMロック議論の仕掛け人は、総務省というよりは、やはりドコモだったのかもしれません。勿論、ドコモの関心事は唯一つ、iPhone(及び、その後に出てきたiPad)が生み出す通信トラフィックです。そうでなければ、何故、この時点で、特にどこからプレッシャーを受けたわけでもなさそうなのに、また、その為の手間も厭わず、自ら「全機種のSIMフリー化」を発表する必要があったのでしょうか?
既存の機種では、ドコモとソフトバンクでは、殆ど似たような機種が一通り揃っています。典型はシャープの機種で、色々な理由でドコモと契約したいユーザーが、「しかし、どうしてもソフトバンクのこの機種が欲しい」というような事は、先ずないのです。しかし、ここに唯一の例外が出てきました。それがiPhoneです。
世界中の他の携帯電話端末メーカーが、これまでの惰性でそれぞれに端末機を作っているうちに、Apple社は密かに万端の準備を整え、これまでとは全く異なった感覚と仕組みを持ったiPhoneを発表しました。MicrosoftのOSを使ったiPhoneに似た端末は台湾のHTCや日本の東芝から出ていましたし、携帯電話機の王者Nokiaの幾つかの機種や、RIM社のBlackberryは、欧米ではそれなりにある程度のユーザーの心をとらえていましたが、随所に画期的な工夫を凝らして丁寧に作りこまれたiPhoneに比べると、相当に見劣りがし、世界市場でiPhone人気が独走する状況が生まれました。
従って、日本でも、他の機種と異なり、「どうしてもiPhoneを使いたい」というユーザーにとっては、「代替品がない」という状況になったのです。(尤も、現時点では、Google社のアンドロイドOSが完成度を高めてきたので、これを利用した機種が、HTC、Motorola、Samsung、LG、Sony Ericsson等の各社から次々に発売される状況になってきており、「iPhoneの一人勝ちもそんなに長くは続かないのではないか」という見方をする人達も
多くなってきています。)
さて、古今東西を問わず、この様な圧倒的に強い商品が出現すると、その販売権を巡って熾烈な競争が起こるのは、至極当然のことです。そして、この競争の中で、日本市場向けには、ソフトバンクが一定の条件下での実質的な独占権を獲得しました。Apple社が求めるのは当然売り上げの最大化ですから、ソフトバンクは、販売・サービス体制の整備から価格設定に至るまで、その目的を満足させる万全の条件を整えたのです。ネットワークカバレッジでの若干のハンディキャップを補う為に、相当の無理をしなければならなかったであろうことも、当然想像され得ます。
こうなると、どうしてもiPhoneが欲しい人は、カバレッジなどの問題には多少目をつぶってでも、ドコモからソフトバンクに乗り換えざるを得ないことになります。或いは、「ドコモの端末はそのままキープするとしても、それはどうしても必要な電話の受発信に使うだけにして、他のことは殆どiPhoneでやる」ことになります。
ソフトバンクは、勿論、その事を十分考えた上で収支計算をしているわけですから、この効果を減殺する「SIMロック解除」等をするわけはありません。そんな事をすれば、収支計算の基本が崩れ、価格政策や販売・サービス体制を根底から見直さなければならなくなるからです。(そして、これは、販売量の減少につながりますから、Apple社としても好ましくはないことでしょう。)
この状況下で、販売権の争奪戦には敗れたものの、「iPhoneへの既存顧客の執着を恐れ、iPhoneが生み出す多額の通信料収入を諦め切れなかった」ドコモは、総務省に働きかけ、「政治的な力でソフトバンクに『SIMロック解除』を強制して貰い、端末販売のコストを負担することなく何がしかの通信料収入を得る」という「美味しいシナリオ」を求めたのではないでしょうか?
