モバイルマルチメディア放送で免許を二つ交付せよ 山田肇

山田 肇

VHF帯を用いるモバイルマルチメディア放送の受託放送事業者を選定する作業が、池田信夫氏が『電波社会主義の断末魔』で詳しく説明しているとおり、混迷を極めている。総務省は公開・非公開のヒアリングを繰り返してきたが、再度7月27日に公開説明会を実施すると発表した。

この混迷から抜け出すには電波オークションを実施するのが一番よい。年商数百億円という規模の小さなビジネスだから、落札価格が高騰する危惧もない。さすがに時間的に間に合わないので実際には無理だから比較審査方式によらざるを得ないとしても、なぜ「一社」だけ事業者を選定しなければいけないのか、もう一度考えてはどうか。


今、俎上にある二つの方式ならば、14.5MHzを一気に使わなくても、マルチメディア放送が十分に可能である。なぜ最初から事業者を複数選定するという方針がとられなかったのだろうか。

事業者数を決めたのは、第952回の電波監理審議会である。議事要旨には三つの理由が次のように書かれている。

・最終的に委託放送事業者や視聴者から回収されることとなる全体としての設備投資額の抑制を図れること
・実際のサービスに使用される技術方式が1方式に統一されることにより、視聴者がより多くの放送番組を受信できること
・委託放送事業者間の公正な競争環境の整備を図ることができること

これに加えて「参入希望調査の結果を踏まえ、総合的に勘案した結果、申請することができる周波数の帯域幅を14.5MHzとする、つまり、受託放送事業者の参入枠を1者とする」としたのだそうだ。

この決定には多くの疑問がある。もっとも気になるのは「参入希望調査の結果を踏まえ」という部分である。参入希望者に話を聞いたら「独占したい」と言っていた、という意味だろうが、市場を独占する機会を逃す必要はないから、参入希望者が「競争したい」というはずはない。公正取引委員会を差し置いて、総務省が主体となって通信市場に対する独占規制施策を展開してきた。その基本は競争の促進にあったはずだが、事業者の意見を聞いて独占を認めるというのは反対向きではないのか。総務省はいつから市場独占を許容する方針に変わったのだろうか。

二つの事業者を選定すれば、サービス価格も競争的に決めざるを得ない。その際、もっとも重要なのはこの価格で利用者が集まるかであって、「設備投資額」ではない。気のきいたメーカーなら両方式をまとめて1チップLSI化するだろうから、携帯電話一つで両方式の番組を受信できるようになる。「技術方式が統一」できなかったDVB-T・DVB-H・ISDB-Tなどについて、1チップで対応する受信用LSIが発売されている状況を直視すべきである。

「委託放送事業者間の競争」というのは、受託放送事業者に選んでもらうために委託放送事業者間に競争が起きる、という意味だろうが、もし総務省がそう考えているのであれば、今、受託放送事業者として応募している者に民間放送局が資本参加していることをどう評価すればよいのであろうか。マスメディアの集中排除原則に反するのではないのか。百歩譲って放送局による資本参加を許容しても、二事業者を同時に選定すれば、放送系と非放送系の二種類のコンテンツから利用者が自由に選択できる状況が生まれる可能性がある。

説明してきたように、電波監理審議会の結論を見なおして二事業者に免許を与えることにすれば、混迷から直ぐに抜け出せる。総務省はピンチをチャンスに変えることができるだろう。