あなたの海外口座、抑留中? - 矢澤豊

2010年07月22日 01:19

参院選を終えて、アゴラ論客の皆さんが日本の将来を、知的かつ高尚なレベルで遠望、焦慮 しているこのタイミングに、いささか卑近なトピックで恐縮なのですが、なんらかの啓蒙、警鐘になればと思い、あえて「ご注進エントリー」をアップさせていただきます。


一時期、日本の「小富豪」たちの間で、香港やシンガポールで銀行口座を開設することが大流行したらしいです。「らしい」というのは、私としてはうわさに聴いていいたていどにすぎないからです。伝え聞くところによれば「HSBC(香港上海銀行)口座開設ツアー」などというのもあったとか。まだあるのでしょうか。

その後、「お上」から内々の「指導」(*1)があったらしく、HSBCやスタンダード・チャータード、シティなど、香港を代表する銀行では、「香港の居住者でなければ口座開設は不可」というのがデフォルト対応になっているようです。しかし、なかには担当行員との個人的なつながりを有する紹介者に、しかるべき手数料を払って、口座開設を行っている方もおられるようです。

きらわれている日本人

私はべつに「海外口座なんか開けるな」とは申しません。むしろ海外事情、とくにお金回りの事がらに疎すぎる日本人が、積極的に海外投資、海外資産運用に興味を持つことはいいことだと思っています。

またこうした「海外口座開設お手伝いビジネス」に従事されている同胞日本人の皆さんが100%「いかがわしい」とは限りません。実際、そのようなお仕事をされている方を何人か存じ上げていますが、それぞれに立派な「志」をもって、海外で一旗挙げられた方たちで、私も個人的に尊敬しているお方もおられます。

しかし悲しいまでに「世間知らず」な日本人が、カモがネギしょって、ごていねいに土鍋までかついできている風体で、香港・シンガポールくんだりまでやってきている姿をみていると、おせっかいの老婆心は百も承知、二百も合点ながら、一言ご忠告してさしあげたいのです。

あくまでも一般的、かついささか乱暴な発言であることを断っておきますが、はっきり申し上げて、個人でやってこられる日本人の皆さんは、こちらの銀行にとってはどちらかといえば「招かざるお客様」なのです。

まずは英語がままならない。口座開設がご本人の意志なのか、直接確認できない。「口座開設の目的は?」と尋ねると、

「たっくす、たっくす!」

...だ、脱税...ですか?

最初から脱税幇助では、銀行としてもフォローのしようがありません(*2)。おっしゃりたいことはイタイほど分かりますが。

以前も申しておりますが、「脱税」はハナから問題外として、「節税」というものは、「いかに税金を払わないで済ませるか」、ということよりも「いかにして最小限を払うか」と捉えられた方がよろしいかと思います。

そして、日本人のお客様は、たいてい数百万円からという、銀行側としては非常にビミョーな金額をお預けになり、銀行側がすすめる金融商品や保険商品には見向きもせずに、インターネットを通じてせっせとご利用されます。

最近では 関係官庁(香港では HK Moentary Authority、香港金融庁、シンガポールではMonetary Authority of Singapore、略してMAS、つまりシンガポール金融庁)から、不審な活動がみられる口座は即凍結、報告せよと通達がきていますので、銀行側としては、できれば口座開設者に直接確認をとりたいのですが、連絡しても、

「なんか変な電話/手紙がきているわ...」

天下のホンシャン(HSBC、香港上海銀行の別(蔑?)称)も、日本では「オレオレ詐欺」とあまり変わらないという、笑えない状況に。

要注意パターン

一番大切なのは、銀行側とのコミュニケーションを常に潤滑に行うことですが、念のために、私がインサイダーから聞いた銀行側が特にきらう海外口座利用パターンのいくつかを以下に。

1.不特定多数の口座から入金がある
もぐりファンド?

2.大きな入金のあった直後に不特定多数の口座へ送金がおこなわれる
洗濯...ですか?