勿論、これは「下司の勘ぐり」に過ぎないかもしれません。しかし、数ヶ月前の総務省(特にNTT出身の内藤副大臣)の異常な迄に性急な動きや、よく準備された「レッテル貼り」型のキャンペーン、それに、今回の不思議なタイミングでの「全機種SIMフリー宣言」を繋ぎ合わせて考えてみると、この解釈が、何となく納得できるような「謎解き」に見えてくるのです。
同業者としての私は、勿論、この様な「勘ぐり」が当たっていないことを願っています。「競争」はオープンに正々堂々とやるべきです。現実に、ソフトバンクは、ユーザーの不満を解消する為の「ネットワークカバレッジの充実」に現在必死で頑張っていますし、世界中の他の通信事業者とは比べ物にならない位の技術力を持つドコモは、日本メーカー等を助けて、「iPhoneに負けないような高性能の端末機」を生み出すことに注力されるべきでしょう。
業界として総務省の介入を求めるのは、「光の道」のような「大規模な国家プロジェクト」の場合や、「公正競争の実現」の為にそれが不可欠である場合に限るべきです。それ以外のケースで各通信事業者の利害が相反する場合は、先ず業界内部でよく話し合い、その上でどうしても必要と判断された時に、はじめて総務省に相談するべきでしょう。
「SIMロック問題については、事業者間で考え方が違うようです。ドコモさんは自らの考えに従ってこの様な決定をされたのでしょうが、ソフトバンクの考えがこれによって影響を受けることはありません。ドコモはドコモ、ソフトバンクはソフトバンクです。我々もSIMロックフリーの機種を何機種か出して、ユーザーの反応を見ようと考えていますが、iPhoneやiPadをSIMフリーにする計画は、当面全くありません。」
何とも面白味のないコメントで申し訳ありませんが、これが事実なのですから仕方がありません。
SIMロック問題については、総務省の内藤副大臣を始めとして、何人かの方々が今年の初め頃から突然ハッスルされ、相当大きな議論となりました。「SIMロックは日本固有のものであり、これが日本の携帯端末機の世界市場での不振の一因となった」とか、「SIMロックを外せば事業者間の競争が促進され、通信料や機器の価格が下がる」とかいう、私に言わせれば「全く根も葉もない議論」が流布され、不思議な情況が広がりました。
私は、このアゴラのサイトでも、この様な議論が如何に「根も葉もないもの」であるかを縷々論じさせて頂きましたが、それでも、「いつもは『改革開放派』であるソフトバンクが、この件になると『旧守派』になる。結局は自社の利益だけを考えているのではないか」と言う人達を完全には根絶出来てはいません。「『光の道』では天下国家を論じているのに、SIMロック問題になると違った立場をとっている」というご批判もありました。
このことを通じて私が感じたのは、「世論は『レッテル』で動きやすい」という事です。つまり、「SIMロック」と言えば、「制限」を連想させるので、悪いイメージがあり、「SIMフリー」と言えば、よいイメージがあるということです。今回のドコモさんの発表も、「ドコモは全てを『自由』にする『良い会社』だ。『制限』をしている『悪い会社』に、みんなで圧力をかけよう」と言いたいかのようです。
しかし、識者の多くは、「レッテル」は現実にあっていないものが多く、「レッテル貼り」は危険なものであるという事を、よく知っています。
「ダム」にも、「良い(役に立つ)ダム」「悪い(無駄な)ダム」「普通の(どちらとも言えない)ダム」があるように、「制限」にも、「良い制限」「悪い制限」「普通の制限」があるのは当然です。全ては、「レッテル」によってではなく、「個々の事柄についてのメリットとデメリット」によって判断されるべきは、当然のことです。
もし、「SIMロック解除」が、一部の人が主張しているように本当に素晴らしいことであるなら、ドコモの今度の決定は「ユーザーのことを考えてくれた快挙」として大歓迎され、それによってドコモの端末機の売り上げは急増する筈です。ソフトバンクもKDDIも、「これで自分達のSIMカードがドコモ端末機に挿入して貰えるチャンスが到来した」と色めき立ち、争って通信料を下げる筈です。そうなると、これに対抗する為にドコモも通信料を下げ、大競争が起こって、通信料金全体が大きく下がる筈です。でも、本当にそんなことになるのでしょうか?
