人や会社が日本を捨てて税金の安い国に出ていくのは真に愛国的な行動である - 藤沢数希

藤沢 数希

21世紀はアジアの時代だと言われている。中国はもちろん、シンガポール、香港、韓国、台湾などアジアの国々は急速な経済成長を続けている。世界の多国籍企業もアジアを最重要マーケットと捉え、積極的に経営資源と投入している。アジアは間違いなく世界の成長センターなのだ。ただし日本を除いて


そのような中で、アジアのこれらの国々の政府は熾烈な人材獲得合戦、企業の誘致合戦を繰り広げている。シンガポール政府などは著名な企業家や投資家に対して、政府高官が自ら赴き移住の勧誘をしたりしている。しかしこれらの優秀な人材や優良企業の獲得競争の最重要な要素は税金である。税金でもとりわけ重要なのが高額所得者に対する所得税と法人税だ。各国が競って高額所得者や企業に対する税金をどんどん安くしているのである。

日本は国内のマーケットが比較的大きく国内だけでまだ食っていけるし、また言語などの文化的な障壁も高いので、今のところそれほど多くの人材や企業が海外に流出していない。しかし金融やITなど国際標準化が進んでいる業種ではかなり急速に東京から香港、シンガポールに流出している。またアジアに進出してくる多国籍企業のアジア拠点は、最近では東京ではなく香港やシンガポールに設置されるケースが圧倒的に多い。日本の大企業も当然、少しずつアジアに拠点を広げようとしている。いずれにしても、人口が減ってマーケットが縮小し、圧倒的に高い法人税、懲罰的な高額所得者に対する所得税を科している日本からは遅かれ早かれ優秀な人材や会社は出ていくだろう。それがゆっくりした変化であれ、急速な変化であれ。

このような激烈なアジアの租税競争において法人税や高額所得者に対する税金は最終的には下がるところまで下がっていく。そうしないと優秀な人材も企業もリテインできないからだ。しかし政府はインフラストラクチャーを整備し、洗練されたフェアーな司法制度を保持し、治安を維持しないといけない。そのためには税金が必要である。そういった社会の基盤が整備されていないところでは、人も企業も安心してビジネスができない。税金は安くなるところまでは安くなるが、あるところで限界があるはずである。そうすると各国政府に民間の会社にとっては当たり前に競争原理が働くのである。つまりなるべく税金を安くして、その限られた税収の中で政府は最大限に効率的にお金を使って良質な社会インフラを構築しないといけないのだ。政府の無駄をなくすという極めて当たり前のことが否が応にも実行される。さもなければ競争に敗れるだけだから。

このようなコンテクストから考えると、高額所得者や日本の優良企業がどんどん日本を捨てて海外に出ていくということは、長期的には大いに日本のためになるはずである。日本のラーメン屋がなぜみんな安くて美味いかというと、まずかったら客が二度といかないという単純な理由からだ。税金を安くして、最大限に効率的な政府を作らないと、どんどん富が流出していくとなると、政治家や官僚、また彼らを直接的、間接的に選ぶ有権者には大いにプレッシャーになるだろう。だから筆者は各国政府の租税競争は非常に素晴らしいものだと思っている。ダメな政治しかしないのに高い税金を請求するような堕落した国からはすぐに出ていくのが真に愛国的な行動なのである。

コメント

  1. shin_jpn より:

    人々に「愛国的な行動」なんかの倫理を期待しなくても、「人々の欲望の原理でちゃんと上手くいく」ことこそがマーケットメカニズムの真骨頂であるはずなのに、それを理解している藤沢氏が、このような倫理に軸足を置いた主張をするのは違和感があります。
    結論としては間違っていないと思うのですが、「マーケットメカニズムで上手くいくから、駄目な国だと思ったらがんがん脱出しなさい」とだけ言っているのが資本主義者としての堂々たる態度かと。

    まあ、それじゃあ、当たり前すぎてエントリーにならない、というだけのことかもしれませんし、余計なお世話かもしれませんが、普段の藤沢氏の主張を知っている人間であればあるほど、単なる「説得のための話法」に堕したかえって説得力のないエントリーに見えかねないか、と。