3.お金が入ると、すぐに送金
これも洗濯のニオイ。

4.お金が入ると、必ず一定の割合を差し引いた金額が別口座に送金される
まず間違いなく洗濯屋さん

日本人の皆さんは香港、シンガポールといいますと「いかがわしい」、「あやしい」、「なんでもあり」といったイメージをお持ちかもしれません。しかし、国際金融の荒波にさらされつづけているこれら二大アジア金融都市では、リテール銀行の窓口業務とは申せ、非常に高いコンプライアンス意識をもって仕事に臨んでいます。かえって、ペットのワンちゃん名義でマル優口座を開けてもらっていた過去を体験している世代が、支店長レベルに達している日本の銀行の方が、ガードは甘いと言えるかもしれません。あまりナメてかかっていると、お金が動かせなくなってしまいます。一度口座ロックされた人はブラックリストに載ってしまいますので、あっというまに身動きがとれなくなってしまいます。

そして残留孤児となる

私自身は、個人のお客様は皆無であり、日本人のお客様もそう多くはない状況ですので、こうした海外口座にかかわるトラブルのお話は伝聞にすぎないのですが、実際によくあるお問い合わせは、

「主人がなくなったのですが、海外口座の解約の仕方がわからなくて...」

というようなご相談です。

ご本人に死ぬ気はなくとも、税金同様、寿命というのも逃げ切れないものです。

遺族の方々におかれては、ただでさえご心痛のところ、勝手の分からぬ海外でのお金と相続問題ということで、はかないツテをたどってご相談にこられたのですから、こちらとしてもなんとかしてさし上げたいのはやまやま。しかし、手続きに時間とコストがかかるお話です(相続は日本においては原則お役所への届け出ですみますが、香港では必ず法廷を通さなければなりません)。また遺族の方々の間をまんべんなく気配りした上で遊泳しなければならない仕事を、本業の片手間にできるはずもなく、たいへん心苦しいのですが敬して遠ざけさせていただいています。(こちらの口座開設ビジネスの皆さんには折りをみて、相続サービスビジネスの立ち上げをすすめているのですが。)

生前にご相談いただいていれば、口座を共同名義にするとか、香港の資産に関する遺書を作成し相続執行人を任命するなど、適宜に準備をしておけばいい話なのですが、残念ながら「備えなくして憂いだけ」というのが大多数というのが、わたくしの実感です。

「新之助さん、散歩ついでに富士山に登ったってぇ人はいねぇですよ。」(「浮浪雲」)

たしかにこうしてみると、いろいろめんどうなことの多い海外口座ですが、少しその気になって勉強し、言葉の障壁さえ乗り越えれば、国内運用に比してより大きな利益を生む可能性があることも、また真実です。

個々の日本人が、世界的スケールの投資家としての視野持たなければならないことは歴史の必然です。ハナから「犯罪」を犯そうというのでなければ、上記したようなリスクの克服は、ようするに「やる気」の問題なのです。

昨年あたり、懐古趣味におちいった日本では「額に汗して」という言葉が、半分スローガン化し、投資ファンドなど、金融ビジネスを軽視する風潮が流行っていました。しかし世界の金融ビジネス事情に通じることも、これまた「額に汗する」にたる仕事です。

海外旅行の遊びついでにコソコソとやるのではなく、そろそろ本気で取り組んでみてはいかがでしょうか。

追記:香港、シンガポール当局は、不正なお金の流れに非常に敏感になっています。そこで、もし万が一、アゴラ読者諸賢中、あやしげな投資話にのっかってしまい、トラブっている方がおられましたら、またそこで香港、シンガポールの銀行口座が関係しているのであれば、

「取引先銀行に口座凍結を請求するぞ」

というのもかなり有効な交渉スタンスであるということを申し添えておきます。

*1: うわさ話に過ぎませんが、香港・シンガポールにある日本人名義、もしくは日本人関連の銀行口座で、数千万円単位の動きはすべてキャッチされており、億以上のお金の動きはすべて筒ぬけというのは常識、といわれております。

*2:1990年代後半の話ですから、最新の情報ではありませんが、英米法ではconstructive trustの延長線上の解釈で、銀行が口座に対して信託受託者の立場にあり、したがって善管注意義務(fiduciary duty)を負っている、という判例があります。これでロシア・マフィアの資金洗浄に利用されたアメリカの銀行がやられています。銀行側としても神経質にならざるを得ない状況にあるのです。

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