結論から先に申し上げると、残念ながら、そんなことには全くならないでしょう。つまり、「レッテル」の嘘は、遠からず簡単に露呈されることになるでしょう。
先ず、最初に見極めなければならないのは、ドコモが「端末機の値段」をどのように設定するかです。次に、各事業者が自由に流通する自社のSIMカードに対応する「通信料」をどのように設定するかです。いつも申し上げているように、ユーザーにとっての最終的な関心事は、常に「値段」です。アンケートに対しては、ユーザーは適当に答えるでしょうが、いざ自分でお金を払って物を買う時になれば、「レッテル」などには見向きもせず、慎重に「値段に見合う価値」を吟味するのです。
私の推測では、ドコモは、SIMロックを解除したからといって、決して端末機の値段を大幅に上げるようなことはしないでしょう。何故なら、普通の機種については、「SIMロックがあろうとなかろうと、ドコモの機種を買ったユーザーが、わざわざ途中で他社のSIMに差し替えること等はあり得ない」と考えている筈だからです。
それは当然のことです。ドコモの普通の機種を買ったユーザーは、「iモード」とか、「iコンシェル」とか、「おサイフ」とかの、「ドコモ固有の機能」を気に入って買ったのでしょう。しかし、他社のSIMカードに差し替えた途端に、そういうものが全て使えなくなって、単なる「モシモシ・ハイハイの電話機(メールさえ使えない!)」になることを知らされます。そうなると、それを知りながらも、それでもSIMカードを差し替えるような酔狂な人は、この世に存在する筈もないからです。(因みにKDDIのSIMカードの場合は、システムが全く違う為、「モシモシ・ハイハイ」さえ出来ませんから、全く問題外です。)
勿論、もしも「ソフトバンクのSIMカードなら値段が半分になる」というのなら、「酔狂な人」も若干はいるかもしれません。しかし、ソフトバンクには、そんな値段はつけられません。
そもそも、現在の携帯電話の通信料は、基本料というものがあって、その上に、「通話料は毎分幾ら」「パケット料は1パケット当り幾ら」と決っています。それに、各種の無料通話や割引、フラットレートなどが複雑に絡み合っています。各通信事業者は、慎重に色々なケースをシュミレレートして、損の出ないような値段を設定し、ユーザーはそれを総合的に判断して、「自分の場合はこれが一番安くつく」という組み合わせを見つけ出しているのです。
ですから、「何時どこで使って貰えるかも分からないSIMカード単体に対応する通信料」は、当然一番高いものにならざるを得ません。(これは、「定期券や回数券に比べると、普通の片道切符が一番高くなる」のと同じ理屈です。)
「分かった、分かった。それならソフトバンクも、何も恐れることはないのだろうから、ぐずぐず言わずにドコモと同じ事をすればよいではないか」と言われる人が当然いるでしょうが、そうはいきません。
ドコモだって、こんなことをやれば、料金体系を変えたり、その為に新しいコンピュータシステム構築をしたり、セールス現場の教育訓練をしたりと、色々余分な手間やお金がかかるわけですが、「それに見合うだけのメリットがある」と思っているからこそ、今回これをやろうと決めたのでしょう。(その理由については後述します。) しかし、ソフトバンクにとっては、そんなメリットはなく、殆どマイナスばかりですから、「ユーザーの為にどうしてもやらなければならない」という確証が見極められるまでは、慎重を期すのが当然です。
率直に言って、後発である上に「黄金周波数」である800MHz帯の免許を持っていないソフトバンクは、ネットワークのカバレッジについては、当面ドコモやKDDIに若干劣っています。つまり、現時点では、「価格やサービスでその弱点をカバーしていかなければならない」というハンディキャップゲームを戦っているのです。(尤も、これではいけないということで、「基地局倍増宣言」というものまで出して、何とかその弱点を解消しようと、現在必死の努力をしていることも、皆様ご存知の通りです。)
現時点で新たにソフトバンクの端末を買うことを決めて下さった人は、この弱点を斟酌しつつも、ソフトバンクに「総合点での合格点」をつけて下さったわけですから、SIMロックがあろうとなかろうと、基本的には関係はありません。しかし、SIMロックがなくなること(つまり長期使用の保証がなくなること)についての不安は、ドコモに比べると、現状では若干は多くなることも、率直に言って否めません。(KDDIの場合は始めからゼロですから、問題外です。)
さて、このコラムの読者の中には、この業界について相当詳しい方も数多くおられるわけですから、そろそろ綺麗事の話はやめて、ずばり核心の話に入りましょう。(但し、ここには、私自身の個人的な推測も数多く入っていることは、あらかじめご了承ください。)
多くの人達が推測していた様に、今回のSIMロック議論の仕掛け人は、総務省というよりは、やはりドコモだったのかもしれません。勿論、ドコモの関心事は唯一つ、iPhone(及び、その後に出てきたiPad)が生み出す通信トラフィックです。そうでなければ、何故、この時点で、特にどこからプレッシャーを受けたわけでもなさそうなのに、また、その為の手間も厭わず、自ら「全機種のSIMフリー化」を発表する必要があったのでしょうか?