  2. izumihigashi より:

    一見、売国行為に見えて実は極めて真っ当な愛国行為。
    なるほど、まさにその通り。

    日本の政府が非効率なのは、おとなしい高額所得者に対する甘えがあるからなのか。

  3. jazzo より:

    外資系に務めているサラリーマンです。

    ここで書かれている「お金持ち」というのは、「ちゃんとお金が稼げる人」、特に、「国外からもお金を持ってこれるグローバルに活躍できる人・企業」を指しているのだと思います。
    そういう人が国を豊かにする原動力となるのでしょう。

    一方で、身近にいるような、不動産を持ってたり、地方自治体からの請負の仕事をして、日本国内で「小金持ち」になられた方々は、ここの「お金持ち」には含まれておらず、当然、国外に出たりされないと思います。

    今のグローバルでうごめいているビジネス・ゲームのルールを早く理解して、この国が少しでも豊かな方向に向かえばと思います。

  4. oppekepeppe より:

    グローバル化する世界で経済成長を実現するには、割高な法人税を引き下げて、国際競争力を強化すべきだという主張がある。この議論は本当に正しいのだろうか。
    日本の法人税の実効税率は、米国と同程度だが、英独仏や中韓よりは高い。ただ国際競争力への影響は、法人税に社会保険料を加味した「公的負担」でみるべきだ。財務省の資料によれば、公的負担は自動車、電機、情報サービスいずれの産業でも日本より独仏の方が重い。英米の自動車、電機産業の公的負担は日本より軽いが、国際競争力は弱い。米国の情報サービス業は競争力が強いが、その公的負担は日本より重い。また、税務会計学の権威である富岡幸雄氏によれば、法人税は課税ベースの侵蝕化(徴税漏れ)が著しく、特に大企業の実際の負担率は法定税率よりはるかに低い。

     つまり、日本企業の公的負担は欧米より重いとは言えず、公的負担の軽さと競争力とが一致しているとも言えない。国際競争力は人件費、労働力の質、インフラ、為替レートなどの要因から総合的に決まる。法人税はその要因の一つに過ぎない。仮に、法人税減税が国際競争力を強めたとしても、不況からの脱出につながるのかは、極めて怪しい。経済のグローバル化によって、企業の国際競争力の強さと一国の豊かさが一致しなくなってきたからだ。

  5. nnnhhhkkk より:

    >4
    福祉の公的負担も従業員の給料も同じ固定費です。
    福祉負担が増えれば給料が下がるだけの話です。
    公的負担が増えて利益が減ったり赤字になったらリストラや昇給が見送られるのは言うまでもありません。
    それに大企業にはまだ残っている公的負担とは別の企業年金は当然含まれていない数字なので比較できません。
    それにしても三橋さんの公共事業原理主義のための理屈には呆れますね。

    アメリカはその他州によっていろんな控除もありますし、公的補助もあります。
    工場建設に1000億円も無償で補助が出るなんてこともありましたが、日本でそんな話聞いたことがありません。
    エルピーダが日本を諦めて台湾に工場を作ったのは法人税が高いからです。
    法人税が高いために1兆6000億円の投資が台湾に逃げ、雇用機会も失われたのです。
    雇用の質だって、その多くは仕事をしながら向上するものです。
    日本に仕事が無くなれば労働者の質も落ちて行きます。
    人件費も上昇した今、国内でしかできないサービス業を除けば資本集約型中心でいくしかありません。
    世界が経済的に開けているからこそ現金が手元に残る税制にしなくてはなりません。
    国が分捕って使ってもろくなことに使わないのは小渕内閣の大失敗が見事に証明しております。
    三橋さんからすれば小渕内閣は成功らしいですが、目先しか見えない近視眼的輩の戯言にすぎません。

  6. 元気で健康で優秀な人材は租税競争とやらで,税の安い国へどんどん逃げてください。その代わり病気になってお払い箱になっても,おめおめと日本に戻ってきて日本社会のセーフティネットに頼るのはNGです。もちろん税の安い国の社会で死ぬまで面倒をみてもらってください。いつまでも末永くご健勝をお祈りします。