既存の機種では、ドコモとソフトバンクでは、殆ど似たような機種が一通り揃っています。典型はシャープの機種で、色々な理由でドコモと契約したいユーザーが、「しかし、どうしてもソフトバンクのこの機種が欲しい」というような事は、先ずないのです。しかし、ここに唯一の例外が出てきました。それがiPhoneです。
世界中の他の携帯電話端末メーカーが、これまでの惰性でそれぞれに端末機を作っているうちに、Apple社は密かに万端の準備を整え、これまでとは全く異なった感覚と仕組みを持ったiPhoneを発表しました。MicrosoftのOSを使ったiPhoneに似た端末は台湾のHTCや日本の東芝から出ていましたし、携帯電話機の王者Nokiaの幾つかの機種や、RIM社のBlackberryは、欧米ではそれなりにある程度のユーザーの心をとらえていましたが、随所に画期的な工夫を凝らして丁寧に作りこまれたiPhoneに比べると、相当に見劣りがし、世界市場でiPhone人気が独走する状況が生まれました。
従って、日本でも、他の機種と異なり、「どうしてもiPhoneを使いたい」というユーザーにとっては、「代替品がない」という状況になったのです。(尤も、現時点では、Google社のアンドロイドOSが完成度を高めてきたので、これを利用した機種が、HTC、Motorola、Samsung、LG、Sony Ericsson等の各社から次々に発売される状況になってきており、「iPhoneの一人勝ちもそんなに長くは続かないのではないか」という見方をする人達も
多くなってきています。)
さて、古今東西を問わず、この様な圧倒的に強い商品が出現すると、その販売権を巡って熾烈な競争が起こるのは、至極当然のことです。そして、この競争の中で、日本市場向けには、ソフトバンクが一定の条件下での実質的な独占権を獲得しました。Apple社が求めるのは当然売り上げの最大化ですから、ソフトバンクは、販売・サービス体制の整備から価格設定に至るまで、その目的を満足させる万全の条件を整えたのです。ネットワークカバレッジでの若干のハンディキャップを補う為に、相当の無理をしなければならなかったであろうことも、当然想像され得ます。
こうなると、どうしてもiPhoneが欲しい人は、カバレッジなどの問題には多少目をつぶってでも、ドコモからソフトバンクに乗り換えざるを得ないことになります。或いは、「ドコモの端末はそのままキープするとしても、それはどうしても必要な電話の受発信に使うだけにして、他のことは殆どiPhoneでやる」ことになります。
ソフトバンクは、勿論、その事を十分考えた上で収支計算をしているわけですから、この効果を減殺する「SIMロック解除」等をするわけはありません。そんな事をすれば、収支計算の基本が崩れ、価格政策や販売・サービス体制を根底から見直さなければならなくなるからです。(そして、これは、販売量の減少につながりますから、Apple社としても好ましくはないことでしょう。)
この状況下で、販売権の争奪戦には敗れたものの、「iPhoneへの既存顧客の執着を恐れ、iPhoneが生み出す多額の通信料収入を諦め切れなかった」ドコモは、総務省に働きかけ、「政治的な力でソフトバンクに『SIMロック解除』を強制して貰い、端末販売のコストを負担することなく何がしかの通信料収入を得る」という「美味しいシナリオ」を求めたのではないでしょうか?
勿論、これは「下司の勘ぐり」に過ぎないかもしれません。しかし、数ヶ月前の総務省(特にNTT出身の内藤副大臣)の異常な迄に性急な動きや、よく準備された「レッテル貼り」型のキャンペーン、それに、今回の不思議なタイミングでの「全機種SIMフリー宣言」を繋ぎ合わせて考えてみると、この解釈が、何となく納得できるような「謎解き」に見えてくるのです。
同業者としての私は、勿論、この様な「勘ぐり」が当たっていないことを願っています。「競争」はオープンに正々堂々とやるべきです。現実に、ソフトバンクは、ユーザーの不満を解消する為の「ネットワークカバレッジの充実」に現在必死で頑張っていますし、世界中の他の通信事業者とは比べ物にならない位の技術力を持つドコモは、日本メーカー等を助けて、「iPhoneに負けないような高性能の端末機」を生み出すことに注力されるべきでしょう。
業界として総務省の介入を求めるのは、「光の道」のような「大規模な国家プロジェクト」の場合や、「公正競争の実現」の為にそれが不可欠である場合に限るべきです。それ以外のケースで各通信事業者の利害が相反する場合は、先ず業界内部でよく話し合い、その上でどうしても必要と判断された時に、はじめて総務省に相談するべきでしょう。


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